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悪役か ヒーローか
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震えていたのは、ぶつけようのない怒りを堪えるためだった。誰かの生命を盾に取られて強要される人生のやりきれなさを今、ようやく吐き出している不器用さに、どうして誰も気づいてやれなかったんだろう。俺と彼女の間で板挟みになることを思えば、あの日の別れは正しかったと今でも思っているけどそれでも、歯噛みする想いを堪え切れない。噛み締めた口唇が切れて鬱血しても、それでも俺が泣くことは許されないと思った。
「…ごめん、今更だけどそんなつもりじゃなかった。お前が幸せになればいいと思った。誰かと家族を作って当たり前にフツーの家庭を持って、年取って、子供たちに囲まれて幸せに暮らしてくれればいいと思ったんだ。俺とじゃ、絶対叶えてやれないから」
こんな後悔と懺悔をぶつけて何になる?自分が楽になるために吐き出す言葉なんてコイツの怒りの前で灰にするしかない。そうは思っても弁解の言葉しか出てこない不甲斐ない俺を責めるでもなく、本当に不思議そうにポツリと漏らされた言葉。
「俺、一度でもそんな人生が幸せだと思うって、お前に云ったことある?」
殴りつけて叫んで怒ってくれたら、その方がよっぽど楽だった。でも、目の前の美しい男は淡々と心を切り離したように、自分じゃない別の誰かについて述べるみたいに言葉を紡ぐ。それがとても切なかった。コイツの言葉には一つの誇張もなく事実を述べているだけだって分かるからこそ、どれ程今まで我慢させられてきたのか、たった一人で耐えきってきたのかを思い知らされる。
「ごめん、ごめんな、謝って済むことじゃないけど本当にごめん。俺がもっと抗えば良かった。素直にお前が欲しいって、渡したくないって言えてれば」
繰り言を受け止めて欲しいわけじゃない。俺は今何のためにここにいるんだ。
そっと抱き締めた腕を解いて、正面に向かい直る。
俯いていた頬を出来るだけやさしく両手で持ち上げて視線を合わせて、
覗き込んだ黒い瞳に俺だけを映して。
もう一度、花が咲いたようなお前の笑顔を見せて。
「愛してる。今までずっと一人にしてごめん。俺はいつだってどこにいたってどんなに離れたって、お前だけを愛してるよ。他の誰にも渡したくない。お前だけが俺の全て。花とか運命とか関係ない。たとえ死んだっていい。枯れたっていい。お前の傍にいさせて、お前のこと世界で一番誰よりも愛してるのは俺だって云わせて。お願い、俺の残りの人生全て捧げるから、二度とこの手を離さないから、お前の愛を俺にちょうだい」
泣きじゃくりながら支離滅裂に振り絞る声は拙くてもうワケわかんなくて滅茶苦茶で、ただただ必死だった。愛の告白だなんてカッコつけられるもんじゃない、それでも、届けと願った。
滲んだ視界でゆっくりと瞳に意志が戻ってくる。焦点が俺に向かって収斂して、心の奥底までその真摯さを問われている気がした。嘘偽りのない掛け値なしの本音を曝け出して、剥き出しの本性を試されるのは身震いする怖さだった。だけど、コイツが味わってきた孤独に比べれば怯えることすら烏滸がましかった。
静かに頬骨が動き出して、口角が緩やかに上がる。ああ、懐かしさに一気に時が巻き戻される。眉根が寄せられて少し困ったように細められる眦の皺が寄る。僅かに突き出す口唇が弧を描いて、花が咲いた。
「…遅いよ、バカ」
袖口でぐしゃぐしゃの顔を拭われる。しゃくりあげる肩を抱かれて、ポンポンッと軽く宥められて、そっと髪を撫でる愛しい手つき。
戻ってきた。俺の愛しい男が、俺の元にようやく、戻ってきたんだ。
「…ごめん、今更だけどそんなつもりじゃなかった。お前が幸せになればいいと思った。誰かと家族を作って当たり前にフツーの家庭を持って、年取って、子供たちに囲まれて幸せに暮らしてくれればいいと思ったんだ。俺とじゃ、絶対叶えてやれないから」
こんな後悔と懺悔をぶつけて何になる?自分が楽になるために吐き出す言葉なんてコイツの怒りの前で灰にするしかない。そうは思っても弁解の言葉しか出てこない不甲斐ない俺を責めるでもなく、本当に不思議そうにポツリと漏らされた言葉。
「俺、一度でもそんな人生が幸せだと思うって、お前に云ったことある?」
殴りつけて叫んで怒ってくれたら、その方がよっぽど楽だった。でも、目の前の美しい男は淡々と心を切り離したように、自分じゃない別の誰かについて述べるみたいに言葉を紡ぐ。それがとても切なかった。コイツの言葉には一つの誇張もなく事実を述べているだけだって分かるからこそ、どれ程今まで我慢させられてきたのか、たった一人で耐えきってきたのかを思い知らされる。
「ごめん、ごめんな、謝って済むことじゃないけど本当にごめん。俺がもっと抗えば良かった。素直にお前が欲しいって、渡したくないって言えてれば」
繰り言を受け止めて欲しいわけじゃない。俺は今何のためにここにいるんだ。
そっと抱き締めた腕を解いて、正面に向かい直る。
俯いていた頬を出来るだけやさしく両手で持ち上げて視線を合わせて、
覗き込んだ黒い瞳に俺だけを映して。
もう一度、花が咲いたようなお前の笑顔を見せて。
「愛してる。今までずっと一人にしてごめん。俺はいつだってどこにいたってどんなに離れたって、お前だけを愛してるよ。他の誰にも渡したくない。お前だけが俺の全て。花とか運命とか関係ない。たとえ死んだっていい。枯れたっていい。お前の傍にいさせて、お前のこと世界で一番誰よりも愛してるのは俺だって云わせて。お願い、俺の残りの人生全て捧げるから、二度とこの手を離さないから、お前の愛を俺にちょうだい」
泣きじゃくりながら支離滅裂に振り絞る声は拙くてもうワケわかんなくて滅茶苦茶で、ただただ必死だった。愛の告白だなんてカッコつけられるもんじゃない、それでも、届けと願った。
滲んだ視界でゆっくりと瞳に意志が戻ってくる。焦点が俺に向かって収斂して、心の奥底までその真摯さを問われている気がした。嘘偽りのない掛け値なしの本音を曝け出して、剥き出しの本性を試されるのは身震いする怖さだった。だけど、コイツが味わってきた孤独に比べれば怯えることすら烏滸がましかった。
静かに頬骨が動き出して、口角が緩やかに上がる。ああ、懐かしさに一気に時が巻き戻される。眉根が寄せられて少し困ったように細められる眦の皺が寄る。僅かに突き出す口唇が弧を描いて、花が咲いた。
「…遅いよ、バカ」
袖口でぐしゃぐしゃの顔を拭われる。しゃくりあげる肩を抱かれて、ポンポンッと軽く宥められて、そっと髪を撫でる愛しい手つき。
戻ってきた。俺の愛しい男が、俺の元にようやく、戻ってきたんだ。
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