8 / 11
魔王城へ
しおりを挟む
明朝、俺たちは宿を後にすると、すぐに街を出て出発した。
歩いていたのでは間に合わない。俺たちは馬車を借り、御者に魔王城に急ぐよう伝えた。
ミトラが街からどれくらい離れたのかが分からない以上、急ぐべきだ。
世界地図に印されていた場所は、街のはるか北東だった。そこに魔王の城がある。
ひとつ懸念があった。
「あいつ方向音痴だったよな……」
前の洞窟のことを思い出す。地図があったのに方向すら間違っていたあの様子では、魔王城にたどり着けるか怪しい。
それを聞いていたアイは、こともなげにこう言った。
「それは大丈夫だと思いますよ」
「なんでだ? あいつ、かなりの方向音痴だったぞ」
「うーん、例えばラストさんは、自分の家に帰る道を迷います?」
「そんなの迷うやつがバカだろ、それが何か関係あるのか?」
そこで俺はハッと気づいた。まさか。
「魔王城って、ミトラの……元家?」
アイはご名答!といった風に頷いた。
馬車は街道を進み、魔王城の近くまで進むと、そこからは草原を進んで行くことになった。
途中モンスターとは何度も遭遇したものの、その全てを馬車はスルーして突き進んでいく。
「しかし速いな、この分なら今日中に着きそうだ」
「一番いい馬車を借りましたからね」
「そういう問題なのか?」
速度は問題ない、しかし、俺には不安がひとつあった。
「そもそも今の俺たちに魔王なんて倒せるのか? ぶっちゃけ俺の武器、こんぼうだぞ」
腰にくくりつけたこんぼうを指差しながら、アイに聞いてみる。
「そうですね、魔王は強大な力を持ち、並の武器では太刀打ちできないでしょうね」
「それなら、勝算なんてないだろ」
それがミトラの頼みを断わった核心でもある。俺は揺れる荷台の上で、さらに不安になった。
「あくまでも普通の武器ならです。わたし達は勇者候補じゃありませんか」
ニコッ、とウインクするアイだが、俺はなんのことか分からなかった。その様子を見てアイは続けて言う。
「あれ、わたし達勇者候補は、王様から武器をもらっているはずですよね?」
ヒノキの棒をな。
「ああ、あれならたいまつに使った」
一瞬の静寂。馬車の車輪は大きな音を立てながら回り、速度と引き換えに振動を伝えてくる。
「え、え、えええーーーーっ!」
アイが、叫んだ。
「伝説の武器!?」
俺はアイから、ヒノキの棒が伝説の武器だということを知った。
たいまつとして使ったので半分燃え尽きている。
「わたしのこの腰の剣のように、勇者候補は王様からそれぞれ適した武器を貰うんです。その武器は普通の魔物には普通の武器ですが、悪しき力を打ち払う力があります」
そんな大事なものだったのかよ!説明しろよ!
「誰か教えて下さらなかったんですか?」
思えば、貰うものを貰ってそそくさと出てきてしまったので、大臣や門番にも話しかけていなかった。重要なイベントを取り逃がしていたのだ。
「伝説の、ヒノキの棒……」
これが俺の適した武器だという事実と、半分燃えカスになっている現実に、俺はがっくりきた。
「ま、まあなんとかなりますよ! 腐っても、燃えても伝説の武器ですし!」
アイは励ましてくれたが、俺は先行き不安だった。
馬車は勢いを止めることなく進み続け、行く先には禍々しい城が見えてきた。
突然、馬車馬が急停止し、嫌がる素振りを見せた。一体どうしたというのだろう。
「魔の力です。ここからは、わたし達だけで進むしかないようですね」
アイは馬車から飛び降りると、俺もそれに続いた。
古い洋館に、そぐわない茨のツルが幾重にも張り巡らされたその城は、まるで何かを阻んでいるように、そびえ立っていた。
付近は空が歪み、暗くなっている。魔王の魔力によるものだろうか。
俺たちは、入り口であろう、大きな扉を見つけると、意を決して扉を引いた。
歩いていたのでは間に合わない。俺たちは馬車を借り、御者に魔王城に急ぐよう伝えた。
ミトラが街からどれくらい離れたのかが分からない以上、急ぐべきだ。
世界地図に印されていた場所は、街のはるか北東だった。そこに魔王の城がある。
ひとつ懸念があった。
「あいつ方向音痴だったよな……」
前の洞窟のことを思い出す。地図があったのに方向すら間違っていたあの様子では、魔王城にたどり着けるか怪しい。
それを聞いていたアイは、こともなげにこう言った。
「それは大丈夫だと思いますよ」
「なんでだ? あいつ、かなりの方向音痴だったぞ」
「うーん、例えばラストさんは、自分の家に帰る道を迷います?」
「そんなの迷うやつがバカだろ、それが何か関係あるのか?」
そこで俺はハッと気づいた。まさか。
「魔王城って、ミトラの……元家?」
アイはご名答!といった風に頷いた。
馬車は街道を進み、魔王城の近くまで進むと、そこからは草原を進んで行くことになった。
途中モンスターとは何度も遭遇したものの、その全てを馬車はスルーして突き進んでいく。
「しかし速いな、この分なら今日中に着きそうだ」
「一番いい馬車を借りましたからね」
「そういう問題なのか?」
速度は問題ない、しかし、俺には不安がひとつあった。
「そもそも今の俺たちに魔王なんて倒せるのか? ぶっちゃけ俺の武器、こんぼうだぞ」
腰にくくりつけたこんぼうを指差しながら、アイに聞いてみる。
「そうですね、魔王は強大な力を持ち、並の武器では太刀打ちできないでしょうね」
「それなら、勝算なんてないだろ」
それがミトラの頼みを断わった核心でもある。俺は揺れる荷台の上で、さらに不安になった。
「あくまでも普通の武器ならです。わたし達は勇者候補じゃありませんか」
ニコッ、とウインクするアイだが、俺はなんのことか分からなかった。その様子を見てアイは続けて言う。
「あれ、わたし達勇者候補は、王様から武器をもらっているはずですよね?」
ヒノキの棒をな。
「ああ、あれならたいまつに使った」
一瞬の静寂。馬車の車輪は大きな音を立てながら回り、速度と引き換えに振動を伝えてくる。
「え、え、えええーーーーっ!」
アイが、叫んだ。
「伝説の武器!?」
俺はアイから、ヒノキの棒が伝説の武器だということを知った。
たいまつとして使ったので半分燃え尽きている。
「わたしのこの腰の剣のように、勇者候補は王様からそれぞれ適した武器を貰うんです。その武器は普通の魔物には普通の武器ですが、悪しき力を打ち払う力があります」
そんな大事なものだったのかよ!説明しろよ!
「誰か教えて下さらなかったんですか?」
思えば、貰うものを貰ってそそくさと出てきてしまったので、大臣や門番にも話しかけていなかった。重要なイベントを取り逃がしていたのだ。
「伝説の、ヒノキの棒……」
これが俺の適した武器だという事実と、半分燃えカスになっている現実に、俺はがっくりきた。
「ま、まあなんとかなりますよ! 腐っても、燃えても伝説の武器ですし!」
アイは励ましてくれたが、俺は先行き不安だった。
馬車は勢いを止めることなく進み続け、行く先には禍々しい城が見えてきた。
突然、馬車馬が急停止し、嫌がる素振りを見せた。一体どうしたというのだろう。
「魔の力です。ここからは、わたし達だけで進むしかないようですね」
アイは馬車から飛び降りると、俺もそれに続いた。
古い洋館に、そぐわない茨のツルが幾重にも張り巡らされたその城は、まるで何かを阻んでいるように、そびえ立っていた。
付近は空が歪み、暗くなっている。魔王の魔力によるものだろうか。
俺たちは、入り口であろう、大きな扉を見つけると、意を決して扉を引いた。
0
あなたにおすすめの小説
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる