剣士に扮した男爵令嬢は、幽居の公子の自由を願う

石月 和花

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24. 初めての舞台鑑賞

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 中央広場に設営された劇団のテントの入り口には既に多くの人が集まって入場待ちの列を形成していたので、アンナとルーフェスもその列に加わって入場の順番を待った。

「それにしても、凄い人気だね。」
「そうでしょう?だって凄く素晴らしい劇なんですもの。このチケットだって中々手に入らないのよ。」

 周囲の人の多さに驚いて思わずルーフェスがそう漏らすと、アンナは友人の劇団の人気が、自分のことのように誇らしく、少し得意げになったのだった。

「ふふっ。それは、楽しみだな。」

 嬉しそうに語るアンナを見て、ルーフェスもふわっとしたいつもの柔らかい笑みで答えた。

 彼への特別な感情を意識してからは、この笑顔を向けられるとアンナはドキドキしてしまい、気恥ずかしくて直視出来なかったが、今は少しでもこの笑顔を覚えておきたくて、微笑む彼に面と向かって、自分も楽しみであると微笑み返したのだった。

 程なくして順番が来て、アンナとルーフェスはテントの中へと入った。

 そして始まった、一時間半の素敵なショータイム。

 上演されている劇は、エミリア演じる歌姫はその国の皇子に見染められ婚姻を迫られるが、彼女には既に将来を誓い合った恋人がいるので、なんとかして皇子の求婚を振り切ろうと、試行錯誤する様を描いた恋愛喜劇であった。

 そして最終的には、国民全体を巻き込んで、歌姫と恋人との結婚式を全国民の前で実行し、民衆が証人となって彼らを祝福する事で、国民からの世論を大切にする国王が、二人の婚姻を認めて大団円となるのだ。

 物語は、歌や踊りを交えながら、時にコミカルに、時に感動的にテンポ良く展開されていく。

 絢爛な舞台の上で、艶やかな衣装を観に纏った演者達が舞う姿は観客を魅了し、物語の世界に引き込んで最後まで離さなかった。

 瞬きすら忘れる程に、あっという間に時は過ぎたのだった。



 終幕を迎えカーテンコールが始まると、舞台にふたたび現れた演者達を称える観衆の割れんばかりの拍手でテントの中は熱狂に包まれた。

「どうだった?」

 アンナは他の観客と同様に演者達へ称賛の拍手を送りながら横に座るルーフェスの方へ向き、恐る恐る彼の様子を伺った。

「これは、たしかに凄いね……」
 舞台を見つめたまま、ルーフェスも演者達へ称賛の拍手を送っている。

「知識としては知ってたけど、演劇ってこんなに凄いんだね。物語自体も面白かったけども、何より、歌や踊りと融合させてこんな風に物語を演出して魅せるなんて素晴らしいね。歌姫のアリアも良かったし、ラストの群衆を巻き込んでのユニゾンは本当に圧巻だったよ。」

 彼は興味ある物を見つけた時の子供の様に目を輝かせて舞台上の演者達を見つめ、頬にも赤みを帯びていた。
 その様子から、ルーフェスの気持ちがとても高揚しているのが見てとれて、アンナはほっと胸を撫で下ろした。

 エミリアの劇は素晴らしい物だとアンナは思っているが、万が一、ルーフェスの好みに合わなかった場合は、彼に退屈な時間を与えてしまった事になるので些か不安ではあったのだが、それはどうやら杞憂に終わった。

「楽しかった?」
「凄く楽しかった!!誘ってくれて有難う!」

 アンナがそう訊ねると、ルーフェスは満面の笑みで答えた。その笑顔から彼が心から劇を楽しんでくれた事が伝わり、アンナも嬉しくなった。

「良かった……。私も凄く楽しかったわ。」
「アンナは以前にもこの劇観た事があるんじゃないの?」
「観た事はあるけれども、何度見ても素敵な物は素敵なのよ。」
「確かに……。歌と踊りだけでも独立してショーとして成立するくらいに素晴らしかったし、これなら何度見ても感動するかも。」

 子供のようにはしゃぐルーフェスに、アンナは嬉しそうに目を細めた。

「もう暫くここに居てもいいかな?この余韻にもう少し浸っていたいんだ。」
「ええ。勿論良いわよ。」

 アンナとルーフェスは暫くその場に留まって、中央の舞台を眺めながら他の観客達の熱気を感じていた。そこに会話は無かったけれども、二人の表情はとても幸せそうだった。

(良い思い出を有難う。)

 アンナは横に居るルーフェスをチラリと盗み見て心の中でそう呟いた。

 可能ならば、この満ち足りた気持ちがずっと色褪せぬ様に、箱にしまって鍵をかけて大事に大事にしまっておきたかった。
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