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誇りある仕事
9.いつどこで?
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飛鳥が手に持っているタブレットを操作すると、42インチ液晶ディスプレーに次々とウィンドウが表示されてゆく…。
アホほど近い距離から、次から次へと開かれてゆくウィンドウを見せつけられて、伶桜の眼はチカチカしてきた。
「これが昨日、伶桜さんが美浜・慎一が経営する会社に侵入して得てくれた情報で―」「ちょっと待った!」
ミーティングが始まったばかりなのに、伶桜が突然待ったを掛けた。
「社長、『侵入して』は省いてくれないか。これではまるで俺が不法侵入をした犯罪者みたいじゃないか」
飛鳥の命令でAP黒影を侵入させたというのに、さも住居不法侵入を犯したような言い回しに納得がいかなかった。
「細かい事を気にするのね?別に誰かに聞かれている訳でも無いのに、そうピリピリしなさんなって」
謝らないばかりか、人様を小さい人間のように言ってくれる。
納得がいかないまま、「続けてくれ」そう言うしかない。
「まず結果から発表するけど、会社のPCからは”首相襲撃計画”に繋がる情報は何も得られなかったわ。会社が請け負ったイベントは全て実際に行われていたし、経理においても不審な点は見つけられなかった。まぁ、もっと時間を掛ければ不適切会計の一つや二つは見つかるだろうけれど、それが意図したものなのか、誤って発生したものなのかは判断しかねるわね」
会社としてはシロと判断するしか無さそうだ。
「やはり、美浜・慎一の自宅を捜査した方が良かったんじゃ」
思わず本音が漏れた。
『木を隠すなら森』と豪語した社長の判断は誤りだったと、暗に示唆したのが気に食わなかったのか、とたんに飛鳥の表情が険しくなった。
「あくまでも"首相襲撃計画”に直接的に繋がる情報を得られなかっただけで、私は彼がシロだとは思わない。これらの情報を見て、私が不振に思ったのは、イベント運営って、どれくらいの頻度で依頼するのか?てコト」
全く往生際の悪いお嬢さんだぜ。
この期に及んで自らの非を潔く認めようとしないとは。
「依頼してくる相手も、どこかの窓口を請け負っているだけじゃないのか?」
見せてもらおうか。社長の最後の抵抗とやらを。
どのような疑問を呈しているのだろう?
「月に15回も依頼している個人がいるのよ。しっかりとイベントは開かれているし、相場に見合ったギャラを支払っている」
単に数が多いだけじゃないか。それの何が気に入らないのだ?
「”古本市”なんて、月に15回も開いていたら、フツーに店を開いているのとさほど変わりは無いわよね」
今ではネットでも売買が行われている古本市場。
とはいえ、それほど流通の激しい市場にも思えないのも事実。
飛鳥が不審に感じるのも頷ける。
「つまり、古本市は表の顔と言いたいのか?古本市は"隠蔽工作”で、実は何らかの会合を行っているのかもしれない。そういう事か?」
伶桜の問いに飛鳥は頷いて見せた。
だからと、それからどうやって”首相襲撃計画”に繋げるかだ。
「古本市なんて、マニアか古参の古本屋さんくらいしか出入りしていないものじゃないかな?」
飛鳥の発想は、偏っているようにも思える。
「最近は、骨董市と同じように、"掘り出し物”目当てに古本市に顔を出し、あわよくばネットで高値で転売しようと目論む連中も顔を出す。今回ばかりは、古本市に潜入して情報を収集するなんて手は通用しないぞ」
「そうよね…。そのマニアか古参の古本屋さんが”首相襲撃計画”に加担しているかもしれないものね」
見事に八方塞がりの状態に陥ってしまった。
「イベントプランニング会社か…。他にどんな仕事を請け負っているんだろう?」
伶桜の問いに答えるべく、飛鳥は頬杖を突きながらタブレットを操作。
「ウグイス嬢の仲介や選挙の時のネット放送とかやってるわ。あんな仕事まで請け負っているのね」
"首相”を襲撃しようとしている連中が、選挙に関する仕事を利用するかもしれない可能性を、どうして見落としていたのか?
「それだ!ヤツらの狙いは、”どこかの選挙”を利用するんじゃないか?ほら、立候補者の街頭演説に党のお偉さんが応援演説に駆け付けたりするだろう?」
手段は解らないけど、美浜・慎一の狙いは特定出来た。
あくまでもおおまかに過ぎないが。
それでも彼が、"首相”を狙える場所の特定には繋がる。
「県知事・市長…んー、この先ありそうな選挙といえば…」
飛鳥がネットから選挙が行われるであろう県や市を探すも、首相が応援に来るような選挙は思うように探し出せない。
「今月、和歌山県に村長選がある」「却下だ!村長選に、わざわざ首相が顔を出すとは思えない」即答した。
「確かにね。指定市クラスの選挙じゃないと、首相が顔を出すワケ無いか…」
意外にも、飛鳥は反論する事なく伶桜の考えに同意した。
でも、「指定市?」
「政令指定都市の別名よ。市でありながら都道府県と同等の権限を与えられているの。人口が多い、税収入が多い都市が該当するわ」
要するに、金にならなきゃお偉いさんは顔を出さないというコト。
「困ったわね…。年内では、指定市で選挙を行われる予定は全く無いな。やっぱり、この線で探るのは見当違いだったかな」
目の付け所は良かったと思ったのだが…。
「任期が全うできない議員の選挙とかも無いのか?」
スキャンダルなどで議員職を辞職する議員は滅多にいない。せいぜい党を離れるくらいだ。
それでも、死亡するなどして議員に欠員が生じた都市ならあるかもしれない。
「補欠選挙ね。調べてみる」
早速ネットで検索。しかし。
「無いわね、やっぱり」
ならば、美浜・慎一はどうやって首相を襲撃しようというのか?
首相は絶えずSPによって守られている。
首相官邸は未だに周囲に高い建物に囲まれているとはいえ、官邸そのものを狙うにはリスクが高すぎる。
今や対ドローン設備も整っている。
軍隊並に装備を整えるか、人数を動員するかをしないと首相を直接狙うのは不可能だ。
時期も予測出来なければ、当然手段を予測することも不可能。
「社長、これじゃあ、もうお手上げだ。こうなれば、俺たちには、美浜・慎一が企てる”首相襲撃計画”そのものが失敗に終わりコトを祈るしか出来ない」
お手上げだ。
「そうね。監視も考えてみたけど、美浜・慎一が実行犯にならないとも限らないものね」
粘り強い飛鳥でさえ、お手上げ状態の模様。
そんな中、ベッドで横たわる縁の体がビクン!と跳ね上がった。
「な、何!?彼女、体の具合でも悪いの?」
同性の社長が動転してどうする?
「何俺を見ているんですか?俺に縁さんの体に触れろと言うんですか?嫌ですよ。後で痴漢行為を働いたとか濡れ衣を着せられるのは」
飛鳥の不安そうな眼差しから、彼女の意図せん事を察するも、そく拒絶した。
だけど、社長は女子高生。
何事においても、伶桜より経験は浅い。知識ではすでに彼よりも多くを蓄えていようとも。
「わ、分りましたよ。見ればいいんでしょう。見れば。ただし、社長も証明して下さいよ。これはあくまでも痴漢行為じゃない事を。頼みますよ」
念には念を押しておかねば。
もう冤罪はこりごりだ。
うつ伏せに眠る縁を仰向けにさせる。
「やっぱりアレですかね。寝ている間に"階段を踏み外した”ような感覚に襲われるアレ。社長は経験したことはありませんか?」
寝ゲロを吐いている様子は無さそうだし、とりあえずは安心。
しかし、神妙な眼差しで飛鳥は縁の腰の辺りを凝視している。
「伶桜さん、縁さんのポケットに入っているスマホを出して。誰かからのメッセージだったら、縁さんを起こさないといけないから」
言われるままに縁のスカートのポケットからスマホを取り出した。
寝ている女性の衣服からスマホを出しただけでも半分犯罪なのに、スマホのメッセージを勝手に見るのは、さすがに気が引ける。
伶桜は飛鳥にスマホを渡した。
「誰からのメッセージか、な。ん?なんだ、ただのニュース速報か」
内容を確認して安心すると、飛鳥は伶桜にスマホを返した。
え?また俺が縁さんのスカートのポケットにスマホを返すんですか?
言葉にこそ出さないものの、ただただ目で訴える。
スマホを渡そうとした飛鳥の手が不意に引かれた。
「待って!これだわ。美浜・慎一の目的が分った気がする」
飛鳥の発見は、確信なのか、そうじゃないのか、聞いていて、まるで分らないものだった。
アホほど近い距離から、次から次へと開かれてゆくウィンドウを見せつけられて、伶桜の眼はチカチカしてきた。
「これが昨日、伶桜さんが美浜・慎一が経営する会社に侵入して得てくれた情報で―」「ちょっと待った!」
ミーティングが始まったばかりなのに、伶桜が突然待ったを掛けた。
「社長、『侵入して』は省いてくれないか。これではまるで俺が不法侵入をした犯罪者みたいじゃないか」
飛鳥の命令でAP黒影を侵入させたというのに、さも住居不法侵入を犯したような言い回しに納得がいかなかった。
「細かい事を気にするのね?別に誰かに聞かれている訳でも無いのに、そうピリピリしなさんなって」
謝らないばかりか、人様を小さい人間のように言ってくれる。
納得がいかないまま、「続けてくれ」そう言うしかない。
「まず結果から発表するけど、会社のPCからは”首相襲撃計画”に繋がる情報は何も得られなかったわ。会社が請け負ったイベントは全て実際に行われていたし、経理においても不審な点は見つけられなかった。まぁ、もっと時間を掛ければ不適切会計の一つや二つは見つかるだろうけれど、それが意図したものなのか、誤って発生したものなのかは判断しかねるわね」
会社としてはシロと判断するしか無さそうだ。
「やはり、美浜・慎一の自宅を捜査した方が良かったんじゃ」
思わず本音が漏れた。
『木を隠すなら森』と豪語した社長の判断は誤りだったと、暗に示唆したのが気に食わなかったのか、とたんに飛鳥の表情が険しくなった。
「あくまでも"首相襲撃計画”に直接的に繋がる情報を得られなかっただけで、私は彼がシロだとは思わない。これらの情報を見て、私が不振に思ったのは、イベント運営って、どれくらいの頻度で依頼するのか?てコト」
全く往生際の悪いお嬢さんだぜ。
この期に及んで自らの非を潔く認めようとしないとは。
「依頼してくる相手も、どこかの窓口を請け負っているだけじゃないのか?」
見せてもらおうか。社長の最後の抵抗とやらを。
どのような疑問を呈しているのだろう?
「月に15回も依頼している個人がいるのよ。しっかりとイベントは開かれているし、相場に見合ったギャラを支払っている」
単に数が多いだけじゃないか。それの何が気に入らないのだ?
「”古本市”なんて、月に15回も開いていたら、フツーに店を開いているのとさほど変わりは無いわよね」
今ではネットでも売買が行われている古本市場。
とはいえ、それほど流通の激しい市場にも思えないのも事実。
飛鳥が不審に感じるのも頷ける。
「つまり、古本市は表の顔と言いたいのか?古本市は"隠蔽工作”で、実は何らかの会合を行っているのかもしれない。そういう事か?」
伶桜の問いに飛鳥は頷いて見せた。
だからと、それからどうやって”首相襲撃計画”に繋げるかだ。
「古本市なんて、マニアか古参の古本屋さんくらいしか出入りしていないものじゃないかな?」
飛鳥の発想は、偏っているようにも思える。
「最近は、骨董市と同じように、"掘り出し物”目当てに古本市に顔を出し、あわよくばネットで高値で転売しようと目論む連中も顔を出す。今回ばかりは、古本市に潜入して情報を収集するなんて手は通用しないぞ」
「そうよね…。そのマニアか古参の古本屋さんが”首相襲撃計画”に加担しているかもしれないものね」
見事に八方塞がりの状態に陥ってしまった。
「イベントプランニング会社か…。他にどんな仕事を請け負っているんだろう?」
伶桜の問いに答えるべく、飛鳥は頬杖を突きながらタブレットを操作。
「ウグイス嬢の仲介や選挙の時のネット放送とかやってるわ。あんな仕事まで請け負っているのね」
"首相”を襲撃しようとしている連中が、選挙に関する仕事を利用するかもしれない可能性を、どうして見落としていたのか?
「それだ!ヤツらの狙いは、”どこかの選挙”を利用するんじゃないか?ほら、立候補者の街頭演説に党のお偉さんが応援演説に駆け付けたりするだろう?」
手段は解らないけど、美浜・慎一の狙いは特定出来た。
あくまでもおおまかに過ぎないが。
それでも彼が、"首相”を狙える場所の特定には繋がる。
「県知事・市長…んー、この先ありそうな選挙といえば…」
飛鳥がネットから選挙が行われるであろう県や市を探すも、首相が応援に来るような選挙は思うように探し出せない。
「今月、和歌山県に村長選がある」「却下だ!村長選に、わざわざ首相が顔を出すとは思えない」即答した。
「確かにね。指定市クラスの選挙じゃないと、首相が顔を出すワケ無いか…」
意外にも、飛鳥は反論する事なく伶桜の考えに同意した。
でも、「指定市?」
「政令指定都市の別名よ。市でありながら都道府県と同等の権限を与えられているの。人口が多い、税収入が多い都市が該当するわ」
要するに、金にならなきゃお偉いさんは顔を出さないというコト。
「困ったわね…。年内では、指定市で選挙を行われる予定は全く無いな。やっぱり、この線で探るのは見当違いだったかな」
目の付け所は良かったと思ったのだが…。
「任期が全うできない議員の選挙とかも無いのか?」
スキャンダルなどで議員職を辞職する議員は滅多にいない。せいぜい党を離れるくらいだ。
それでも、死亡するなどして議員に欠員が生じた都市ならあるかもしれない。
「補欠選挙ね。調べてみる」
早速ネットで検索。しかし。
「無いわね、やっぱり」
ならば、美浜・慎一はどうやって首相を襲撃しようというのか?
首相は絶えずSPによって守られている。
首相官邸は未だに周囲に高い建物に囲まれているとはいえ、官邸そのものを狙うにはリスクが高すぎる。
今や対ドローン設備も整っている。
軍隊並に装備を整えるか、人数を動員するかをしないと首相を直接狙うのは不可能だ。
時期も予測出来なければ、当然手段を予測することも不可能。
「社長、これじゃあ、もうお手上げだ。こうなれば、俺たちには、美浜・慎一が企てる”首相襲撃計画”そのものが失敗に終わりコトを祈るしか出来ない」
お手上げだ。
「そうね。監視も考えてみたけど、美浜・慎一が実行犯にならないとも限らないものね」
粘り強い飛鳥でさえ、お手上げ状態の模様。
そんな中、ベッドで横たわる縁の体がビクン!と跳ね上がった。
「な、何!?彼女、体の具合でも悪いの?」
同性の社長が動転してどうする?
「何俺を見ているんですか?俺に縁さんの体に触れろと言うんですか?嫌ですよ。後で痴漢行為を働いたとか濡れ衣を着せられるのは」
飛鳥の不安そうな眼差しから、彼女の意図せん事を察するも、そく拒絶した。
だけど、社長は女子高生。
何事においても、伶桜より経験は浅い。知識ではすでに彼よりも多くを蓄えていようとも。
「わ、分りましたよ。見ればいいんでしょう。見れば。ただし、社長も証明して下さいよ。これはあくまでも痴漢行為じゃない事を。頼みますよ」
念には念を押しておかねば。
もう冤罪はこりごりだ。
うつ伏せに眠る縁を仰向けにさせる。
「やっぱりアレですかね。寝ている間に"階段を踏み外した”ような感覚に襲われるアレ。社長は経験したことはありませんか?」
寝ゲロを吐いている様子は無さそうだし、とりあえずは安心。
しかし、神妙な眼差しで飛鳥は縁の腰の辺りを凝視している。
「伶桜さん、縁さんのポケットに入っているスマホを出して。誰かからのメッセージだったら、縁さんを起こさないといけないから」
言われるままに縁のスカートのポケットからスマホを取り出した。
寝ている女性の衣服からスマホを出しただけでも半分犯罪なのに、スマホのメッセージを勝手に見るのは、さすがに気が引ける。
伶桜は飛鳥にスマホを渡した。
「誰からのメッセージか、な。ん?なんだ、ただのニュース速報か」
内容を確認して安心すると、飛鳥は伶桜にスマホを返した。
え?また俺が縁さんのスカートのポケットにスマホを返すんですか?
言葉にこそ出さないものの、ただただ目で訴える。
スマホを渡そうとした飛鳥の手が不意に引かれた。
「待って!これだわ。美浜・慎一の目的が分った気がする」
飛鳥の発見は、確信なのか、そうじゃないのか、聞いていて、まるで分らないものだった。
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