Ag ~エイジ~ 白銀の刃

ひるま(マテチ)

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28.面識の薄い男、目立つ男

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「その話、本当なのかね?にわかに信じがたいな。400年以上生き続けている女性とか、第二次世界大戦の引鉄ひきがねを作ったという男の話とか」

 雨が降りしきる中、車を運転しているにも関わらずに、静夜の話は信じられないと所長の一二三・六角ひふみ・ろっかくは首を振ってみせた。


「ちょ、ちょっと!ちゃんと前を向いて走って下さい」
 慌てて静夜が注意を促す。

「でも、ナンブという女性が目からビームを発射するところを理依は見ていますし、危うく撃ち抜かれそうになってもいます。ファンタジー全開な話ですが、信じるしか無いでしょう」

 話を聞く六角は言葉に詰まった。
 リアクションに困り、ウォッシャー液を噴射してみる。

「何だか分からないけど、ウチの事務所が巻き込まれることだけは避けてくれよ。被害者を出したくないからね」

 おっしゃる事はごもっとも。



 二人は円町駅付近にある葬儀社のホールに到着した。



 元警察のお偉さんで、亡くなる前まで警備会社の顧問として働いていた人物なのだが。

 非情に面識は薄く、静夜は検事時代に、六角は彼が勤めていた警備会社の顧問弁護士と面識があったので、揃って彼の葬儀に参列した次第である。



 やはり元官僚は違う。天下りは扱いが違う。

 静夜の感想はそこで止まる。なんせ、ほとんど赤の他人なのだから。


 それにしても、参列する人たちの眼光の鋭い事この上ない。それもそのはず、現役はもちろん、退職した警察官らばかりなのだから。

 女性もいるのだが、元警察官のタレントが口走っているように○○ばっかり(自主規制)。二人揃って納得した。


 そんな中、一人もの凄く目立つ髪型の人物を発見。


 アフロヘアーの人物がいた。


「え?ウソ!?」

「どうしたの?静夜君」
 ほとんどの人が会話を交わさない中、急に声を上げた静夜に六角が小声で訊ねた。

 が。

 六角の問いに答えることなく、静夜は人をかき分けてアフロヘアーの元へと寄ってゆく。

 途中にガタイの良い男性にぶつかりながら、その都度謝りながら、なおもアフロヘアーを目指して突き進んでゆく。


 とうとうたどり着いた時、アフロヘアーの人物が静夜の方へと顔を向けた。


「どうしたんです?先生」

「やっぱりお前かい!」

 アフロヘアーの人物はここ2週間ほど行方をくらませていた探偵田中・昌樹たなか・まさきだった。

「マッキー、どうしていなくなったの?探したのよ。スマホには何度も電話したのに、一度も返信が無いから、てっきり」

「死んだと思いました?」

「いや、そこまで極論には達していなかったけど。それよりも、どうしてここに?」
 訊ねるも、周りの視線が集中し出したので、二人は場所を変えて話すことにした。
 居心地が悪くなった六角も二人についてきた。

「あの人とはほとんど面識は無かったんですけど、元上司からメールが来ちゃったもんで、社会人の常識として欠席する訳にもいかないじゃないですか」
 理由を述べる昌樹の話を聞きながら、静夜は右のこめかみに人差し指を立てて目を閉じた。

「アナタねぇ、追われている身でありながら、こんな人様が集まるところに出てきて周りに迷惑が掛かるとか考えないの!?」
 この状況で、Nbニオブのナンブのディープステッチャーを放たれたらと思うと、背筋が凍りつく。


「その心配なら逆だと思います。彼らの目的はあくまでもはこですから、これを傷付けずに手に入れる方法を考えるはずですよ」
 ムカつくほどに、あっけらかんと言ってくれるわね…。

「そのまた逆で、ここにいる人たちを人質にされたら―」

「させませんよ。その時は、匣を破壊すると言ってやりますよ」
 呆れた事に、彼は依頼を放棄するつもりでいる。サンジェルマンの人を見る目の無さを嘆きたくもなる。


 ―!?

「ちょっとマッキー、ひょっとして、匣の中身を知らないの?」

「知りませんよ。“未来の私自身”て言われても何が入っているのか、サッパリで」

「いい?よぉく聞いて頂戴。その匣の中には継代ホムンクルスの素体が入っているの。もうすぐ細胞分裂を終えて受精卵の形態に変異するはず」

 静夜の説明に、昌樹は大きく目を見開いた。

「い、生き物だったのか!?あの中身!!」

 この驚き様、本当に中身を知らされていなかったようだ。


 昌樹は急に声を張り上げた。


「いかん!駅のロッカーには“生き物を入れてはいけない”と書いてあったはず!」


 アホか!?この男は。

 何故それをいま、声に出して言う?
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