10 / 22
異世界生命体の脅威。
しおりを挟む
「そもそもイーターって何ですか?」
楓の質問に、惣一は思わず彼女を二度見してしまった。
そのリアクションは、まさしく「今さら何を・・・」困惑しているのがアリアリだ。
イーターとは?
9ヶ月前にフランスで行われていた"人工ブラックホール生成実験”において、予期せぬ結果として”穴”が出現してしまった。
穴とは異世界とを結ぶ文字通り穴である。
しかし、穴は非常に不安定であり、出現してもせいぜい1~2時間くらいしか存在せず、しかも数百キロ離れた場所へと瞬時に移動してしまう。
そのため"穴”への直接探索は一向に進まないばかりか、穴の向こうから異形の生命体がこちらの世界へと侵入してきた。
異世界生命体。
彼らは外見的に、現在確認されている地球上のどの生物にも該当しない。
外見的な特徴として、紫色のツヤのある表皮と鋭い爪を持つ6本~8本の脚。そして口腔すべてに並ぶ30センチの牙が挙げられる。
彼らの爪や牙は一般の乗用車程度なら簡単に貫く鋭さを誇る。
彼らが現世界の生物と一線を画すのは、鋭い牙を持ちながら、その捕食方法は"噛み砕く”ではなく”ガッチリと捕らえてから同化吸収”する。
つまり、口状の機能を持ちながらも、必ずしも捕食に口を必要としていないのだ。
さらに。
彼らは睡眠を必要とせず、常に獲物を見つけては捕食する、まるで貪食性の塊のような生き物だ。
加えて、彼らの表皮は柔軟でありながらも、多くの軍隊で採用されている5.56ミリアサルトライフルの銃弾では撃ち抜くことができず、PRGなどの銃火器が有効とされた。
そもそも、彼らイーターは血液に該当するものを持たず、7.62ミリ機関銃の掃射で体中を撃ち抜かれるも、血液や内臓をブチまける事無く、ただ乾いた粘土が崩れるようにして対組織を分解するのみであり、時間を経ると元通りに再生してしまう。
もしくは、他の個体と接触し、接合して再生を行う。
"穴”の出現時間が1~2時間と短いのが幸いしてか、穴の向こうからやってくるイーターの数は多くても3~5体内に収まっている。
しかし。
世界各国でイーター出現が報告される中、日本の相模湾沖にイルカの群れを追い掛けるイーターの群れが確認された。
その数、実に16体。
世界各国で一度に報告された最大数記録を大きく更新した。
陸防は海岸線に戦車部隊を配置し、一斉掃射でこれを迎撃、殲滅。
その一方で、アメリカのラスベガスで、町中にイーターの遺体が発見された。イーターの死因は墜死したものと判明した。
この2つの事件が証明したのは、恐るべき事実でもあった。
”穴”が出現するのは地上だけとは限らない。
"穴”が出現してから8ヶ月間、世界中で穴の出現が確認された回数は実に200件に上る。
しかし、それはあくまでも地上で確認されている数に過ぎず、ここに来て地上以外にも穴が出現していたとすると、もはや想定すら不可能と言える。
世界は終末へと向かってしまうのか?
それでも未知の脅威に抗おうと世界各国で急きょ対策が練られた。
「現在解っているのは、決して馴れ合える存在ではない事。それにヒョウにも勝る俊敏なイーターを仕留めるためには、ヤツらに見つかる前に仕留める必要があるという事ぐらいかな」
米軍の対イーター戦マニュアルには、戦闘ヘリからのミニガンによる攻撃でイーターの脚を止めておき対戦車火器で仕留めるというもの。
彼らイーターに察知されてからでは、主力戦車のM1A1での追跡は難しく、肝心の戦車砲を命中させる事はほぼ不可能だと断言している。
M1A1戦車が活躍するのは、”穴”が出現する際に穴の向こうの異世界から放出される高濃度の窒素で"穴”の出現場所を特定し、事前に戦車部隊を待機させ迎え撃つ場合に限る。
が。
”穴”が出現しても、一向にイーターが姿を現さないばかりか、結局は出現しないケースも見受けられる。
その度に大量のガソリンを食うM1A1やその他の戦車部隊を配するのは、無駄にコストを膨らませるばかり。
そういった諸経費を削減するためにも対イーター戦マニュアルは大いに活用されている。
「同じ事をこの日本で行うことは難しいですものね」
軍隊に疎い楓でさえお金に関わると、とたんに話の内容を理解してしまう。
これでは、ロック・キャリバーを完成させても、運用で苦労するのは目に見えている。
つくづく岳たちが不憫に思えてならない。
「ちなみに彼、寝住・岳陸士大尉は相模湾迎撃作戦に戦車乗りとして参加していたのですよ」「ほえー」
楓の驚き具合から、どうやら初耳だったらしい。
「じゃあ、日向さんもその時相模湾にいらしたのですか?」
「ええ。掃討後の夜間哨戒任務に就かれていたと聞いています」
敵を殲滅したとはいえ、恐ろしい体験をされたと思う。
「お二方、共に中隊を率いてイーター殲滅に当たられた経験を買われて今回のテストパイロットに選ばれたそうですよ」補足事項を付け加えた。
意外だった。
楓が岳と初めて同じ班になった時、彼はロック・キャリバーを見て、「格闘は可能なのですか?」と常識では考えられない質問をしてきたため、ただのロボットマニアだとナメて掛かっていた。
実際、狭いロック・キャリバーに搭乗する際、彼だけ毎回テンションが高く、他のパイロットと明らかにモチベーションが違っていた。
一方の鷹子は、隊長という責務から非常に厳しい女性だと思っていたが、実戦を経験し、さらに多くの隊員を従える任務に当たっていたのならば、今の厳しさは致し方ないと思える。
経験者は語るではないが、少しだけ彼らを見直した。
「こんな話、女性に聞かせるものではないのですが、イーターの脅威として説明しておきましょう。ある時、日向大尉が海岸線哨戒任務に当たっていた時の事を話してくれました」
いつも以上に、惣一の表情が引き締まった。
「浜辺に打ち上げられたイルカの遺骸はイーターによって捕食されたものでした。彼らイーターは相手を噛み、食べるのではなく、同化吸収して捕食しているのです。その証拠に歯形らしきものは一切無く、体のあちこちに溶けたような跡があったとおっしゃっていました」
ご厚意有り難く、イーターの恐ろしさは十分伝わりました。
ですが、これから家に帰って食事をしようとするこのタイミングでは耳に入れたくない情報でした。
この、バカヤロウ・・・。
楓の質問に、惣一は思わず彼女を二度見してしまった。
そのリアクションは、まさしく「今さら何を・・・」困惑しているのがアリアリだ。
イーターとは?
9ヶ月前にフランスで行われていた"人工ブラックホール生成実験”において、予期せぬ結果として”穴”が出現してしまった。
穴とは異世界とを結ぶ文字通り穴である。
しかし、穴は非常に不安定であり、出現してもせいぜい1~2時間くらいしか存在せず、しかも数百キロ離れた場所へと瞬時に移動してしまう。
そのため"穴”への直接探索は一向に進まないばかりか、穴の向こうから異形の生命体がこちらの世界へと侵入してきた。
異世界生命体。
彼らは外見的に、現在確認されている地球上のどの生物にも該当しない。
外見的な特徴として、紫色のツヤのある表皮と鋭い爪を持つ6本~8本の脚。そして口腔すべてに並ぶ30センチの牙が挙げられる。
彼らの爪や牙は一般の乗用車程度なら簡単に貫く鋭さを誇る。
彼らが現世界の生物と一線を画すのは、鋭い牙を持ちながら、その捕食方法は"噛み砕く”ではなく”ガッチリと捕らえてから同化吸収”する。
つまり、口状の機能を持ちながらも、必ずしも捕食に口を必要としていないのだ。
さらに。
彼らは睡眠を必要とせず、常に獲物を見つけては捕食する、まるで貪食性の塊のような生き物だ。
加えて、彼らの表皮は柔軟でありながらも、多くの軍隊で採用されている5.56ミリアサルトライフルの銃弾では撃ち抜くことができず、PRGなどの銃火器が有効とされた。
そもそも、彼らイーターは血液に該当するものを持たず、7.62ミリ機関銃の掃射で体中を撃ち抜かれるも、血液や内臓をブチまける事無く、ただ乾いた粘土が崩れるようにして対組織を分解するのみであり、時間を経ると元通りに再生してしまう。
もしくは、他の個体と接触し、接合して再生を行う。
"穴”の出現時間が1~2時間と短いのが幸いしてか、穴の向こうからやってくるイーターの数は多くても3~5体内に収まっている。
しかし。
世界各国でイーター出現が報告される中、日本の相模湾沖にイルカの群れを追い掛けるイーターの群れが確認された。
その数、実に16体。
世界各国で一度に報告された最大数記録を大きく更新した。
陸防は海岸線に戦車部隊を配置し、一斉掃射でこれを迎撃、殲滅。
その一方で、アメリカのラスベガスで、町中にイーターの遺体が発見された。イーターの死因は墜死したものと判明した。
この2つの事件が証明したのは、恐るべき事実でもあった。
”穴”が出現するのは地上だけとは限らない。
"穴”が出現してから8ヶ月間、世界中で穴の出現が確認された回数は実に200件に上る。
しかし、それはあくまでも地上で確認されている数に過ぎず、ここに来て地上以外にも穴が出現していたとすると、もはや想定すら不可能と言える。
世界は終末へと向かってしまうのか?
それでも未知の脅威に抗おうと世界各国で急きょ対策が練られた。
「現在解っているのは、決して馴れ合える存在ではない事。それにヒョウにも勝る俊敏なイーターを仕留めるためには、ヤツらに見つかる前に仕留める必要があるという事ぐらいかな」
米軍の対イーター戦マニュアルには、戦闘ヘリからのミニガンによる攻撃でイーターの脚を止めておき対戦車火器で仕留めるというもの。
彼らイーターに察知されてからでは、主力戦車のM1A1での追跡は難しく、肝心の戦車砲を命中させる事はほぼ不可能だと断言している。
M1A1戦車が活躍するのは、”穴”が出現する際に穴の向こうの異世界から放出される高濃度の窒素で"穴”の出現場所を特定し、事前に戦車部隊を待機させ迎え撃つ場合に限る。
が。
”穴”が出現しても、一向にイーターが姿を現さないばかりか、結局は出現しないケースも見受けられる。
その度に大量のガソリンを食うM1A1やその他の戦車部隊を配するのは、無駄にコストを膨らませるばかり。
そういった諸経費を削減するためにも対イーター戦マニュアルは大いに活用されている。
「同じ事をこの日本で行うことは難しいですものね」
軍隊に疎い楓でさえお金に関わると、とたんに話の内容を理解してしまう。
これでは、ロック・キャリバーを完成させても、運用で苦労するのは目に見えている。
つくづく岳たちが不憫に思えてならない。
「ちなみに彼、寝住・岳陸士大尉は相模湾迎撃作戦に戦車乗りとして参加していたのですよ」「ほえー」
楓の驚き具合から、どうやら初耳だったらしい。
「じゃあ、日向さんもその時相模湾にいらしたのですか?」
「ええ。掃討後の夜間哨戒任務に就かれていたと聞いています」
敵を殲滅したとはいえ、恐ろしい体験をされたと思う。
「お二方、共に中隊を率いてイーター殲滅に当たられた経験を買われて今回のテストパイロットに選ばれたそうですよ」補足事項を付け加えた。
意外だった。
楓が岳と初めて同じ班になった時、彼はロック・キャリバーを見て、「格闘は可能なのですか?」と常識では考えられない質問をしてきたため、ただのロボットマニアだとナメて掛かっていた。
実際、狭いロック・キャリバーに搭乗する際、彼だけ毎回テンションが高く、他のパイロットと明らかにモチベーションが違っていた。
一方の鷹子は、隊長という責務から非常に厳しい女性だと思っていたが、実戦を経験し、さらに多くの隊員を従える任務に当たっていたのならば、今の厳しさは致し方ないと思える。
経験者は語るではないが、少しだけ彼らを見直した。
「こんな話、女性に聞かせるものではないのですが、イーターの脅威として説明しておきましょう。ある時、日向大尉が海岸線哨戒任務に当たっていた時の事を話してくれました」
いつも以上に、惣一の表情が引き締まった。
「浜辺に打ち上げられたイルカの遺骸はイーターによって捕食されたものでした。彼らイーターは相手を噛み、食べるのではなく、同化吸収して捕食しているのです。その証拠に歯形らしきものは一切無く、体のあちこちに溶けたような跡があったとおっしゃっていました」
ご厚意有り難く、イーターの恐ろしさは十分伝わりました。
ですが、これから家に帰って食事をしようとするこのタイミングでは耳に入れたくない情報でした。
この、バカヤロウ・・・。
0
あなたにおすすめの小説
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる