影牢 -かげろう-

帯刀通

文字の大きさ
59 / 94
揺るぎない妥協

03

しおりを挟む
北白川本家の枷が少しなりとも外れたことによって、自由に、なったのだろう。

泉は有り体に言えば、子を為す相手を日夜物色しているようだった。誰と寝ても子が出来るという訳ではなさそうで、蓮華が思うところの「世の覇者となる子」の親として相応しい者に遭うまで、この乱痴気騒ぎは続くらしい。

……ご苦労なことだ。この状況を作り出した泉を恨んだり、憎んだり、憤ったり、そんなことをしても何の意味もない。意味もないと分っているのに僕は未だ、泉のことを完全には受け入れられないでいる。

泉が狙うのは上流階級の男ばかりだった。地位や職業は関係ない。容姿や年齢すら関係なかった。選り好みはしないのか、と此方が聞きたくなる程の節操なさだった。否、此方の容姿や年齢や立場を考えれば、どれだけだろうと選り好み出来る筈なのに、兎に角何かに取り憑かれたように狂い咲いていた。

甘い香りを撒き散らしながら男を誘い歩く、淫らな花。

男たちを紹介しているのは密兄さまらしかった。確かに北白川の娘をそこいらの下郎に抱かせていたのでは面子も何も丸潰れだろうし、そんな危ない橋を渡らせる愚昧さは密兄さまとは無縁のもの。何か策なり考えなりがあるのだろう。今の僕には如何でもいいことだ。

それなのに、相変わらず泉は密兄さまとも頻繁に関係を持っている。泉は密兄さまに其れ程固執していなくても、密兄さまは日に日に泉にのめり込んでいるように見えた。

片時も離したくない、と指先が訴えている。男たちの元へと足取りも軽く、若く綺羅綺羅しい羽根を広げて飛んでいく泉の後姿に、伸ばしかけた指を堪えて一瞬眉をひそめる。

その姿を、僕は、美しいと思った。切なげで、苦しげで、愛しさに溢れていた。胸がずくん、と刺された。
仮令たとえ泉の発情フェロモンに狂わされていただけだとしても。

ーーーそんなに厭なら手放さなければいいのに。

何故、他の男の元に送り出すような真似をするのだろう。密兄さまなら文句なく泉に、というか「美澄」に相応しい人間だと誰もが認めることだろう。だが、厳然たる事実として、泉は未だ孕まない。

それは不合格の烙印を押されるという、密兄さまの人生にとっては青天の霹靂のような出来事だろう。これまでの人生瑕疵かしのひとつもつけられたことのなさそうな彼にとっては、何故自分では足りないのだろう、とさぞ不愉快な思いをしていることだろうけれど。

それでも泉に、他の男の元には行くな、とは云わないのは彼なりの矜持か。或いは、たとえ行ったとしても泉は必ず戻ってくる、と確信があるせいなのか。密兄さまは、泉を送り出した後は何かにえるように独り、酒を飲んでいることが多い。あれだけ社交界で浮名を流していた麝香じゃこうの男とは思えない変貌ぶりに、正直僕も驚きを隠せない。

……意外と可愛げのある人だったんだな。

密兄さまの様子を蓮華から聞く度に、僕は新鮮な気持ちで密兄さまを見直すことになった。まさか密兄さまが泉に嵌るようなことがあるとは。世の中、何が起こるか分らないものだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...