三度目の衝撃。

帯刀通

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二度目の衝撃。

01

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その日、僕は習い事のクラブの大会に出るために、競技場に来ていた。幾つかの市が集まって合同で行われるトーナメント形式の大会で、朝早くから夕方の日が暮れて暗くなるまで行われる長丁場だった。先輩たちは表彰式に出てしまっていて、僕たち後輩は持ち回りで二人一組になって荷物の番をしていた。

余りにたくさんのクラブが参加していて、どこも似たり寄ったりな格好と持ち物だったから、見張っていないと悪気はなくてもうっかり間違えて持っていかれてしまう、なんてことがよくあったからだ。

もう夕日もだいぶ落ちて、余韻のようなオレンジ色の西日が闇に溶け始めた頃。僕の相方である友達が、ごめん!ちょっとトイレ行ってくる!と言って、走っていってしまった。

僕たちが陣取っていたのはスタンドからは離れた場所で、人通りもなく、トイレも近くにはなかった。仕方なく一人でぼーっとしていたから、人の気配には気がつかなかった。

ちょうど胸の高さのところに棚のような台のような出っ張りが壁一面にあって、そこに腰を下ろして足をブラブラさせながら、友達を待っていた。背後からは表彰式の様子が聞こえてくる。ちょうど三位が発表されて歓声と拍手が沸き起こっていた。

そこに左から若い男の人が僕の方にめがけて近づいてきた。ごくごく普通の二十代前半くらい、これといって特徴もない中肉中背、格好いいわけでもないし、眼鏡もかけてないし、服装も地味な黒っぽいシャツにズボン。肩にはリュックをかけている。街ですれ違っても記憶には残らないような、良くも悪くも印象の薄い普通のひとだった。

「    って って ?」

その人はゆっくりと近づいてきながら何かを言った。
その声は歓声にかきけされて僕の元まで届かない。僕は、ん?という顔をして首を傾げた。

大会関係者なのかと思った。その人くらいの年齢のコーチはたくさんいて、全く警戒心のなかった僕は、声をかけられたことに疑問すら抱かなかった。

「    って知ってる?」

更に近づいてきて、1メートルくらいまで来たとき、ふいに悪寒を感じた。なんだかイヤだな、と思った。うまく言葉には出来ないんだけど、イヤな空気を感じた。値踏みされているような目付きが気持ち悪かった。そして、その人は何故か嗤っていた。

「え?なに?」

何かを知っているか?と聞かれたことは分かったが、その単語に聞き覚えがなかった。知らない単語に首を傾げると、その人は更に近寄ってきて、もう一度訊ねた。

「    って知ってる?」

そう言って、笑顔を張り付けたまま僕の肩をいきなりガッとつかむと壁に押しつけて、もう片方の手で口を塞いだ。

恐怖だ。また、突然思いもよらない事態が起きた恐怖に、身体が硬直した。悲鳴をあげることすら出来なかった。

すると、その人は僕の肩から手を離し、勢いよく僕のズボンをグッと下に引きおろした。

ありえない場所でありえない部分を晒された。その事実が更に恐怖を上乗せした。だが何よりも僕の心を刺したのは、その人が舌打ちまじりに吐き捨てた一言だった。





「…チッ、男かよ」



そのまま手を離すと、その人は何事もなかったように踵を返して去っていった。本当に、何事もなかったかのように。

取り残された僕は、ガタガタ震えながらその場から動けずにいた。暫くして戻ってきた友達が僕のあられもない姿と尋常じゃない震え方に気づいて、真っ青な顔をしてコーチを呼びにいくまでの間、ただ目を見開いて固まっていた。無意識のうちに、頬を涙が伝っていた。
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