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[13]ミドルゲームスタート!!

-119-:ベルタさんでも楽勝じゃん

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 ツッコミどころ満載のクレハに、真珠の指摘が入った。

「えへへへ」
 照れ隠しに笑って見せるクレハに、コイツはバスケに興味が無いなと察するシンジュであった。ついでに言えば、人としても信頼に値しないヤツと見下し。

 だが。

 彼女にとって、クレハなど、どうでもよかった。

「高砂・飛遊午。アンデスィデで会うのは無理そうだから、ここでケリを付けましょう。私の方は準備OKだけど、良い?」
 唐突に訊ねてきた。

 一般人が冗談でも口にしない“アンデスィデ”なるワードが出たとたん、ヒューゴの表情が変わった。

 クレハは…「何の準備?」まったく理解していない模様。



「お前…黒のマスターなのか?」
 ヒューゴの問いに。

「ええ、そうよ。私は人狼ワーウルフの魔者のマスター」

「そう…だったのか…」
 シンジュの不思議な自己紹介にヒューゴは戸惑った。

 彼女はいま、魔者の人物名ではなく、本来隠すべき真名(モンスター名)の方を名乗った…。

 モンスター名とは、こちらの世界では創作の産物だとしても、元ネタとなり得ている場合もあるので、明かせばモンスターの能力を察知される恐れがある。
 なので、極力名乗らない方が今後の戦いを優位に進められる。なのに。

「彼女が従えているモンスターは、“オオカミ男”なのか…」
 となりで首を傾げているクレハに対して、わざわざ説明してやる事無く、ただ呟いてみせた。

 これで、クレハも人狼が何なのか?少しは理解してくれるだろう。



 一般的な狼男の特徴と言えば。

 ①:普段は人間でありながら、月を見ると狼男に変身する。

 ②:再生能力が高く、瀕死の重傷を負っても、たちまち回復してしまう。

 ③:だけど、銀製の武器だと、その再生能力が働かない。つまり弱点。

 ざっと、こんなところかな。


 非情に恐ろしいモンスターとして描かれているが、事実は、狂犬病に感染した患者だという説が有力だったりする。



「こんな朝っぱらだから、月が出てると言っても残月だし、ベルタさんでも楽勝じゃん」
 クレハが笑いながらヒューゴに耳打ちした。

 コイツは楽天的で良いなぁ…つくづく、そう思う。

 自ら“戦おう”と言ってきた事から、シンジュが“確実に勝てる自信”を抱いているというのが理解できていないのだろうか?

 そんな初歩的な勘違いよりも。

 “ベルタさんでも”は、ベルタに対して失礼とは思わないのだろうか?

 彼女は確かにパワー的には弱い方だけど、戦歴を重ねた立派な騎士様だ。

 
 空を見上げれば。


 クレハの言う通り、確かに残月が西の空に浮いている…。

 まさか、いくら何でも、こんな月でパワーアップはしないだろう。

 クレハの言動に呆れつつも、可能性はゼロとは言い切れない。


「いくわよ。ロボ」
 静かにシンジュが告げ―。

 ミシッと小さく踏み込む音がどこかからしたかと思うと。

 違う方向から「待ちな」
 外国人特有の発音の異なる日本語が耳に届いた。

 声の方へと向くと。

 真っ赤なライダースーツに身を包んだ、やや赤み掛かった金髪の外国人女性の姿があった。

 彼女の手には自動式拳銃が握られている。

「アイツ…拳銃チャカ持っとるやんけ…」
 ヒューゴが呟いた瞬間!

「チャカ言うな!」
 すかさずクレハのツッコミが入った。


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