23 / 50
23.しろがねのエレメンツ、ニオブのエレメンツ
しおりを挟む
選択肢は2つ。
宿主の命か、匣か。
エイジが選択を迫られている中、昌樹は頭を巡らせた。
―この女に、まるで壁のように立ちはだかられているこの状況、出口を目指す事はできない。
―では、ベランダから飛び降りて脱出を図るか?
「ねぇねぇエイジ君。この間みたいにピカッと光って相手を蹴り壊す技使えないの?」
まったくの部外者である理依が訊ねた。
最悪のタイミングでの質問。
「おまっ」
昌樹は、すかさず理依へと向き直った。
(相手に手の内を明かしてどうするんだよ!)
「あのFeを一撃で葬った業ね。技名とかあるの?」
デカ女が笑みを浮かべて見下ろしながら訊ねていやがる。
「白銀の刃。エレメンツを分子レベルで破壊する」
呟くように答えた。ってオイ!今度はエイジへと昌樹の顔は向けられた。
「詩的な表現ね。でも、シャープじゃない。それほどの圧倒的攻撃力を誇っているのならズバーとした名前じゃないと釣り合いが取れないわよ。ちなみにナンブの技はディープステッチャー。“深く突き刺す”という意味よ」
アレはどう見ても、刺すというよりも焼き切る攻撃手段だ。
「B‐MAXなんてどうかしら?BはBlade(刃)のB」とフフンと小さく笑って、「白銀ねぇ…アナタ、ひょっとして“銀”のエレメンツ?」
「そうだ。毒を見破り魔物を退ける属性を持つ銀のエレメンツだ」
「なるほどね」
数歩前進してナンブの頭に手を乗せると、彼女の頭を優しく撫でて。
「この子の名前はナンブ。光学素粒子に使われるNbの属性を持つエレメンツ。と言っても貴方のようなオリジナルじゃないけどね」
彼女たちが会話を交わす間、昌樹の顔は双方を行ったり来たりしていた。
(コイツら大丈夫なのか?よくも、こんなにペラペラと己の手の内の明かし合いができるな)
それとも、軍事力を誇示することで隣国からの侵略を免れるレベルの話なのだろうか?
「探偵さん」
ささやき声で理依が話しかけてきた。「何?」同じくささやき声で。
「私、女の子の嗜みとして鏡を持ち歩いているんですけど、コレであの光線技を跳ね返せませんかねぇ」
告げてウエストポーチから名刺サイズの手鏡を取り出した。
あのな…。
アイデアとしては申し分無い。が、しかし、あまりにもサイズが小さ過ぎるだろ!
「素晴らしいアイデアね。試してみる?」
ナンブの頭を撫でながら、不敵な笑みを浮かべる。鏡を出した時点でこちらの頭から頓挫した作戦を察した模様。
「さてと、お喋りの時間はこれでお終い。そろそろ答えを聞かせてくれるかな?エイジ君」
「俺の名前はエージーだ」
「そんな事を訊いているんじゃない!!宿主の命か匣か!答えなさい!」
激高するかのごとくレインは声を荒げた。
エイジは答えない。ダガーナイフを手に取り、逆手に持ち替えた。
「探偵さん。さっきから言っている“匣”て何ですか?」
この目が離せない状況で、呑気に理依が訊ねてきた。
「知らん。ただ、あいつ等に渡すと“本物の神がこの世に現れる”のだそうだ」
目線を動かす事無く答えた。
「現れて何か不都合なコトでもあるんスか?それよりも命を大事にしましょうよ」
部外者の意見としては妥当だ。
が、しかし、あの匣にはサンジェルマンの未来が委ねられている。
「エイジ!俺たちの事は考えなくてもいい。匣を守るのがお前の使命だろ。使命を果たせ」
昌樹の言葉にレインはチッと舌打ちを鳴らし「ナンブ!」
双方が構えを取る。と、その時。
「御取込み中スミマセン」
玄関口から男の声が。
皆の視線が男へと向けられた!
男とは?
宅配業者の男性だった。手にはダンボールの箱を抱えている。
(そっかぁ…。今日は通販の荷物が届く日だったんだ…)
「田中・昌樹さんのお宅ですよね。受け取りのサインをお願いします」
男性の目線からはナイフを手にするエイジの姿は死角になっているようだ。
「まずい!匣が戻って来ちまいやがった!」
思わぬ失態を昌樹は口にした。
「こ、これが…匣!?」
レインの視線も宅配の荷物へと向けられた。
「サインは彼に」
と、中の昌樹を指差して。
「ナンブ!撤収よ!」
宅配業者の男性から箱を奪い取るようにして荷物を受け取ると、レインたちは急いでこの場から立ち去っていった。
「さて、俺たちも逃げる準備をしよう」
受け取りのサインをしながらエイジと理依に告げた。
「え?でも匣は奪われちゃったんだし、もうキケンは無いんでしょう?」
昌樹が利かせた、咄嗟の機転を理解していない理依はきょとんとしている。
「あれの中身はただのウォーキングシューズだよ。あいつ等がそれを知ったら、またここへ押しかけてくるぞ」
説明をしながら、荷物をまとめる。
「理依。お前は関係無いんだから、さっさと先生の所へ戻れ」
「う、うん。でも…」
告げられても、一歩も踏み出さない。
「心配してくれるのか。ありがとな」
笑みを向けるも、理依は照れた様子など一切見せず。
「いやぁ、これを先生に説明しても納得してくんないんスよね。その…。ワケが分からない事だらけだし」
人の心配よりも、帰ったら大目玉を食らってしまう心配しかしていない。
コイツらしいと言えばコイツらしいけど。
「じゃあな理依。先生によろしく言っといてくれ」
「探偵さんもお元気で。エイジ君もね」
ふたりの逃走の旅立ちを、大きく手を振って送り出す理依だった。
宿主の命か、匣か。
エイジが選択を迫られている中、昌樹は頭を巡らせた。
―この女に、まるで壁のように立ちはだかられているこの状況、出口を目指す事はできない。
―では、ベランダから飛び降りて脱出を図るか?
「ねぇねぇエイジ君。この間みたいにピカッと光って相手を蹴り壊す技使えないの?」
まったくの部外者である理依が訊ねた。
最悪のタイミングでの質問。
「おまっ」
昌樹は、すかさず理依へと向き直った。
(相手に手の内を明かしてどうするんだよ!)
「あのFeを一撃で葬った業ね。技名とかあるの?」
デカ女が笑みを浮かべて見下ろしながら訊ねていやがる。
「白銀の刃。エレメンツを分子レベルで破壊する」
呟くように答えた。ってオイ!今度はエイジへと昌樹の顔は向けられた。
「詩的な表現ね。でも、シャープじゃない。それほどの圧倒的攻撃力を誇っているのならズバーとした名前じゃないと釣り合いが取れないわよ。ちなみにナンブの技はディープステッチャー。“深く突き刺す”という意味よ」
アレはどう見ても、刺すというよりも焼き切る攻撃手段だ。
「B‐MAXなんてどうかしら?BはBlade(刃)のB」とフフンと小さく笑って、「白銀ねぇ…アナタ、ひょっとして“銀”のエレメンツ?」
「そうだ。毒を見破り魔物を退ける属性を持つ銀のエレメンツだ」
「なるほどね」
数歩前進してナンブの頭に手を乗せると、彼女の頭を優しく撫でて。
「この子の名前はナンブ。光学素粒子に使われるNbの属性を持つエレメンツ。と言っても貴方のようなオリジナルじゃないけどね」
彼女たちが会話を交わす間、昌樹の顔は双方を行ったり来たりしていた。
(コイツら大丈夫なのか?よくも、こんなにペラペラと己の手の内の明かし合いができるな)
それとも、軍事力を誇示することで隣国からの侵略を免れるレベルの話なのだろうか?
「探偵さん」
ささやき声で理依が話しかけてきた。「何?」同じくささやき声で。
「私、女の子の嗜みとして鏡を持ち歩いているんですけど、コレであの光線技を跳ね返せませんかねぇ」
告げてウエストポーチから名刺サイズの手鏡を取り出した。
あのな…。
アイデアとしては申し分無い。が、しかし、あまりにもサイズが小さ過ぎるだろ!
「素晴らしいアイデアね。試してみる?」
ナンブの頭を撫でながら、不敵な笑みを浮かべる。鏡を出した時点でこちらの頭から頓挫した作戦を察した模様。
「さてと、お喋りの時間はこれでお終い。そろそろ答えを聞かせてくれるかな?エイジ君」
「俺の名前はエージーだ」
「そんな事を訊いているんじゃない!!宿主の命か匣か!答えなさい!」
激高するかのごとくレインは声を荒げた。
エイジは答えない。ダガーナイフを手に取り、逆手に持ち替えた。
「探偵さん。さっきから言っている“匣”て何ですか?」
この目が離せない状況で、呑気に理依が訊ねてきた。
「知らん。ただ、あいつ等に渡すと“本物の神がこの世に現れる”のだそうだ」
目線を動かす事無く答えた。
「現れて何か不都合なコトでもあるんスか?それよりも命を大事にしましょうよ」
部外者の意見としては妥当だ。
が、しかし、あの匣にはサンジェルマンの未来が委ねられている。
「エイジ!俺たちの事は考えなくてもいい。匣を守るのがお前の使命だろ。使命を果たせ」
昌樹の言葉にレインはチッと舌打ちを鳴らし「ナンブ!」
双方が構えを取る。と、その時。
「御取込み中スミマセン」
玄関口から男の声が。
皆の視線が男へと向けられた!
男とは?
宅配業者の男性だった。手にはダンボールの箱を抱えている。
(そっかぁ…。今日は通販の荷物が届く日だったんだ…)
「田中・昌樹さんのお宅ですよね。受け取りのサインをお願いします」
男性の目線からはナイフを手にするエイジの姿は死角になっているようだ。
「まずい!匣が戻って来ちまいやがった!」
思わぬ失態を昌樹は口にした。
「こ、これが…匣!?」
レインの視線も宅配の荷物へと向けられた。
「サインは彼に」
と、中の昌樹を指差して。
「ナンブ!撤収よ!」
宅配業者の男性から箱を奪い取るようにして荷物を受け取ると、レインたちは急いでこの場から立ち去っていった。
「さて、俺たちも逃げる準備をしよう」
受け取りのサインをしながらエイジと理依に告げた。
「え?でも匣は奪われちゃったんだし、もうキケンは無いんでしょう?」
昌樹が利かせた、咄嗟の機転を理解していない理依はきょとんとしている。
「あれの中身はただのウォーキングシューズだよ。あいつ等がそれを知ったら、またここへ押しかけてくるぞ」
説明をしながら、荷物をまとめる。
「理依。お前は関係無いんだから、さっさと先生の所へ戻れ」
「う、うん。でも…」
告げられても、一歩も踏み出さない。
「心配してくれるのか。ありがとな」
笑みを向けるも、理依は照れた様子など一切見せず。
「いやぁ、これを先生に説明しても納得してくんないんスよね。その…。ワケが分からない事だらけだし」
人の心配よりも、帰ったら大目玉を食らってしまう心配しかしていない。
コイツらしいと言えばコイツらしいけど。
「じゃあな理依。先生によろしく言っといてくれ」
「探偵さんもお元気で。エイジ君もね」
ふたりの逃走の旅立ちを、大きく手を振って送り出す理依だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
卒業パーティーのその後は
あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。 だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。
そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる