魔力が無いから王族とは結婚出来ないのに、王太子殿下が婚約者候補から外してくれません

石月 和花

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32. 成人の儀

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 ロキシード様の成人の儀は、王宮の大広間で高位貴族たちが静かに見守る中、厳かに執り行われた。

 この国の守り神であるイーオルヴ様の像へ宝剣を掲げ、真っ直ぐに誓いを捧げる殿下のお姿は、息を呑むほど凛々しくて、その瞬間をこの目で見られただけで、私は胸が熱くなるほど幸せだった。

 そして今、私はお兄様と共に、殿下の成人を祝して開かれた宮中晩餐会に出席している。煌びやかなシャンデリアの光が、集う貴族たちを照らし、祝宴のざわめきが波のように広がって、絢爛な宴を皆が心より楽しんでいた。

 そんな中、私は少し緊張をしていた。

 なぜなら、この後に殿下の婚約者候補として祝辞を述べるという、大役が私を待っていたから。


***


「ロキシード殿下におかれましては、御成人の儀、誠におめでとうございます。
 殿下の今後ますますのご健勝とご活躍を、心よりお祈り申し上げます。
 僭越ながら、私も殿下のお力になれますよう励んでまいります。
 私は回復魔法が使えますので、病や怪我に苦しむ方が一人でも減るように、この国の民を癒やすことで、殿下をお支えしますわ。」

 カラサリス侯爵家のリリエラ様が、先陣を切って挨拶に進まれた。

 彼女はお父上と並んで殿下の御前へと進み出ると、裾をふわりと揺らしながら優雅に腰を落とし、まるで儀式そのものを彩るような美しい礼を捧げられた。清らかな声で紡がれる祝福の言葉は清らかで、殿下の未来と国の繁栄を心から願う気持ちがそのまま形になったかのようだった。

 リリエラ様は、この国でも数少ない回復魔法の使い手として名高く、巷では“聖女”と呼ばれるほどの方だ。ゆえに、ロキシード様の婚約者候補として最も有力視されていた。

(……やっぱり、殿下のお相手はリリエラ様こそふさわしいのかもしれない……)

 慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、完璧な礼を披露するリリエラ様を眺めながら、私は胸の奥が少しだけきゅっと締めつけられるような感覚の中、そんなことをぼんやり考えていた。

 リリエラ様が殿下の御前から退かれると、次はフローゼル家のローゼリア様がゆっくりと歩み出られた。

 凛とした月光のような気高さをまとったローゼリア様は、リリエラ様とはまた異なる魅力を放っている。

「ロキシード殿下におかれましては、御成人の儀、誠におめでとうございます。
 殿下の今後ますますのご健勝とご活躍を、心よりお祈り申し上げます。
 僭越ながら、私も殿下のお力になれますよう励んでまいります。
 私は光魔法を扱えますので、暗い夜を怖がる方が一人でも減りますよう、この国を明るく照らすことで殿下をお支えできれば幸いに存じます」

 澄んだ声で堂々と祝辞を述べられたローゼリア様に、周囲の貴族たちは思わず息を呑んだ。
 しかし、彼女はそこで終わらなかった。そっと手をバルコニーの外へ掲げ、静かに呪文を紡ぎ始めたのだ。

 次の瞬間、幾千もの光の粒が夜空に舞い落ち、まるで昼間のように外が明るく照らし出された。

 その幻想的な光景に、会場内は大きなどよめきに包まれた。

(ローゼリア様は、人心掌握に長けていられますわね。リリエラ様の素晴らしい挨拶の後で、いとも簡単に人々の関心をさらってしまったわ。……こういうお方が王妃にふさわしいのかも……)

 またしても私は、そのような事を考えていた。

 会場が大きな拍手に包まれる中、私はお兄様と共に喧騒から一歩引いた場所で静かに佇んでいたが、拍手の波が引いていくにつれ、胸の奥がそわそわと落ち着かなくなっていった。

 リリエラ様、ローゼリア様と続いた華やかな祝辞の余韻が、まだ会場の空気に残っている中で、次はいよいよ私の番なのだ。

 私は無意識に、指先をぎゅっと握りしめていた。

「……どうしましょう。あのお二人の後に続くなんて……」

 不意に、そんな不安の声が漏れてしまった。

 すると、私の隣に立っているお兄様が、とても優しく肩に手を添えて、そっと囁きかけてきたのだった。

「アディルナ……あの二人の後で殿下に挨拶をするのは辛いかもしれないが、今のお前はまだ殿下の婚約者候補の一人だ、立場上どうしても避けられない。……嫌な思いをさせるのはとても心苦しいが、頑張れるかい?」

 お兄様は、リリエラ様やローゼリア様のように誇れる魔法を持たない私が、周囲に比較されてしまう事を気にされて、励ましてくださったのだ。

 ……が、しかし。私にとってそこは問題ではなかった。

 私にとっての問題は、もっと別の事なのだった。

———

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