影牢 -かげろう-

帯刀通

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隷属者の下剋上

01

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ガラス一枚隔てた外は、うだるような暑さ。
ガラス一枚隔てた内は、

ーーーまるで氷点下だな、こりゃ。

愛は珍しく怒りを隠さずに、ムスリと黙り込んでいる。俺に持って行かれたと思って取り返しに来た筈の「囚われのお姫様」がドアを蹴破って登場したとあっては、まあ男としては面目丸潰れな状況である。

肩透かしもいいところだ。頼みもしないのに向こうから現われて、あまつさえ自分の貞操を救われたとあっては……同じ男として、同情せんでもない。襲おうとしていた俺が言うのも何ですが。

気持ちを落ち着かせて一旦場を仕切り直そうという俺の提案は承認され、部屋の中心に置かれたローテーブルの四辺を囲むように置かれたラタンのソファにそれぞれ一人ずつ座っている。この広い空間に大きな三角形を描くように、等間隔で、付かず離れずの距離を保ってはいるものの、空気が重い。

気を紛らわせようと、年若い従弟たちに冷えたシャンパンを注いでやる。泡立ち消えていく気泡とは対照的に、どんどん沈黙が質量を増していく。

ーーー面倒くせえなぁ、もう。

美澄、もとい泉が現われたことにより、愛から醸し出されていたフェロモンのように甘い馥郁たる香りは急激に消え失せている。

どうやって場を収めるか……。巻き込まれた立場の俺が発言するのも違う気がするのだが、このまま放っておいても時間の無駄だ。

ーーー先鞭をつけるのも年長者の役目ってことで。

「……それで?泉はなんでのこのこ戻ってきたの?相手はどうした?」

今夜の相手は誰だかもう忘れてしまったけれど、予定では今頃何処か俺の預かり知らぬところで濃厚に絡み合って睦み合っていた筈だ。

「それどころじゃないっての。蓮華が急に、おし」

突然、どんっと泉の頭が前方に押されたように傾いて、椅子から前のめりに転げ落ちそうになった。

「っ、痛ったぁ!何すんの!?蓮華のバカ!本当のことでしょうが!」

眉間に皺を寄せて怒鳴る姿は、どんなに美澄の外見をしていても、もはや別人だ。
俺は見慣れてきたけれど、愛が眉を顰める気持ちもよく解る。

どうも美澄の顔で、泉の言動というのは、見慣れた俺ですら違和感しか覚えない。あんなに令嬢然としていたのは夢幻ゆめまぼろしかと思う程に。

勿論、対外的には上手に取り繕っている。泉とてバカではないのだ。北白川の評判を落とすような真似を自らすることはないが、どうも気を許した相手の前では地が出てしまうのか、露悪趣味的に振る舞うきらいがある。その辺りもまだまだ子供の証だ。

「……もうっ!そうやってドツくのやめてよね。僕はサンドバッグじゃないっての」

一人でブツブツ文句を言いながら、あらぬところを見てくるくると表情を変えて話す様子は、正直言って怪しいことこの上ない。良からぬ電波を受け取ってしまっているようで、最初は本気で心配したものだが。

何のことはない。泉にしかその姿が見えない蓮華と会話しているだけらしい。蓮華は一体何者なのか、未だによく理解出来てはいないけれど、納得はしている。アレは、泉に害を為すモノ……とも言い切れない。美澄と泉をこんな状況に追い込んだ張本人ではあるのだが、アレにも何か事情があるらしいし、それなりに泉のことを気に入って気遣っていることが解るから無碍にも出来ない。

というより、俺にはどうしてやることも出来ない。霊的とか精神的とかは範疇外だし。
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