魔力が無いから王族とは結婚出来ないのに、王太子殿下が婚約者候補から外してくれません

石月 和花

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57. アディルナの誓い

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 殿下にとても真剣な顔で私の名前を呼ばれ、思わず息を呑んだ。

「何でしょうか?」

 その眼差しにどきりとして、胸の奥が強く震えた。

「君はエアムードへ行かないよ」
「え……??でも、それでは外交問題が……」

「それなんだけど、何もアディじゃなくても良いんだよね。高位貴族の令嬢なら誰でも良かったんだ。だからさっき、エアムードの使節団にはリリエラ嬢を紹介してきたところなんだよ。話を取り付けてきたのはカラサリス大臣なんだし、ここは責任をとってご息女リリエラ様にその役目をに担ってもらうのが筋だしね」

 そう言って物凄い良い笑顔で笑うロキシード様は、どこか怒っているようにも感じられた。

「えっ……えっ?!」

 私は予想外の展開に、ただ戸惑うしかなかった。
 しかし、本当の予想外はまだこの後に控えていたのだった。

「アディルナ」
「は……はい!」

 ロキシード様は、もう一度私の名前を呼んだ。
 真っすぐにこちらを見つめてくるので、私はその眼差しから目を逸らせなかった。

「アディルナ・ハルスタイン嬢、僕は貴女を婚約者に指名する」
「えっ……」

 あまりの事に私は言葉を失った。
 胸が大きく跳ねて、何をどう返せばいいのか分からなくなった。

「だ、だって、私魔力がありませんのよ?!」
「うん、知ってる。だから、黒龍を倒したんだよ」
「……どういうことですの?」

 私の頭は混乱しっぱなしで、殿下が言わんとすることが分からなかった。
 すると殿下は、私の困惑を包み込むように穏やかに微笑み、続きを語り始めた。

「王族の配偶者は高魔力保持者でないといけない。こんな古臭い仕来りを撤廃するためには元凶を叩いてしまえば良いと思ったんだ。そう、暗黒龍さえいなくなれば、王族が自由に配偶者を求めることが出来るってね。」
「そんな……」

 あまりのことに、私は再び言葉を失った。

 まさか私のために黒龍を討っただなんて、そんな現実離れした話をすぐには受け止められなかったが、殿下は熱い視線で私を見つめ、深く息を吸ってから言葉を紡いだ。

「アディルナ、私の側に居たいと思ってくれるなら、この申し込み受け入れてくれるよね?」

 繋いだ手の指先に少し力が込められたのが分かった。
 指先から殿下の熱が伝わって、私の鼓動は速さを増すばかりだった。

「あの、本当なんですか……?本当に、本当に私で良いのですか?」
「あぁ。君の言動は本当に予想がつかなくて、見ていると全く退屈しないからね。全く目が離せないし、……誰にも渡したくないんだ」

 甘い笑顔を向けてそう告げる殿下に、私はもう堪えていた涙を我慢できなかった。

「そんな……ありえませんわ、だって……わた……私は……」

 しゃくり声を上げながら泣く私を、殿下は力強く自分の胸に引き寄せて、そのまま抱きしめた。
 そして私を泣き止ませようと背中を優しく撫でながら、少し困ったように耳元で呟いたのだった。

「参ったなぁ。どうしたら泣き止んでくれるんだい?」

 その言葉を私は聞き逃さなかった。

「今何て仰いました?!」

 突然顔を上げて叫んだ私に、殿下も驚いた顔をしていた。

「え?……どうしたら泣き止んでくれるんだい?」
「その前ですわ!今、”参った”って仰いましたよね?!」

 私は涙を引っ込めて、鬼の首を取ったかのように勢いよく詰め寄った。
 すると殿下はそんな私をマジマジと見つめると、どこか愛おしげに口元を緩めたのだった。

「ふふっ……はははっ、あぁ、もう本当にアディは揺ぎないね」

 ロキシード様は心の底から笑うと、もう一度強く私を抱きしめた。

「そのままの君でいて。場面に合わせて淑女のフリは出来てるんだから今のままで問題ない。癒される」
「い……癒しですか……?私にそんな魔法使えませんが……」
「アディは存在自体が奇跡だよ。どこを探してもこんな令嬢他には居ないよ。……愛おしい」

 耳元で囁かれて、私は真っ赤になって何も言えないでいた。
 ロキシード様は固まる私を愛おしげに見つめ、そっと頬に触れた。

「そんな君だから、僕は惹かれたんだよ。僕の隣に立って、一緒に国を、未来を作っていくのは君が良いんだ。……受けてくれるよね?」

 殿下の真っ直ぐな瞳から目を逸らせられない。
 胸の奥に秘めていた想いが震え、私はもう、自分の気持ちを誤魔化せなかった。

「……十歳の時、あの事件との時からずっとお慕いしてました。私で良ければ、喜んでお受けいたしますわ」

 私の答えに、ロキシード様は嬉しそうに目を細めた。
 私も嬉しくなり、ニッコリと笑った。

 ……ただ、笑っているけれども。涙は止められなかった。

「アディは泣き虫だね」
「し……仕方ないですわ!だってこんな、こんな――」

 ――こんな嬉しいことはないんですから――

 そう続けようとして、私は言葉が飛んでしまった。
 だって、殿下が泣いている私の目元にキスを落としたのだ。

「な……な……な、何をなさいましたの?!」
「んー……婚約者としてと触れ合い?」

 ロキシード様は、私の反応を楽しむようにわざとゆっくりと微笑んだ。

「アディ……君の反応は見ていて面白いけど、コレくらいで動揺してたら身がもたないよ?」
「ど……どういう事でしょうか?」

  私は驚きと恥ずかしさで目を合わせられず、思わず後ろに身を引いた。
 するとロキシード様は、ニコリと微笑みながら、どこか意地悪く距離を詰めてきたのだった。

「それは僕が、君を構いたくて仕方がないって事だよ」

 そう言ってロキシード様は悪戯っ子ぽく笑って、私の髪を一房手に取ると、私に見せつけるように口付けを落とした。

「覚悟してね」

 その低く甘い声に、私はロキシード様の触れ合いから逃げられないと悟った。


***


 それから暫くして、私は正式にロキシード様の婚約者に指名された。

 正式な婚約者に指名されるまでも色々あったが、ついに今日、私は豊穣祭の一般参賀で王太子の婚約者として国民の前に立つ事になったのだ。

「……緊張している?」
「少しだけ……でも大丈夫ですわ」

 控えの間で胸元を押さえて深呼吸する私に、ロキシード様はそっと肩へ手を添えた。
 そんなロキシード様の優しさに触れて、私の胸には温かさが広がり張り詰めていた気持ちが解れていった。

「ロキシード様がお隣に居てくださるんですもの。こんなに心強いことはないわ」

 私がそう答えて微笑むと、ロキシード様も柔らかな眼差しで笑みを浮かべこちらを見つめる。

「アディルナ」

 ロキシード様は私の目をじっと見ながら、優しい声で私の名前を呼び、そっと手の甲に口付けを落とされた。

 私はこれくらいの触れ合いならば、動揺を表に出さないくらいには成長していた。
 ……内心は心臓が跳ね上がるほどドキドキしていて、頬が赤くなるのは隠せなかったが、私は大人しくロキシード様の言葉を待った。

「この先も、共に歩み僕と一緒にこの国を造っていってくれるかい?」

 真摯な眼差しに見つめられ、出てくる答えは一つしかなかった。
 私は迷いのない気持ちをそのまま言葉に乗せて答えた。

「はい!私はいつまでも殿下の隣で貴方を支えますわ」

 この先もずっと、殿下と共に歩んでいく。
 この先にどんな道が待っていようとも、私は殿下と共に歩む未来を選び続けると心に誓った。

ーーーーーーーーーーー

ここまでお読みくださりありがとうございました。
これにて、一旦完結となります。
明日からは、ロキシード視点の話を投稿していきます。

一言でもコメントや、ブックマーク、エールがもらえるととても嬉しいです。

また、第19回恋愛小説大賞にエントリーしているので、この作品が気に入って頂けたら
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