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32. 憔悴のアンナ
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診療所からアンナの家までは五分もかからない距離であったが、既に体力の限界を超えているアンナにはその道のりがいつもの何倍にも感じられた。
「ただいま……」
疲労でよろめきながらもなんとか家にたどり着いてゆっくりとドアを開けると、アンナの帰りを待っていたエヴァンが直ぐに出迎えてくれたのだった。
「姉さん!!どうしたの?!大丈夫?!!」
帰ってきた姉を見て、エヴァンは顔色を青くして声を荒げた。
髪に、顔に、手足に……あらゆるところに血が付着していて、それは大変恐ろしい見た目であったからだ。
「私は大丈夫、これ返り血だから。ちょっと疲れてはいるけどね。」
弟を安心させようと、無理にでも微笑んで見せたが、その疲労の色だけはどうしても隠す事が出来なかった。
「今日の仕事ってそんなに大変な依頼だったの?姉さんが無事でよかったけれども、そんな危険な仕事はもうやらないって言ったじゃないか!」
心配そうな表情で見つめてくる弟の頭を、アンナはぎこちなく笑って優しく撫でた。
「そうだよね、心配させてごめんね。」
「……何かあったの?」
姉の様子がおかしい事は一目瞭然だった。
エヴァンは、辛そうな表情で無理に笑うアンナの様子を気遣いながら、心配そうにそう問いかけたのだった。
「……私は無事なんだけども……、ルーフェスが、私を庇って、酷い怪我をしてしまったわ……」
アンナは悲痛な面持ちで震える声を絞り出して弟に状況を説明した。
血の気の無い顔で淡々と何があったかを話すアンナの様子は、エヴァンが今までに見たこともない程憔悴していてとても見ていられなかった。
そんな姉の言動から色々察したエヴァンは、何も言わずに家の奥へ消えて、それから直ぐに桶に水を溜めて戻ってきたのだった。
「あぁ、もぅ、時間が経ってるから中々落ちないよこの返り血。髪にこびりついたのとか何回も洗わないと取れないんじゃないか。」
今にも泣きそうになっているアンナの顔を、エヴァンは水で濡らしたタオルで強く拭いた。
「ほらっ、とりあえず身体を拭いて、着替えよう?姉さんは今自分がどんな姿か分かってる?服だけじゃなく、髪とか顔とか手にまで血がこびり付いていて、とても見れたものじゃないよ。」
「分かった、分かったからエヴァン。自分でやるから。」
姉を心配して強引に顔を拭く弟から水の入った桶を受け取ると、とりあえずアンナは自室に戻って、言われた通りに体についた血を拭った。
脱いだ服や防具を改めて見ると、至る所にエンシェントウルフの爪痕が残り、血がこびりついたその服はとても酷い状態だったし、濡らした布で顔や手を拭ったが、髪にこびりついた血だけは、強く擦っても中々落ちてくれなくて、この見た目では弟が心配するのも無理は無いなと申し訳なく思った。
ある程度見綺麗に出来たところで、アンナは居間へと戻った。そして不安そうに待っていた弟にあるお願いを切り出したのだった。
「あのねエヴァン、診療所で今ルーフェスを治療して貰ってるんだけど、あそこは怪我人を寝かせておけるベッドが無いの。だから治療が終わったら、彼をこの家で介抱したいの。彼を家まで連れて来るのを手伝って貰えないかしら。」
姉が何かを頼むことなど滅多にないので、姉の頼みならば基本的になんでも聞いてあげたいとエヴァンは常々思っていた。
しかし、姉がする頼み事は、前回といい今回といい必ずこのルーフェスとか言う男性が絡んでいてエヴァンは複雑な気持ちになった。
とは言え、姉を庇って大怪我を負ったという人をこのまま放っておくわけにもいかないので、エヴァンは渋々ではあるがアンナのお願いを聞き入れたのだった。
「……分かったよ。それで、俺はどうすればいいの?」
「一緒に診療所に来て。そこで彼の治療が終わるのを待って、それから家まで運ぶのを手伝って欲しいの。」
「了解。」
エヴァンは複雑な気持ちでそう返事すると、アンナと一緒に診療所へと向かった。
二人が診療所へ着いた時には既にルーフェスの治療は終わっており、彼は包帯を巻かれて診察台の上に横たえられていた。
けれども、意識はまだ戻っていなかった。
アンナは町医者に何度もお礼を言うと、エヴァンと二人でルーフェスの両脇を抱えて、ゆっくりと彼を自宅へと運んだ。
そして自分のベッドにルーフェスを横たえるとアンナは緊張の糸が切れたのか、その場にへたり込み、途端に動けなくなったのだった。
「姉さん。」
エヴァンに呼びかけられるも、アンナは応えることが出来ずに、ただ目の前で横たわるルーフェスを見つめていた。
「姉さんっ!!!」
弟に強めに肩を揺さぶられ、ようやくアンナは我に返った。
「そうだ、夕飯の用意しなくちゃね。エヴァンお腹空いてるでしょう?待たせてしまってごめんね、直ぐに支度するわ。」
「姉さん、そういうのいいからっ!!まずは自分が休んでよ。俺のベッド使って良いからさ!」
憔悴しきった姉の姿はとてもじゃないが見ていられなかった。エヴァンは無理矢理にでも彼女を休ませようとするも、アンナは首を縦に振らなかった。
「有難う。でもそれなら…私はここに居たいわ…。彼の容態をみていたい……」
「そうだとしても、その間はじゃあ俺がここに居るから、姉さんは、少しは自分を労って!!」
そう説得しても頑なにこの場を動こうとしないアンナにエヴァンはため息を吐くと、今度は隣の自分の部屋からマットレスを引っ張ってきて、説得を続けた。
「……せめて、ちゃんと休んで。」
そう言ってアンナの足元にマットレスを置くと、それ以上エヴァンは何も言わなかった。
「有難う……少し休ませてもらうわね。エヴァンの夕ご飯は……」
「大丈夫!もう小さい子供じゃないんだからそれぐらい自分で何とかするよ!だから姉さんはしっかり休んで!」
そう言ってエヴァンは、半端強引にアンナを休ませたのだった。
「ただいま……」
疲労でよろめきながらもなんとか家にたどり着いてゆっくりとドアを開けると、アンナの帰りを待っていたエヴァンが直ぐに出迎えてくれたのだった。
「姉さん!!どうしたの?!大丈夫?!!」
帰ってきた姉を見て、エヴァンは顔色を青くして声を荒げた。
髪に、顔に、手足に……あらゆるところに血が付着していて、それは大変恐ろしい見た目であったからだ。
「私は大丈夫、これ返り血だから。ちょっと疲れてはいるけどね。」
弟を安心させようと、無理にでも微笑んで見せたが、その疲労の色だけはどうしても隠す事が出来なかった。
「今日の仕事ってそんなに大変な依頼だったの?姉さんが無事でよかったけれども、そんな危険な仕事はもうやらないって言ったじゃないか!」
心配そうな表情で見つめてくる弟の頭を、アンナはぎこちなく笑って優しく撫でた。
「そうだよね、心配させてごめんね。」
「……何かあったの?」
姉の様子がおかしい事は一目瞭然だった。
エヴァンは、辛そうな表情で無理に笑うアンナの様子を気遣いながら、心配そうにそう問いかけたのだった。
「……私は無事なんだけども……、ルーフェスが、私を庇って、酷い怪我をしてしまったわ……」
アンナは悲痛な面持ちで震える声を絞り出して弟に状況を説明した。
血の気の無い顔で淡々と何があったかを話すアンナの様子は、エヴァンが今までに見たこともない程憔悴していてとても見ていられなかった。
そんな姉の言動から色々察したエヴァンは、何も言わずに家の奥へ消えて、それから直ぐに桶に水を溜めて戻ってきたのだった。
「あぁ、もぅ、時間が経ってるから中々落ちないよこの返り血。髪にこびりついたのとか何回も洗わないと取れないんじゃないか。」
今にも泣きそうになっているアンナの顔を、エヴァンは水で濡らしたタオルで強く拭いた。
「ほらっ、とりあえず身体を拭いて、着替えよう?姉さんは今自分がどんな姿か分かってる?服だけじゃなく、髪とか顔とか手にまで血がこびり付いていて、とても見れたものじゃないよ。」
「分かった、分かったからエヴァン。自分でやるから。」
姉を心配して強引に顔を拭く弟から水の入った桶を受け取ると、とりあえずアンナは自室に戻って、言われた通りに体についた血を拭った。
脱いだ服や防具を改めて見ると、至る所にエンシェントウルフの爪痕が残り、血がこびりついたその服はとても酷い状態だったし、濡らした布で顔や手を拭ったが、髪にこびりついた血だけは、強く擦っても中々落ちてくれなくて、この見た目では弟が心配するのも無理は無いなと申し訳なく思った。
ある程度見綺麗に出来たところで、アンナは居間へと戻った。そして不安そうに待っていた弟にあるお願いを切り出したのだった。
「あのねエヴァン、診療所で今ルーフェスを治療して貰ってるんだけど、あそこは怪我人を寝かせておけるベッドが無いの。だから治療が終わったら、彼をこの家で介抱したいの。彼を家まで連れて来るのを手伝って貰えないかしら。」
姉が何かを頼むことなど滅多にないので、姉の頼みならば基本的になんでも聞いてあげたいとエヴァンは常々思っていた。
しかし、姉がする頼み事は、前回といい今回といい必ずこのルーフェスとか言う男性が絡んでいてエヴァンは複雑な気持ちになった。
とは言え、姉を庇って大怪我を負ったという人をこのまま放っておくわけにもいかないので、エヴァンは渋々ではあるがアンナのお願いを聞き入れたのだった。
「……分かったよ。それで、俺はどうすればいいの?」
「一緒に診療所に来て。そこで彼の治療が終わるのを待って、それから家まで運ぶのを手伝って欲しいの。」
「了解。」
エヴァンは複雑な気持ちでそう返事すると、アンナと一緒に診療所へと向かった。
二人が診療所へ着いた時には既にルーフェスの治療は終わっており、彼は包帯を巻かれて診察台の上に横たえられていた。
けれども、意識はまだ戻っていなかった。
アンナは町医者に何度もお礼を言うと、エヴァンと二人でルーフェスの両脇を抱えて、ゆっくりと彼を自宅へと運んだ。
そして自分のベッドにルーフェスを横たえるとアンナは緊張の糸が切れたのか、その場にへたり込み、途端に動けなくなったのだった。
「姉さん。」
エヴァンに呼びかけられるも、アンナは応えることが出来ずに、ただ目の前で横たわるルーフェスを見つめていた。
「姉さんっ!!!」
弟に強めに肩を揺さぶられ、ようやくアンナは我に返った。
「そうだ、夕飯の用意しなくちゃね。エヴァンお腹空いてるでしょう?待たせてしまってごめんね、直ぐに支度するわ。」
「姉さん、そういうのいいからっ!!まずは自分が休んでよ。俺のベッド使って良いからさ!」
憔悴しきった姉の姿はとてもじゃないが見ていられなかった。エヴァンは無理矢理にでも彼女を休ませようとするも、アンナは首を縦に振らなかった。
「有難う。でもそれなら…私はここに居たいわ…。彼の容態をみていたい……」
「そうだとしても、その間はじゃあ俺がここに居るから、姉さんは、少しは自分を労って!!」
そう説得しても頑なにこの場を動こうとしないアンナにエヴァンはため息を吐くと、今度は隣の自分の部屋からマットレスを引っ張ってきて、説得を続けた。
「……せめて、ちゃんと休んで。」
そう言ってアンナの足元にマットレスを置くと、それ以上エヴァンは何も言わなかった。
「有難う……少し休ませてもらうわね。エヴァンの夕ご飯は……」
「大丈夫!もう小さい子供じゃないんだからそれぐらい自分で何とかするよ!だから姉さんはしっかり休んで!」
そう言ってエヴァンは、半端強引にアンナを休ませたのだった。
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