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四発目 ターゲット・&・ニューカマー
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引き抜かれた拳銃は、シングルアクションの旧型リボルバーだった。大砲が鉄砲となり、鉄砲の小型化が始まって幾世紀、銃は様々な発展を遂げたわけだが、彼女が右手で構えるソレは、中でも最初期に、とあるガンスミスが開発した、現在の多くの拳銃の雛型となっているモノの一つだった。
「ヘイ、ボーイ。彼女、嫌がってるわ。紳士じゃないのね」
とはいえ、それは彼女の仕事道具、改造の重ねられた銃身は、見る者が見れば、最早全く別物と言っても差支えない代物に仕上がっていることに気が付くだろう。漆黒に朱の一筋をあしらったロングバレル、シルバーグレーのシリンダーは丁寧に磨き上げられ妖しい輝きを湛えている。ボルドーのグリップを握りしめた手は、それとは対照的に白く細く、骨のように確からしかった。
勿論、ハンマーは高らかと聳えている。
「おっと、これは失礼。ボクは別に、乱暴しようってワケじゃあないのさ。その子のお守りを頼まれたんだ。本当だよ?」
少女の腕から手を離し、両手を挙げて降参のポーズをとる少年。おちゃらけた声、僅かに上がった口角、嘗め回すような視線。油断ならないヤツ。マイアは即座に判断した。
「ダウト。嘘って顔に出るのよ。ポーカーフェイスの練習をオススメするわ」
にべもなく返す。拳銃は少年の額に突き立っていた。
少年の身長は、マイアより少し高い程度だった。マイアが小柄な方であるので、したがって少年もそれに倣うことになる。白のシャツに、ノースリーブの青いジャケットを羽織った彼は、彼女の威圧を意にも介さず、不敵にも笑っていた。
「行きましょう、ライラちゃん」
マイアは、二人よりも更に幼い少女の手を取り、雑踏の中へと引き込む。彼女が男に拳銃を突きつけていたのは、ほんの僅かな時間であり、また密着もしていたために、人目を余計に引いてしまうことは無かった。
否、そもそもに、この街において、拳銃の携帯は、然程、珍しいことでは無かったのだ。
「おねえさん、だれ?」
「マイアよ。マイア=ノブリス。詳しい自己紹介は、また後で。ね?」
昼過ぎになっても、バルバロエの賑わいは衰えない。それどころか、飯所に集っていた町人達が、再び通りに戻ってきたことで、人混みの密度は増していた。
去って、消えた。二人の背を想いながら、少年は、舌を打つでもなく、地団太を踏むでもなく、ただ、空虚に笑っていた。
「置いてけぼりは嫌だよぅ。ねえ、、ねえ、、、ねえ。遊んでほしかったのに」
ズボンのポケットに手を沈める。冷たい輪郭を指で撫でた。自身の体の一部にも等しいソレが、温い抵抗を受けるのはいつなのか。
得物は只一振の白刃。また笑う。
遡ること、ごく僅か。冷めた昼食を掻き込んだマイアは、老若男女が往来する中心街の波に浮かんでいた。
一枚の写真を手に。写り込んでいるのは一人の少女。幼女と言うべきだろうか。齢は十を超しているかどうか、というところだろう。あどけない微笑みから、マイアはそう推測した。
もっとも、そんなことは、彼女にとって、別段、特別な意味を持つファクターではない。獲物が年若いことに意味など無い。あくまで、ターゲットは幼い、というだけの話だ。
少女がどこでどのようにしている可能性が高いか。これは、事前にガルバロンが提供してきた資料で明かされている。まあ、娘を殺そうなどという発想に到るような狂人が提供した我が子についての情報など、信憑性に欠けること、この上ないのだが。だが、それ以外にアテも無い。マイアは、悶々とした思いを抱えながら、止まらぬ流れに目を凝らしていた。
居らぬ神に捧げる感謝など、彼女は持ち合わせていない。しかし、この時ばかりは、彼女とて、在りもせぬ神の威光を感じたのではないか。
十分と経たぬうちに、件の少女が、眼前に飛び込んできたのだから。
惜しむらくは、余計なモノが一つ付いて来たこと。どう振り払おうか、などと考える間もなく、彼女は歩き出していた。
「ヘイ、ボーイ。彼女、嫌がってるわ。紳士じゃないのね」
魔術の域に届きそうな早業で、少年の額にリボルバーを圧しあてるマイア。彼女の交渉術は、銃に始まり、銃に終わる。つまるところ、脅迫以外の対話の手段に、彼女は馴染みがなかったのだ。
「ダウト。嘘って顔に出るのよ。ポーカーフェイスの練習をオススメするわ」
鏡があれば、自身の完璧なポーカーフェイスが目に入っただろう。口から出任せである。皮肉とも言う。
「行きましょう、ライラちゃん」
サッパリとしていて、直接的なコミュニケーションを好む彼女。一つ失策であったが、ここでは気づかない。もっとも、致命的ではなかった。
彼女が彼女であり、彼女が彼女であったために。
「おねえさん、だれ?」
「マイアよ。マイア=ノブリス。詳しい自己紹介は、また後で。ね?」
ゴーグルとマフラーで素顔を隠した少女が、より幼い少女の手を引き、人の波を割りては進む。
珍奇な構図は、どうも彼女につきものらしかった。
「ヘイ、ボーイ。彼女、嫌がってるわ。紳士じゃないのね」
とはいえ、それは彼女の仕事道具、改造の重ねられた銃身は、見る者が見れば、最早全く別物と言っても差支えない代物に仕上がっていることに気が付くだろう。漆黒に朱の一筋をあしらったロングバレル、シルバーグレーのシリンダーは丁寧に磨き上げられ妖しい輝きを湛えている。ボルドーのグリップを握りしめた手は、それとは対照的に白く細く、骨のように確からしかった。
勿論、ハンマーは高らかと聳えている。
「おっと、これは失礼。ボクは別に、乱暴しようってワケじゃあないのさ。その子のお守りを頼まれたんだ。本当だよ?」
少女の腕から手を離し、両手を挙げて降参のポーズをとる少年。おちゃらけた声、僅かに上がった口角、嘗め回すような視線。油断ならないヤツ。マイアは即座に判断した。
「ダウト。嘘って顔に出るのよ。ポーカーフェイスの練習をオススメするわ」
にべもなく返す。拳銃は少年の額に突き立っていた。
少年の身長は、マイアより少し高い程度だった。マイアが小柄な方であるので、したがって少年もそれに倣うことになる。白のシャツに、ノースリーブの青いジャケットを羽織った彼は、彼女の威圧を意にも介さず、不敵にも笑っていた。
「行きましょう、ライラちゃん」
マイアは、二人よりも更に幼い少女の手を取り、雑踏の中へと引き込む。彼女が男に拳銃を突きつけていたのは、ほんの僅かな時間であり、また密着もしていたために、人目を余計に引いてしまうことは無かった。
否、そもそもに、この街において、拳銃の携帯は、然程、珍しいことでは無かったのだ。
「おねえさん、だれ?」
「マイアよ。マイア=ノブリス。詳しい自己紹介は、また後で。ね?」
昼過ぎになっても、バルバロエの賑わいは衰えない。それどころか、飯所に集っていた町人達が、再び通りに戻ってきたことで、人混みの密度は増していた。
去って、消えた。二人の背を想いながら、少年は、舌を打つでもなく、地団太を踏むでもなく、ただ、空虚に笑っていた。
「置いてけぼりは嫌だよぅ。ねえ、、ねえ、、、ねえ。遊んでほしかったのに」
ズボンのポケットに手を沈める。冷たい輪郭を指で撫でた。自身の体の一部にも等しいソレが、温い抵抗を受けるのはいつなのか。
得物は只一振の白刃。また笑う。
遡ること、ごく僅か。冷めた昼食を掻き込んだマイアは、老若男女が往来する中心街の波に浮かんでいた。
一枚の写真を手に。写り込んでいるのは一人の少女。幼女と言うべきだろうか。齢は十を超しているかどうか、というところだろう。あどけない微笑みから、マイアはそう推測した。
もっとも、そんなことは、彼女にとって、別段、特別な意味を持つファクターではない。獲物が年若いことに意味など無い。あくまで、ターゲットは幼い、というだけの話だ。
少女がどこでどのようにしている可能性が高いか。これは、事前にガルバロンが提供してきた資料で明かされている。まあ、娘を殺そうなどという発想に到るような狂人が提供した我が子についての情報など、信憑性に欠けること、この上ないのだが。だが、それ以外にアテも無い。マイアは、悶々とした思いを抱えながら、止まらぬ流れに目を凝らしていた。
居らぬ神に捧げる感謝など、彼女は持ち合わせていない。しかし、この時ばかりは、彼女とて、在りもせぬ神の威光を感じたのではないか。
十分と経たぬうちに、件の少女が、眼前に飛び込んできたのだから。
惜しむらくは、余計なモノが一つ付いて来たこと。どう振り払おうか、などと考える間もなく、彼女は歩き出していた。
「ヘイ、ボーイ。彼女、嫌がってるわ。紳士じゃないのね」
魔術の域に届きそうな早業で、少年の額にリボルバーを圧しあてるマイア。彼女の交渉術は、銃に始まり、銃に終わる。つまるところ、脅迫以外の対話の手段に、彼女は馴染みがなかったのだ。
「ダウト。嘘って顔に出るのよ。ポーカーフェイスの練習をオススメするわ」
鏡があれば、自身の完璧なポーカーフェイスが目に入っただろう。口から出任せである。皮肉とも言う。
「行きましょう、ライラちゃん」
サッパリとしていて、直接的なコミュニケーションを好む彼女。一つ失策であったが、ここでは気づかない。もっとも、致命的ではなかった。
彼女が彼女であり、彼女が彼女であったために。
「おねえさん、だれ?」
「マイアよ。マイア=ノブリス。詳しい自己紹介は、また後で。ね?」
ゴーグルとマフラーで素顔を隠した少女が、より幼い少女の手を引き、人の波を割りては進む。
珍奇な構図は、どうも彼女につきものらしかった。
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