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調律と戦慄
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僕がこの掌に持てるだけのモノは何だ。
知識なら脳髄に詰め込まれている。其等を遣って何が成せる。美澄を取り戻すために失うモノが在るとしたなら、何と引換に出来る。本当に譲れないモノとは何だ。
「……僕は非力だな」
自嘲気味に溢した独白を、門倉は静かに拾った。
「真愛様、今貴方様の華奢な腕に抱くことが出来るもの、取り溢す可能性のもの、いつか”失う未来”を恐れますな。
最後にその御心の裡に何が残されるのか。そこから未来に向かって何が掴み取れるのか。如何に些細な物事でも宜しいのです。貪欲に諦めず前を向いて、求めなされませ」
そこで漸く鉄面皮を外し、笑みを見せた。門倉の心からの笑顔を見るのは久し振りだ。時に家族よりも近くで、支え、見守り、厳しくも慈しんでくれた師のような存在。与えられた激励と託された信頼に、胸が震えた。
「貴方様なら必ず成し遂げられます。何せ、この私めがお育てしたのですからな」
出来ないとは云わせない。そんな声が聞こえてきそうだった。ニヤリと茶目っ気たっぷりに云って、深く深く最敬礼の角度を保つ。
「お嬢様をどうか、お守り下さい」
「……任せておけ」
背を向けて、扉に手をかける。この手で掴み取るのだ。荒い息と乱れる理性を叱咤して、背筋を伸ばす。
さあ、戦いを始めよう。
今日何度目か、荒々しくドアを開け放つ。瞬間、足元が崩れる衝撃の波動を何とか堪える。
有らん限りの力を入れて締めていた筈の内股から、じわじわと零れて流れていく淫らな欲望が止められない。下口唇を噛み千切る勢いで、正気を保つぎりぎりの線で、理性を総動員する。
まだ、だ。まだ流されるな。
感情にも欲望にも嫉妬にも怒りにも、決して流されるな。勝算はある。仮説に誤謬は無い。僕が今為すべきことを為すだけだ。
ぐしゃぐしゃと濡れ濡って乱れに乱れた褥に投げ出された、細く白い肌を視線でなぞる。生きてはいるようだ。規則的に上下する胸の辺りを注視する。紅く散る花びらの数を数える寸前で断ち切る。
声を、掛けていいのだろうか。僕の声を、聴いてくれるのだろうか。
是は、想像以上に人間を愚かにするものだ。かつてない程に臆病にもなる。
……怯むな。何の為に僕は此処にいるのか、思い出せ。
奪われても疵つけられても、僕は何も損なわれたりしない。
さあ、僕の価値を彼等に示せ。僕は、僕以外の誰にも侵されたりしない。
知識なら脳髄に詰め込まれている。其等を遣って何が成せる。美澄を取り戻すために失うモノが在るとしたなら、何と引換に出来る。本当に譲れないモノとは何だ。
「……僕は非力だな」
自嘲気味に溢した独白を、門倉は静かに拾った。
「真愛様、今貴方様の華奢な腕に抱くことが出来るもの、取り溢す可能性のもの、いつか”失う未来”を恐れますな。
最後にその御心の裡に何が残されるのか。そこから未来に向かって何が掴み取れるのか。如何に些細な物事でも宜しいのです。貪欲に諦めず前を向いて、求めなされませ」
そこで漸く鉄面皮を外し、笑みを見せた。門倉の心からの笑顔を見るのは久し振りだ。時に家族よりも近くで、支え、見守り、厳しくも慈しんでくれた師のような存在。与えられた激励と託された信頼に、胸が震えた。
「貴方様なら必ず成し遂げられます。何せ、この私めがお育てしたのですからな」
出来ないとは云わせない。そんな声が聞こえてきそうだった。ニヤリと茶目っ気たっぷりに云って、深く深く最敬礼の角度を保つ。
「お嬢様をどうか、お守り下さい」
「……任せておけ」
背を向けて、扉に手をかける。この手で掴み取るのだ。荒い息と乱れる理性を叱咤して、背筋を伸ばす。
さあ、戦いを始めよう。
今日何度目か、荒々しくドアを開け放つ。瞬間、足元が崩れる衝撃の波動を何とか堪える。
有らん限りの力を入れて締めていた筈の内股から、じわじわと零れて流れていく淫らな欲望が止められない。下口唇を噛み千切る勢いで、正気を保つぎりぎりの線で、理性を総動員する。
まだ、だ。まだ流されるな。
感情にも欲望にも嫉妬にも怒りにも、決して流されるな。勝算はある。仮説に誤謬は無い。僕が今為すべきことを為すだけだ。
ぐしゃぐしゃと濡れ濡って乱れに乱れた褥に投げ出された、細く白い肌を視線でなぞる。生きてはいるようだ。規則的に上下する胸の辺りを注視する。紅く散る花びらの数を数える寸前で断ち切る。
声を、掛けていいのだろうか。僕の声を、聴いてくれるのだろうか。
是は、想像以上に人間を愚かにするものだ。かつてない程に臆病にもなる。
……怯むな。何の為に僕は此処にいるのか、思い出せ。
奪われても疵つけられても、僕は何も損なわれたりしない。
さあ、僕の価値を彼等に示せ。僕は、僕以外の誰にも侵されたりしない。
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