魔力が無いから王族とは結婚出来ないのに、王太子殿下が婚約者候補から外してくれません

石月 和花

文字の大きさ
29 / 67

29. 新しいルール

しおりを挟む
「ロキシード様。今日こそ私を婚約者候補から外しませんか?いい加減、リリエラ様とローゼリア様のお二人に候補を絞るべきですわ」

 あの日以降、私はロキシード様とお会いする度に同じ言葉を繰り返していた。

 もちろん殿下の事は今もお慕いしているし、こうして月に何度かお会いできるのは嬉しかった。許されるのならば、この関係がずっと続いてほしいと願ってしまう自分もいる。

 けれど――私の中のもう一人の私が、それを許さなかった。

 ロキシード様は来週、十八歳の成人の儀を迎えられる。それなのに、未だに婚約者を決めておらず、歴代の王族は十五、六歳までに婚約者が決まる通例の中で、今の状況は異例だった。
 その事実が、黒龍復活の噂や、封印が掛け直されないことと重なって、民衆の間で不安が広がっていると知ってしまったから。

 だから、私個人の想いなんて、蓋をするのは当然だった。

「どうして、アディはそんなに僕の婚約者候補から外れたいの?」

 殿下はにっこりと微笑まれながら、私に尋ねた。
 けれど、その笑顔の奥に苛立ちが滲んでいるのが分かった。七年もの付き合いで、殿下の表情の微妙な変化も覚えてしまっていた。

 私がこの話題を出すたびに、笑って受け流している殿下であったが、日に日に不機嫌になっているのは気付いていた。けれども、私は進言を止めなかった。

「だって、私には魔力がないのですよ!それが分かった以上、他の高魔力の令嬢にその席を明け渡すのがこの国の為ですわ」
「国の為……ね。」

 殿下はぽつりと呟いて、露骨に面白くなさそうな顔をした。
 ここまであからさまに不機嫌を見せるのは珍しく、私は少し怯んだが、それでも言葉を止めなかった。

「えぇ。だってそうでしょう?殿下の配偶者となる人は高魔力者でなくてはなりませんわ。王家が高魔力の血族を後世に引き継ぐ――。それが黒龍からこの国を守る唯一の方法なのだから。」
「唯一の方法か……。本当に古臭いしきたりだよね。」

 私の話に、ロキシード様は随分と投げやりな態度だった。

 殿下には殿下なりの思うところがあって投げやりだったのかもしれない。だけれども……私は殿下のその態度が許せなかった。

 だって、黒龍の恐ろしさを私たちが物語でしか知らないのは、歴代の王族が命を懸けて封印を守ってきたからであって、その王家の慣習を『古臭い』と切り捨てるなんてあんまりだと思った。

 私が、この国の平和を後世に繋ぐために、胸が張り裂けそうな思いで身を引く覚悟をしたというのに、殿下がそんな態度では納得がいかなかった。

「古いしきたりでも大事なお役目です!それで国民が守れるのですから!!もっと真剣に考えてください!!」
「分かってるよ。僕だってちゃんと考えているよ。」

「それなら……」

 “私を候補者から外してください”
 そう続けようとした瞬間、殿下が間髪入れずに遮った。

「それは駄目。君を候補者からは外さないよ」

 まだ何も言っていないのに、何故私の考えが分かったのだろう。そんな風に私が訝しむ間にもロキシード様はしっかりと話を進める

「そもそも、アディは僕とこうして会えなくなるのは良いの?五年前はそれで泣いたじゃないか」
「それは……悲しいです。でも、私も成長しました。覚悟は出来てますわ!!」

 私はロキシード様を真っすぐに見つめた。普段は柔らかく微笑む殿下が、真顔で私を見返してくる。

 いつもなら恥ずかしくて直ぐに逸らしてしまう視線を、今日は逸らさなかった。

 どうしても伝えたい事があったから。

「ロキシード様。私、やりたいことが出来たんです。それで、その夢を叶えるには、殿下の婚約者候補のままだとちょっと都合が悪くって……」
「何だって?!」

 私がやりたいこと――それは、ロキシード様を支える女官になることだった。

 魔力を持たない私が、殿下の国造りに関わるための唯一の道。それが、今の私の夢になっていた。

 もちろん、侯爵家の娘が女官を志すなど前代未聞で、両親からは強く反対されている。けれど、魔力のない私が殿下のお側にいられる方法は、これしかない。

 だから私は、殿下を支えられるようにと、誰にも負けない覚悟で勉強に励んでいた。
 ――殿下には、まだ何も言わずに。

 だって、殿下に話してしまえば、きっと根回しをして私を女官にしてしまう。
それが優しさからだと分かっていても、それでは駄目なのだ。
 自分の力で女官にならなければ、私が本当にその役目を果たせる人間なのかどうか、分からなくなってしまうから。

 しかし、そんな私の事情を全く知らないロキシード様は、わずかに眉を寄せ、苛立ちを隠すような声で子供の頃の約束を問うのだった。

「……僕との約束は、反故にするのかい?」
「いえ、決してそういう訳では……むしろ、約束を守る為ですわ!」
「どういうことだい?」
「それは……まだ内緒ですわ!!」
「それじゃ何も分からないよ」

 殿下は静かに息を吐き、私の事をじっと見つめる。

「今は……今はまだ言えないのです!時期が来たら、ちゃんと話しますから!!」

 普段はにこやかな方だからこそ、真顔のロキシード様は少し怖かった。

 どんどん身を乗り出して顔を近づけてくるし、その圧に負けて全部話してしまいそうになる。

 けれど私は必死に堪え、殿下の追及にも頑なに口を割らなかった。

 すると殿下は、これ以上問い詰めても無駄だと悟ったのか、追及をやめて、代わりに一つの譲歩案を提示したのだった。

「まぁ……何度も言うけど、君を婚約者候補から外さないよ。でも……そうだな。もし君が僕に”参った”と言わせることが出来たら、何でも一つ言うことを聞いてあげるよ。例えば、婚約者候補を辞す事を許す。とかね。」

 殿下はわざとらしく肩をすくめ、挑発するように口元を上げた。
 まるで私の反応を試しているかのようだったが、私はその提案をすんなりと受け入れた。

「なるほど……つまりは勝負に勝たないとお話にならない。と言う事ですわね」
「なんか違う気がするけど、まぁ、それでいいよ」
「分かりました。このアディルナ全力で殿下を叩きのめしてみせますわ!!」

 かなり不敬なことを言っている自覚はある。
 それでも、そんな私をロキシード様はどこか嬉しそうに、柔らかな眼差しで見つめていた。

「殿下は、随分と余裕がありそうですわね」
「どうかな?君が相手だと結構必死だけどね」

 そう言って笑う殿下に、私は釈然としなかった。だって、いつも負けるのは私だったから。今だって、とても余裕そうに笑っているのだ。

 私はにこりと微笑み返して、静かに闘志を燃やした。今日こそは、絶対に勝つと。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。

秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。 「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」 第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。 着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。 「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。 行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。 「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」 「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」 氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。 一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。 慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。 しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。 「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」 これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

酔っぱらい令嬢の英雄譚 ~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~

ゆずこしょう
恋愛
婚約者と共に参加するはずだった、 夜会当日── 婚約者は「馬車の予約ができなかった」という理由で、 迎えに来ることはなかった。 そして王宮で彼女が目にしたのは、 婚約者と、見知らぬ女性が寄り添う姿。 領地存続のために婿が必要だったエヴァンジェリンは、 感情に流されることもなく、 淡々と婚約破棄の算段を立て始める。 目の前にあった美味しいチョコレートをつまみながら、 頭の中で、今後の算段を考えていると 別の修羅場が始まって──!? その夜、ほんの少しお酒を口にしたことで、 エヴァンジェリンの評価と人生は、 思いもよらぬ方向へ転がり始める── 2月11日 第一章完結 2月15日 第二章スタート予定

処理中です...