影牢 -かげろう-

帯刀通

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解放と君臨

09

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今夜の主役である従妹かのじょくらいには、声をかけてやればよかったか。まあ、あの蝶よ花よと育てられたお姫様には幾らでも騎士ナイトの志願はあるだろう。四兄弟もいることだし、俺が気にするまでもない。

従妹が四人のうち誰を選ぶかが最大の関心事である連中にとっては今夜の夜会は重要に違いないが、俺にとってはどうでもいいことだ。伴侶の決定によって趨勢すうせいが変わり、それで失ってしまう程度の地位にしか着けない無能なら辞めちまった方が身のためだ。

ーーーあんなお嬢ちゃんに己の命運を握られてたまるかよ。

ああ、下らない愚痴を吐き出すあたり、末期だな。帰ってさっさと寝るに限る。ふらふらとした足取りでバルコニーを横切ろうとした時、

目の前に奔流ほんりゅうとなって甘い香りのかたまりが押し寄せてきた。
圧倒的な質量をもった強烈な芳香が、衝撃波となって全身にぶつかる。

とっさに振り向くと、其処には
月の光をスポットライトのように浴びて独り、
美しい小鳥が佇んでいた。

視界に美澄が現われた途端、肌で理解した。この甘い匂いの元は、この子だと。

そして全身の毛穴から一斉に湧き出した劣情が、鼓動よりも速く、脳髄を掻き回す。それはかつて感じたことのない程の強烈な情欲だった。まるで催淫剤の海に突き落とされて、巨大なミキサーで身体ごと掻き回されているようだ。視界も思考も、一気に持っていかれる。一瞬で、色欲に目が眩むとはこのことか、と納得してしまう。自分で云うのも烏滸おこがましいが、生まれてこのかた女にも男にさえも不自由したことのない俺が、俺の本能が、全身全霊をかけてわめき立てている。

ーーーこの子を喰らい尽くしたい、と。

ぐっと腕を組んで自分自身を戒めなければ、今にも襲い掛かってしまう程度には色欲に狂っている。何だ、この状況。可笑しくもないのに嗤いが込み上げてきて鼻歌でも歌ってしまいそうだ。無意識の舌なめずりで、涎が湧き上がってくるのを知る。ガチガチに反り返った欲望を宥めようにも、どんどん濃度を増す甘さに、もう気が触れる寸前まで追い込まれている。歯がカチカチ鳴った。悪寒か、武者震いか、それとも恍惚か。ああ、頭が割れそうだ。眩暈がする。欲望が皮膚をぶち破って爆発する。目蓋の裏側で火花が散った、その時

ーーー喰らってしまえばいい、と

頭の片隅で悪魔が囁いた。


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