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52. 離脱
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「どうして……どうしてリリエラ様は良くて私はついて行ったら駄目なんですか?!」
私は力強く真っすぐにロキシード様を見つめた。視線に自分の強い意志をのせて、私の本気を分かって貰いたかった。
リリエラ様が良いのならば、私だって良いはずだ。そう思って、必死に問いかけたのだが、しかし、その答えはロキシード様本人からは聞けなかった。
「そんなの君が――」
「そんなの当然でしょう、魔法が使えない貴女は足手纏いだからですわ」
ロキシード様が答える前に、いつの間にか外に出てきていたリリエラ様がその言葉を奪って答えたのだ。
「そんな……」
それは、私にはどうすることも出来ない、痛いほど突きつけられた現実だった。
それ以上は何も言えなくなってしまった。
「それにしても……まさか貴女がアディルナ様だったなんて」
リリエラ様はそう言って私の姿をジロリと眺めると、おもむろに私の方に歩み寄ってきた。
そして彼女は耳元に口を寄せて囁いた。
「殿下に余計な事は言わないでね。貴女が黙っていてくれたら私も黙っていてあげるから」
その言葉に、思わず強い反発が全身を駆け抜けた。あの天幕での出来事を黙って居るなんて到底出来なかった。
だから私は、彼女を侮蔑するように見返すと、毅然と言い返したのだった。
「私は何も言われても困ることはないわ!!」
するとリリエラ様は、なんか嫌な感じに微笑まれて、勝ち誇ったように目を細めた。
「そうかしら?そうね例えば、そこの平民と貴女が二人で仲良くやっていたと証言しても良いのかしら?」
彼女は、それがまるで私への致命打のように自信たっぷりにそう言ったのだが、私は戸惑ってしまった。
「……リオルと仲良く話していたのは事実ですわ?それを証言されて、何故私が困るのですか?」
リリエラ様は何故か勝ち誇っていたけれども、それが一体なぜ私の弱みになるのか、心底分からなかったのだ。
「あ……貴女まさか、伝わってないの?!」
「だから……何がですか?!」
彼女が言わんとすることが分からなくて、私はずっと首をかしげていた。
そして私たちの会話が聞こえていた人たちは、何故か皆、笑いをこらえているようだった。
ロキシード様も口元を隠しているけれども笑っているのは隠しきれていなかった。
ふと、なんだかとても聞き覚えがある声が聞こえた気がした。
そう、まるでお兄様が私を呼ぶ声が。
疲れて幻聴が聞こえたのかしらと思ったが、どうやらそれは幻聴ではなかった。
白馬に乗った王子様……ではなくお兄様が、物凄い形相でこちらへやって来たのだ。
「……こんなところで、一体何をやっているんだい?アディルナ?」
お兄様は私を見つけると、首根っこを捕まえて、怒気を隠しきれていない笑顔で
私に迫った。
「ひ……人違いですわ!私は謎の女剣士アルナですわ!!」
「ほう?ではあくまでも我が妹のアディルナとは別人だと言い張るのだな?」
「当然ですわ!アディルナ様なら王都のお屋敷で大人しくしていらっしゃるのでしょう?!」
「あぁ、そうだね。フィオネは白状したんだけどな。お嬢様に頼まれてどうしても断れませんでしたってね!」
「……」
お兄様の容赦ない追求に私は、もう言い逃れ出来ないと諦めるしかなかった。
なので私は、胡麻化すのを止めて、真正面からお願いをした。
「お兄様、お願いします。……見逃してください」
私は大真面目な顔で、お兄様をじっと見た。
けれどもお兄様は、そんな私のお願いを笑顔で一蹴する。
「見逃せるわけないだろ」
こうして私の遠征は志半ばで強制帰還となってしまったのだった。
「……殿下、この度は妹が大変ご迷惑をおかけしました」
「ウォーグル、君も大変だね」
お兄様は殿下に丁寧に頭を下げつつも、私の腕をしっかり掴んだまま離さなかった。
(そんなにしっかり掴んでいなくても、もう逃げないのに……)
私は心の中でそんな不満を漏らしながら、おとなしく二人の会話が終わるのを待った。
「直ぐに、立つのだろうか?もう暗いし明日の朝に出発してはどうか?」
「ありがたいお言葉ですが、殿下たちのお手間を取らすわけにはいきません。少し戻った所に別動隊を待機させてありますので、我々はそちらに戻ります」
お兄様に抜かりはなかった。本当に私を直ぐに連れて帰るつもりなのだ。私は、このままロキシード様と離れたくなくて、少しでも言葉を交わせないか機会を伺っていたが、お兄様とロキシード様の会話は終わりそうになかった。
「そうか……ウォーグル、少し二人で話せるか?」
「えっ?あ……はい……」
殿下からの申し入れに、お兄様は私をチラリと見た。
……私、そんなに信用がないのだろうか。
何とも言えない気持ちになったが、言葉を呑み込んでしおらしく従った。
「大丈夫ですよ、お兄様。ここで大人しく待ってますから」
「……絶対、ここを動くんじゃないぞ?」
「大丈夫ですから!!」
お兄様はそれでも尚、疑いの目をこちらに向けていたが、殿下をお待たせするわけにはいかず、渋々といった様子で私の腕を放し、殿下の方へ向かった。
私は、お兄様と殿下が話しているところから少し離れてた場所で、二人の会話が終わるのを待った。
と、そこへ騒ぎを聞きつけたリオルがやって来たのだった。
「あ……アディルナ様?」
私が侯爵令嬢だと知ってしまったのだろう。
今まで私に接していた態度とはまるで違う、どこか委縮した様子でこちらを伺うリオルに、私は変わらず微笑みかけた。
「アルナのままで良いわ。そんな畏まらないで」
「あの、俺、結構失礼な言動しちゃってたと思うんですけど……」
身分さを弁えてぎこちなく礼儀正しく振る舞おうとする彼の姿は、昔の彼からは本当に想像できないなと思いながら、私はそんな彼を温かい気持ちで見つめた。
「気にしないで。私と貴方は同じ遠征隊の隊員だったのよ。何も問題はないわ」
「……俺、『貴族は平民を駒としか思ってない傲慢な奴』って言ったの撤回します。だって貴女みたいに人も居るんだって分かったから……」
リオルは、たどたどしくもどこか慎重に私の目を見て、精一杯で真っ直ぐな態度で、考えを改めた事を伝えてくれた。
その言葉が、私にはとても嬉しかった。
「ありがとうリオル。……私、貴方に会えて本当に良かったわ。ずっと子供の頃の事が気がかりだったの。でも……成長した貴方とこうして話せて、一緒に過ごせて、人ってやっぱり分かり合えるんだなってのが実感できて、とても報われた気持ちよ」
私はリオルをまっすぐ見つめ返し、胸の奥から湧き上がる温かさをそのまま言葉に乗せた。
「そうだわ!これも何かの縁だし、貴方、黒龍討伐が終わったらハルスタイン家の護衛にならない?」
私は、ふと思いついた名案を口にしていた。
リオルの腕は確かだし、信頼のおける人物なのは一緒に居て良く分かったので、私は優秀な人材を確保しようと、純粋に期待を込めて声をかけた。
けれども、思わぬところから邪魔が入ったのだった。
「それは駄目」
声の方を振り返ると、そこにはお兄様との話を終えたロキシード様が立っていらっしゃった。
「え……な、何故です?!」
「それは……彼は、僕が貰うから。僕の護衛にするよ」
ロキシード様は、私の問いに一瞬言葉に詰まったような気もしたが、直ぐに私の邪魔をした理由を説明してくれた。
確かに、殿下がリオルの能力を買って引き抜くのなら、私は納得するしかなかった。
「なるほど……確かにリオルなら安心して殿下の護衛を任せられますね……忠義も厚いですし」
このやり取りを、リオルは一言も発せず、ポカンとしながら見守っていた。
なんだか少し、勝手に進路を決めて申し訳ない気持ちになった。
「アディルナ、そろそろ行くぞ」
出発の準備をしていたお兄様に呼ばれて、私は後ろ髪を引かれる思いで、そっと殿下の方を向いた。
殿下は優しく、そしてどこか寂しそうに微笑んでいらっしゃった。
「殿下、私最後までお供出来ませんでしたが、殿下の勝利を願っています。どうかご武運を……」
私は寂しさを押し隠し、手を胸に当て、精一杯の微笑みを殿下に向けた。
「アディルナ、約束を覚えているかい?」
「はい、覚えていますわ。私、帰還した殿下を一番に出迎えて、『おかえりなさい』って言いますわ」
「じゃあ僕は、君より先に『ただいま』って言うよ」
そう言って殿下はいつものように、柔らかく笑った。
(大丈夫……これが今生の別れじゃないわ)
私はこみ上げる想いを押し込めて、殿下の帰還を信じて頷いた。
私は力強く真っすぐにロキシード様を見つめた。視線に自分の強い意志をのせて、私の本気を分かって貰いたかった。
リリエラ様が良いのならば、私だって良いはずだ。そう思って、必死に問いかけたのだが、しかし、その答えはロキシード様本人からは聞けなかった。
「そんなの君が――」
「そんなの当然でしょう、魔法が使えない貴女は足手纏いだからですわ」
ロキシード様が答える前に、いつの間にか外に出てきていたリリエラ様がその言葉を奪って答えたのだ。
「そんな……」
それは、私にはどうすることも出来ない、痛いほど突きつけられた現実だった。
それ以上は何も言えなくなってしまった。
「それにしても……まさか貴女がアディルナ様だったなんて」
リリエラ様はそう言って私の姿をジロリと眺めると、おもむろに私の方に歩み寄ってきた。
そして彼女は耳元に口を寄せて囁いた。
「殿下に余計な事は言わないでね。貴女が黙っていてくれたら私も黙っていてあげるから」
その言葉に、思わず強い反発が全身を駆け抜けた。あの天幕での出来事を黙って居るなんて到底出来なかった。
だから私は、彼女を侮蔑するように見返すと、毅然と言い返したのだった。
「私は何も言われても困ることはないわ!!」
するとリリエラ様は、なんか嫌な感じに微笑まれて、勝ち誇ったように目を細めた。
「そうかしら?そうね例えば、そこの平民と貴女が二人で仲良くやっていたと証言しても良いのかしら?」
彼女は、それがまるで私への致命打のように自信たっぷりにそう言ったのだが、私は戸惑ってしまった。
「……リオルと仲良く話していたのは事実ですわ?それを証言されて、何故私が困るのですか?」
リリエラ様は何故か勝ち誇っていたけれども、それが一体なぜ私の弱みになるのか、心底分からなかったのだ。
「あ……貴女まさか、伝わってないの?!」
「だから……何がですか?!」
彼女が言わんとすることが分からなくて、私はずっと首をかしげていた。
そして私たちの会話が聞こえていた人たちは、何故か皆、笑いをこらえているようだった。
ロキシード様も口元を隠しているけれども笑っているのは隠しきれていなかった。
ふと、なんだかとても聞き覚えがある声が聞こえた気がした。
そう、まるでお兄様が私を呼ぶ声が。
疲れて幻聴が聞こえたのかしらと思ったが、どうやらそれは幻聴ではなかった。
白馬に乗った王子様……ではなくお兄様が、物凄い形相でこちらへやって来たのだ。
「……こんなところで、一体何をやっているんだい?アディルナ?」
お兄様は私を見つけると、首根っこを捕まえて、怒気を隠しきれていない笑顔で
私に迫った。
「ひ……人違いですわ!私は謎の女剣士アルナですわ!!」
「ほう?ではあくまでも我が妹のアディルナとは別人だと言い張るのだな?」
「当然ですわ!アディルナ様なら王都のお屋敷で大人しくしていらっしゃるのでしょう?!」
「あぁ、そうだね。フィオネは白状したんだけどな。お嬢様に頼まれてどうしても断れませんでしたってね!」
「……」
お兄様の容赦ない追求に私は、もう言い逃れ出来ないと諦めるしかなかった。
なので私は、胡麻化すのを止めて、真正面からお願いをした。
「お兄様、お願いします。……見逃してください」
私は大真面目な顔で、お兄様をじっと見た。
けれどもお兄様は、そんな私のお願いを笑顔で一蹴する。
「見逃せるわけないだろ」
こうして私の遠征は志半ばで強制帰還となってしまったのだった。
「……殿下、この度は妹が大変ご迷惑をおかけしました」
「ウォーグル、君も大変だね」
お兄様は殿下に丁寧に頭を下げつつも、私の腕をしっかり掴んだまま離さなかった。
(そんなにしっかり掴んでいなくても、もう逃げないのに……)
私は心の中でそんな不満を漏らしながら、おとなしく二人の会話が終わるのを待った。
「直ぐに、立つのだろうか?もう暗いし明日の朝に出発してはどうか?」
「ありがたいお言葉ですが、殿下たちのお手間を取らすわけにはいきません。少し戻った所に別動隊を待機させてありますので、我々はそちらに戻ります」
お兄様に抜かりはなかった。本当に私を直ぐに連れて帰るつもりなのだ。私は、このままロキシード様と離れたくなくて、少しでも言葉を交わせないか機会を伺っていたが、お兄様とロキシード様の会話は終わりそうになかった。
「そうか……ウォーグル、少し二人で話せるか?」
「えっ?あ……はい……」
殿下からの申し入れに、お兄様は私をチラリと見た。
……私、そんなに信用がないのだろうか。
何とも言えない気持ちになったが、言葉を呑み込んでしおらしく従った。
「大丈夫ですよ、お兄様。ここで大人しく待ってますから」
「……絶対、ここを動くんじゃないぞ?」
「大丈夫ですから!!」
お兄様はそれでも尚、疑いの目をこちらに向けていたが、殿下をお待たせするわけにはいかず、渋々といった様子で私の腕を放し、殿下の方へ向かった。
私は、お兄様と殿下が話しているところから少し離れてた場所で、二人の会話が終わるのを待った。
と、そこへ騒ぎを聞きつけたリオルがやって来たのだった。
「あ……アディルナ様?」
私が侯爵令嬢だと知ってしまったのだろう。
今まで私に接していた態度とはまるで違う、どこか委縮した様子でこちらを伺うリオルに、私は変わらず微笑みかけた。
「アルナのままで良いわ。そんな畏まらないで」
「あの、俺、結構失礼な言動しちゃってたと思うんですけど……」
身分さを弁えてぎこちなく礼儀正しく振る舞おうとする彼の姿は、昔の彼からは本当に想像できないなと思いながら、私はそんな彼を温かい気持ちで見つめた。
「気にしないで。私と貴方は同じ遠征隊の隊員だったのよ。何も問題はないわ」
「……俺、『貴族は平民を駒としか思ってない傲慢な奴』って言ったの撤回します。だって貴女みたいに人も居るんだって分かったから……」
リオルは、たどたどしくもどこか慎重に私の目を見て、精一杯で真っ直ぐな態度で、考えを改めた事を伝えてくれた。
その言葉が、私にはとても嬉しかった。
「ありがとうリオル。……私、貴方に会えて本当に良かったわ。ずっと子供の頃の事が気がかりだったの。でも……成長した貴方とこうして話せて、一緒に過ごせて、人ってやっぱり分かり合えるんだなってのが実感できて、とても報われた気持ちよ」
私はリオルをまっすぐ見つめ返し、胸の奥から湧き上がる温かさをそのまま言葉に乗せた。
「そうだわ!これも何かの縁だし、貴方、黒龍討伐が終わったらハルスタイン家の護衛にならない?」
私は、ふと思いついた名案を口にしていた。
リオルの腕は確かだし、信頼のおける人物なのは一緒に居て良く分かったので、私は優秀な人材を確保しようと、純粋に期待を込めて声をかけた。
けれども、思わぬところから邪魔が入ったのだった。
「それは駄目」
声の方を振り返ると、そこにはお兄様との話を終えたロキシード様が立っていらっしゃった。
「え……な、何故です?!」
「それは……彼は、僕が貰うから。僕の護衛にするよ」
ロキシード様は、私の問いに一瞬言葉に詰まったような気もしたが、直ぐに私の邪魔をした理由を説明してくれた。
確かに、殿下がリオルの能力を買って引き抜くのなら、私は納得するしかなかった。
「なるほど……確かにリオルなら安心して殿下の護衛を任せられますね……忠義も厚いですし」
このやり取りを、リオルは一言も発せず、ポカンとしながら見守っていた。
なんだか少し、勝手に進路を決めて申し訳ない気持ちになった。
「アディルナ、そろそろ行くぞ」
出発の準備をしていたお兄様に呼ばれて、私は後ろ髪を引かれる思いで、そっと殿下の方を向いた。
殿下は優しく、そしてどこか寂しそうに微笑んでいらっしゃった。
「殿下、私最後までお供出来ませんでしたが、殿下の勝利を願っています。どうかご武運を……」
私は寂しさを押し隠し、手を胸に当て、精一杯の微笑みを殿下に向けた。
「アディルナ、約束を覚えているかい?」
「はい、覚えていますわ。私、帰還した殿下を一番に出迎えて、『おかえりなさい』って言いますわ」
「じゃあ僕は、君より先に『ただいま』って言うよ」
そう言って殿下はいつものように、柔らかく笑った。
(大丈夫……これが今生の別れじゃないわ)
私はこみ上げる想いを押し込めて、殿下の帰還を信じて頷いた。
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