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【星ワタリ篇】~第1章~(題1部)
夢九夜
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呪われた柩型の鞄の上で、賽を投げると始まるゲーム……。
それが、【ナイトメア・メイズ】。
「白の書と、黒の書と、紅の書……どれがイイ?」
死神・ファントムはミュウの体を抱きかかえたまま問い掛ける。
「はぁ? ……なんだそれ?」
メアリが睨んで聞き返す。
「【トラベラーズ・ダイアリー】」
掌から分厚い三つの書物を取り出し、手を広げる。
「……まぁ、このゲームをやる上でのルールブックみたいなモノ……かなぁ?」
「おい! そんな訳のわからんゲーム、やるだなんて一言も言ってないぞ!」
「……ダメだよォ? だってキミたちは賽を投げちゃったんだから……。
それにもうゲーム始まっちゃってるしィ……」
ナイトは少しの間、瞳を閉じて考える。
そして、思いついたように答えた。
「……青の書でお願いします」
「……青の書?」
ファントムが首を傾げる。
「ハイ。 青で」
「……そんなモノはないよォ?」
…………☆☆☆
「ワタクシは色は青が好きデス」
後ろでメアリが吹き出す。
「……青、ないのデスかぁ。 チッ」
……いかにも気に入らなさそうに舌打ちするナイト。
「オイw; 真面目に考えろ!!」
ナイトがいつも身につけているマントの色も澄んだ藍だった。
「では、紅の書で」
「紅の書ネェ……OKェ……」
ファントムの掌が光り輝く。
「おい……なんで紅を選んだ!?」
「むふふん♪……苺色みたいで美味しそうかと」
……思いまして?
ナイトがポッと頬を赤く染める。
「バカヤロォーー!! そんな理由かよぉーー!!」
メアリは絶叫した。
足元に紅色の表紙の書物が落ちてきた。
「それじゃァ、キミたち煉獄逝きネェ……」
ふたりは動きを止める。
「煉獄……?」
「この本の色で……このゲームで死んだ後の逝き先が決まるんダァ……」
「死……!?」
「そう……、白だと天国、黒だと地獄、紅は……」
一瞬、虚空を眺める。
「……天国にも地獄にも逝けず魂のみとなり、永遠にあの世とこの世の狭間を彷徨い続ける……」
「お……い? ……死ぬのか? そのゲームをやると……?」
メアリが引きつる。
「……絶対に死ぬだなんて言ってないヨォ?
……死ぬ可能性が高いヨ☆っていうだけのハナシィ……」
――――。
「――誰がやるか!! そんなゲーム!!」
「……だからダメだってば……。
だってこのゲーム……途中で止めたりしたら、死ぬから……」
――!?
「キミたち皆、死んじゃうヨォ?
……ついでにこの世界も一緒に滅亡だァ……。
ボクはこのコの魂も奪えて、一石二鳥だけどォ……」
ファントムは再びミュウを強く抱きしめる。
「タダでとは言わないヨォ?
……もしこのゲームを最後までやり遂げて、生き残ることができたなら……。
一つだけキミたちの願いを叶えて、ア・ゲ・ル……☆」
願い……?
「どんな願いでも、ですか?」
「ウン……、どォんな願いでも、OKダヨォ……☆」
…………。
少し間を置いてから、ナイトは重い口を開いた。
「――そのゲーム、やらせていただきますっ!」
むふふんっ♪ と胸を張る。
「ナイト……!?」
隣りでメアリが驚く。
「何言って――」
言いかけたその声を遮る。
「大丈夫です、死ななければ良いだけの話です。
……どちらにしろ後戻りは出来ないのでしょう?」
「それはそうだが……」
突然のその言葉に、ただただ焦ってしまう。
「なら、進むしかないではありませんか。
……それとも――」
ナイトが瞳を鋭くする。
「このワタクシがこんな子供騙しなふざけた遊びに、負けるとでもお思いで……?」
まるで支配者か何かのように黒く重く、メアリを見下す。
「い、いや……」
それ以上言葉が出せなかった。
…………。
「……ワタクシには、どうしても叶えなければならない【願い】があります」
ナイトが俯いて呟く。
……メアリの位置からではナイトの表情は見えなかった。
……微かな風がナイトの髪を揺らし、ただ口元が笑んでいるのだけが見えた――。
「貴方はさっきどんな願いでも叶えると言いましたが、それは嘘ですね……」
今度はファントムに問い掛ける。
「貴方には、ひとつだけ叶えることの出来ない願いがありますね?」
「……ヘエェ……やっぱり、そんなことまで分かっちゃうんだァ……」
そう言われることを分かっていたかのように、
「どうしてバレちゃったのカナァ……?
もしかして、知っていたのカナァ……?」
笑う。
「さぁて、どうでしょうねぇ?」
メアリの胸の内にひとつの疑問が浮かんだ。
――まさかナイトは……。
いや、そんなはずはない。
……そう思いたくなかった。
「そうそう……このゲーム、大昔にもやった者が居たんだけど……。
その時は世界戦争まで勃発しちゃって大変だったんだァ……☆」
ファントムは淡々と語りだす。
「その中で独りだけ生き残ったヤツがいたんだけどォ……面白いんだァ……」
ナイトに顔を近づけて問い掛ける。
「そいつ、ボクになんてお願いしてきたと思うゥ……?」
ナイトは顔色ひとつ変えない。
「【殺してください】だってさあァ……笑っちゃうよネェ☆」
奇妙な声で笑う。
「きっと、世界中で自分独りだけになったことに耐えられなかったんだネェ……。
でもせっかく生き残ることができたのにさァ……意味無いよネェ……」
――――。
「キヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒイイィ!!」
――異常……。
異常だ……。
メアリは気分を悪くした。
「……むふふ……ふふ……ふふふ……」
――!?
突然聞こえてきた声に背筋がゾッとした。
――それはナイトの笑い声だった。
「ふふはははははははははは、あはははははっっ!!」
まるでゲームを楽しむ無邪気な子供のように、腹を抱えて笑い転げている。
「そうデスね……可笑しいですね……」
涙を拭う。
「その者はまったく愚かです……。
世界中の者が死に、自分だけが生き残ったのなら逆に好都合ではないですか……」
メアリはそんな事態にただ見ていることしか出来なかった。
……恐ろしい。
とても恐ろしい。
ナイトはそんな存在なのだと改めて感じた。
「この世界を我が物にするほどの力を、得ることも出来たであろうに……」
その笑みはまるで、【魔】をも【神】ですらも超越する、【何か】のようだった。
「そうだね……」
ファントムは笑うのを止めた。
それが、【ナイトメア・メイズ】。
「白の書と、黒の書と、紅の書……どれがイイ?」
死神・ファントムはミュウの体を抱きかかえたまま問い掛ける。
「はぁ? ……なんだそれ?」
メアリが睨んで聞き返す。
「【トラベラーズ・ダイアリー】」
掌から分厚い三つの書物を取り出し、手を広げる。
「……まぁ、このゲームをやる上でのルールブックみたいなモノ……かなぁ?」
「おい! そんな訳のわからんゲーム、やるだなんて一言も言ってないぞ!」
「……ダメだよォ? だってキミたちは賽を投げちゃったんだから……。
それにもうゲーム始まっちゃってるしィ……」
ナイトは少しの間、瞳を閉じて考える。
そして、思いついたように答えた。
「……青の書でお願いします」
「……青の書?」
ファントムが首を傾げる。
「ハイ。 青で」
「……そんなモノはないよォ?」
…………☆☆☆
「ワタクシは色は青が好きデス」
後ろでメアリが吹き出す。
「……青、ないのデスかぁ。 チッ」
……いかにも気に入らなさそうに舌打ちするナイト。
「オイw; 真面目に考えろ!!」
ナイトがいつも身につけているマントの色も澄んだ藍だった。
「では、紅の書で」
「紅の書ネェ……OKェ……」
ファントムの掌が光り輝く。
「おい……なんで紅を選んだ!?」
「むふふん♪……苺色みたいで美味しそうかと」
……思いまして?
ナイトがポッと頬を赤く染める。
「バカヤロォーー!! そんな理由かよぉーー!!」
メアリは絶叫した。
足元に紅色の表紙の書物が落ちてきた。
「それじゃァ、キミたち煉獄逝きネェ……」
ふたりは動きを止める。
「煉獄……?」
「この本の色で……このゲームで死んだ後の逝き先が決まるんダァ……」
「死……!?」
「そう……、白だと天国、黒だと地獄、紅は……」
一瞬、虚空を眺める。
「……天国にも地獄にも逝けず魂のみとなり、永遠にあの世とこの世の狭間を彷徨い続ける……」
「お……い? ……死ぬのか? そのゲームをやると……?」
メアリが引きつる。
「……絶対に死ぬだなんて言ってないヨォ?
……死ぬ可能性が高いヨ☆っていうだけのハナシィ……」
――――。
「――誰がやるか!! そんなゲーム!!」
「……だからダメだってば……。
だってこのゲーム……途中で止めたりしたら、死ぬから……」
――!?
「キミたち皆、死んじゃうヨォ?
……ついでにこの世界も一緒に滅亡だァ……。
ボクはこのコの魂も奪えて、一石二鳥だけどォ……」
ファントムは再びミュウを強く抱きしめる。
「タダでとは言わないヨォ?
……もしこのゲームを最後までやり遂げて、生き残ることができたなら……。
一つだけキミたちの願いを叶えて、ア・ゲ・ル……☆」
願い……?
「どんな願いでも、ですか?」
「ウン……、どォんな願いでも、OKダヨォ……☆」
…………。
少し間を置いてから、ナイトは重い口を開いた。
「――そのゲーム、やらせていただきますっ!」
むふふんっ♪ と胸を張る。
「ナイト……!?」
隣りでメアリが驚く。
「何言って――」
言いかけたその声を遮る。
「大丈夫です、死ななければ良いだけの話です。
……どちらにしろ後戻りは出来ないのでしょう?」
「それはそうだが……」
突然のその言葉に、ただただ焦ってしまう。
「なら、進むしかないではありませんか。
……それとも――」
ナイトが瞳を鋭くする。
「このワタクシがこんな子供騙しなふざけた遊びに、負けるとでもお思いで……?」
まるで支配者か何かのように黒く重く、メアリを見下す。
「い、いや……」
それ以上言葉が出せなかった。
…………。
「……ワタクシには、どうしても叶えなければならない【願い】があります」
ナイトが俯いて呟く。
……メアリの位置からではナイトの表情は見えなかった。
……微かな風がナイトの髪を揺らし、ただ口元が笑んでいるのだけが見えた――。
「貴方はさっきどんな願いでも叶えると言いましたが、それは嘘ですね……」
今度はファントムに問い掛ける。
「貴方には、ひとつだけ叶えることの出来ない願いがありますね?」
「……ヘエェ……やっぱり、そんなことまで分かっちゃうんだァ……」
そう言われることを分かっていたかのように、
「どうしてバレちゃったのカナァ……?
もしかして、知っていたのカナァ……?」
笑う。
「さぁて、どうでしょうねぇ?」
メアリの胸の内にひとつの疑問が浮かんだ。
――まさかナイトは……。
いや、そんなはずはない。
……そう思いたくなかった。
「そうそう……このゲーム、大昔にもやった者が居たんだけど……。
その時は世界戦争まで勃発しちゃって大変だったんだァ……☆」
ファントムは淡々と語りだす。
「その中で独りだけ生き残ったヤツがいたんだけどォ……面白いんだァ……」
ナイトに顔を近づけて問い掛ける。
「そいつ、ボクになんてお願いしてきたと思うゥ……?」
ナイトは顔色ひとつ変えない。
「【殺してください】だってさあァ……笑っちゃうよネェ☆」
奇妙な声で笑う。
「きっと、世界中で自分独りだけになったことに耐えられなかったんだネェ……。
でもせっかく生き残ることができたのにさァ……意味無いよネェ……」
――――。
「キヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒイイィ!!」
――異常……。
異常だ……。
メアリは気分を悪くした。
「……むふふ……ふふ……ふふふ……」
――!?
突然聞こえてきた声に背筋がゾッとした。
――それはナイトの笑い声だった。
「ふふはははははははははは、あはははははっっ!!」
まるでゲームを楽しむ無邪気な子供のように、腹を抱えて笑い転げている。
「そうデスね……可笑しいですね……」
涙を拭う。
「その者はまったく愚かです……。
世界中の者が死に、自分だけが生き残ったのなら逆に好都合ではないですか……」
メアリはそんな事態にただ見ていることしか出来なかった。
……恐ろしい。
とても恐ろしい。
ナイトはそんな存在なのだと改めて感じた。
「この世界を我が物にするほどの力を、得ることも出来たであろうに……」
その笑みはまるで、【魔】をも【神】ですらも超越する、【何か】のようだった。
「そうだね……」
ファントムは笑うのを止めた。
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