魔力が無いから王族とは結婚出来ないのに、王太子殿下が婚約者候補から外してくれません

石月 和花

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7. 初めての勝負

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「それで、アディルナ嬢。僕に『参った』と言わせたいみたいだけど、一体何で勝負するのかな?」
「えっ……?!」

 勢いで「殿下を負かしますわ!」と宣言したものの、いざロキシード殿下が期待に満ちた目でこちらを見つめてくると、私は一瞬で固まってしまった。

(えっ……今すぐ勝負する流れなの……?!)

 そんなこと、これっぽっちも考えていなかった。

 けれども、殿下はすっかりその気になっているみたいで、ここで「今日は勝負しない」と言ってしまったら、まるで敵前逃亡である。そんなことは私のプライドが許さなかった。

「そ……そうですわね……」

 私は、この事態を何とかしなければと必死に考えながら周囲を見渡した。

(何か、殿下に勝てそうなもの……何か……)

 すると、風に揺れる枝垂れ葉が視界に入ったのだった。

(……これだわ!!) 

 私はつい最近使用人の子供に教えてもらった遊びを思い出して、それを今日の勝負の内容にすることにした。

(……これはちょっとしたコツさえ知っていれば簡単に勝てるだし。平民の子供の遊びなど絶対に殿下はご存じないはずだから、この勝負、簡単に勝てますわ!!)

 私は、自信満々でロキシード様に勝負を持ちかけた。

「殿下、それでは本日は、”草相撲”で勝負いたしましょう」
「草相撲……?それは一体なんだい?」

 この提案にロキシード様は怪訝な顔をしていらっしゃったので、思った通り、殿下はこの遊びをご存知ないみたいだった。
 私は勝利を確信し、得意になって勝負内容の説明した。

「殿下、草相撲とは庶民の子供の間で流行っている遊びなんですが、名前の通り草を使いますわ」

そう説明しながら、私は許可を得て枝垂れた木の細長い葉を摘み取ると、二枚の葉を交差させて片方の葉の両端をロキシード様に持ってもらい、もう片方の葉の両端を私が両手で握った。

「いいですか?こうやってお互い手に持った草を絡ませて持って、引っ張り合って、相手の草を破いた方が勝ちですわ。簡単でしょう?」
「そうだね、明瞭でとても分かりやすいゲームだね」

 ロキシード様は、私の提案に好感触のようで、興味深そうに手に握られた草の葉を見つめていた。
 きっとこれから始まる勝負について、考えを巡らせているのでしょう。

 が、しかし。どんなに考えたところで、この勝負で勝つのは私なのである。
なぜなら、私は殿下が知らない必勝法を知っているから。

(これは……いきなり殿下に参ったと言わせてしまいますわね)

 私は既に勝った気でいて、とても強気な態度で殿下に宣戦布告をした。

「殿下、そうやって涼しい顔をしていられるのも今のうちですわ。私、このゲームで早速殿下を負かせてみせますわ!」
「おや、それは凄いね。」

 しかし、私がどんなに強気な態度をとって見せても、ロキシード様はまるで自分が負けるなどとは微塵も思っていない様子で、涼しげに微笑んでおられた。

(くっ……私のこと、侮っていらっしゃるわね。……いいでしょう、絶対に参ったって言わせるんだから!!)
 
 私は、そんな殿下の態度に対抗心を燃やし、勢いのままゲーム開始を宣言した。

「それでは殿下、始めましょう!いざ勝負ですわ!」
「うん、いいよ。それでは始めようか。」

 周囲の使用人たちが、私たちのやり取りを不思議そうに遠巻きに眺める中、私と殿下の記念すべき最初の勝負は始まった。

(このゲームで大切なのは……焦ってこちらから仕掛けないこと!!)

 私は心の中で教えて貰ったこのゲームの極意を繰り返した。

 このゲームは理由は分からないが強く引っ張った方が殆ど負けるのだ。今まで散々使用人の子たちと遊んできて、大抵この戦法で勝ってるので、今日もそれで行こうと決めていた。

 だから私は引っ張る振りをして、殿下が強く引っ張って自滅するのを待つつもりだった。

 しかし……

「……」
「……」

 どういう訳か、殿下も全く動かなかった。

(えっ……なんで殿下は動かないの?!)

 お互いが相手の出方を伺っているせいで、勝負は膠着状態になってしまった。
 私は自分の思い描いていたのとは違う展開に焦った。

「……殿下、どうして動かないんですの?!これ、引っ張り合う勝負だって説明しましたよね?!」
「え?だって、これ、強く引っ張った方が負ける可能性上がるよね?」
「ず、ずるいですわ?!殿下もこの遊びをご存知だったのですね!!」
「?いや?初めて見聞きしたけど、でも、ちょっと考えたらすぐ分かるよ。」

 なんとロキシード様は、私の説明だけでこのゲームの必勝法を見抜いたと言うのだ。
 まさか有り得ないと思ったが、殿下にはそれくらいの事は簡単にやってのける知識があった。

(そんな……そんなまさか……!)

 殿下の才力を目の当たりにした私は動揺で手元が狂ってしまった。そして気が付くと手元からプチッという鈍い音が聞こえたのだった。

「あっ……」

 見ると私の持っていた草は、見事に二分していた。

「これは……私の勝ちでいいかな?」
「く……悔しいですわ!!」

 あれだけ自信があったのに、あっさりとロキシード様に負けてしまった。

 私は不甲斐ない自分が恥ずかしかったが、けれども勝負は勝負である。潔く負けを認めるしかなかった。

「い、いいですわ。今日のところは私の負けを認めましょう。ですが、次こそは私が殿下を負かせてみせますからね!!」
「うん、それは楽しみだ。」

 私が悔し紛れに負け惜しみを言うと、ロキシード様は何故だかとても楽しそうに笑っていた。

 それはいつもの“作り物の笑顔”ではなく、年相応の少年らしい心の底から楽しくて笑っているような笑顔だったのが印象的だった。
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