魔力が無いから王族とは結婚出来ないのに、王太子殿下が婚約者候補から外してくれません

石月 和花

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50. 夜襲

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 もう一つの懸念事項。

 私はリリエラ様の本性について頭を悩ませた。

(リリエラ様は駄目だわ……殿下に……やがて王妃となる方にふさわしくない。このことは、早く殿下に知らせないと……)

 でもどうやって?
 今の私は、ただのアルナであって、侯爵令嬢のアディルナではない。こちらからロキシード様に話しかけるなど出来なかった。

 気が付くと辺りはすっかり暗くなっていて、ポツリ、ポツリと雨も降り出していた。

 ヴェノムラビットの襲撃で、予定を変更して本日はこのままこの場所で野営をすることになったので、周囲ではかがり火が灯り野営の準備が始まっていた。

 私は何も案が浮かばないまま、とりあえず殿下の天幕の周りをウロウロしていた。

(どうしましょう、いっそ私がアディルナであることをバラしたら話を聞いてくれるかしら?でも……そうしたらきっと、遠征には連れて行ってくれないわ)

 雨脚がどんどん強まる中、私は当てもなく天幕の前を行ったり来たりしていた。

 すると、幸運なことに偶然天幕の入り口が開いて、中からロキシード様が出てきたのだった。

「アルナ?こんなところで、何をしているんだ?濡れているじゃないか」

 殿下は、雨に濡れている私をとりあえず中に入るようにと、天幕の中に引き入れた。

「こんなに濡れて……随分長い間あそこに居たのかい?」
 
 天幕の中に入ると、直ぐに殿下は自分の外套を外し、私の肩にかけてくれた。
突然の行動に、私は思わずその場で固まってしまった。

「殿下のお召し物が濡れてしまいます!」
「構わないよ。それで、どうしてあそこに居たんだい?」

 殿下の優しいまなざしに、私は一瞬言葉に詰まった。

 だって私が今から伝えようとすることは、殿下が見えている聖女リリエラ様の人物像を壊す発言だから。けれどこれだけはどうしても伝えなくてはならない。
 私は決心し、胸の前で手を握りしめた。

「あ……私、殿下にお伝えしたいことがあって……」
「伝えたいこと?」
「はい、実は――」

 私が言いかけたその時、殿下は急に私の手を取ってじっと見つめた。

「殿下?!」
「この怪我、リリエラ嬢が治療したんじゃ?」

 殿下は、昨日私が切ってしまった指の怪我が治っていないのに気付いて、まるで信じられないものを見るように、私の指先をさらに近くへ引き寄せた。
 この一瞬で殿下の優しいまなざしは消えていて、代わりにその目には厳しい光が宿っていた。

「あ、治療は……してもらえませんでした」
「なんだって……?」

 私が答えると、殿下は今まで見たことも無いくらい、怖い顔をされた。
周囲にも分かるくらいの怒気を放って、それはまるで黒龍さえも、いとも簡単に倒してしまいそうな迫力だった。

「あ、……あの?……殿下?」

 私は殿下が何にそんなに怒っているのかが分からず、慎重に声を掛けた。

 すると、その時だった。

 ピィィィィィィィィィィ――ッ!!

 本日二回目の警笛が鳴ったのだった。

「今度は一体何なんだ?!」

 天幕の中に一気に緊張が走った。すぐさま皆、武器を手に取り臨戦態勢になり、天幕の外へ飛び出していった。
 私も、皆に続いて外へ飛び出した。

 すると丁度そこに、見張りの兵が状況を報告しにやって来たところだった。

「殿下!大変です!フォレストウルフの群れです!!さっきまで居たヴェノムラビットたちを捕食した群れがそのままこちらに突っ込んできます!!」

 フォレストウルフ。群れで行動する狼の魔獣。
 強靭な牙と爪を持ち、先ほどのヴェノムラビットとは比べ物にならないほど強い魔物だった。

「普段はこんな街道近くにまで現れないのに……さっきの兎が原因か……」

 ヴェノムラビットは毒のある魔物だが、その毒は人間にしか効かない。
 だから他の魔物にとって、ヴェノムラビットは格好の捕食対象だったのだ。

 普段は森の奥でひっそりと暮らしているヴェノムラビットが、目立つ場所で群れで行動をしていれば、フォレストウルフにとっては格好の餌食でしかなかった。

(子兎が利用されなければ、ヴェノムラビットたちも命を落とすことはなかったのに……魔物とはいえ、なんて可哀想……)

 私はリリエラ様たちが仕出かした事に、改めて嫌悪と憤りを感じた。

 しかし、今は悠長にそんな感情に浸っている余裕はなかった。

 なにせ目の前には既に、狼の群れが立ちはだかっているのだから。
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