古代兵器ミカエル

真綾

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「記録を遡って分かったのはやっぱりあの悪魔が親玉みたいなの。修復の周期は恐らくミカエルと同じ。初登場でミカエルとやりあってから出てきていないわ。サンバースリーまでは百年周期。それ以外の雑魚は使い捨てって感じかしら。地球侵略したいわりにはこちらに送り込める悪魔の人数は限りがあるみたいなのよね」

 背を向けて逃げる僕を追ってこなかった悪魔は海に出てクジラと戦っているらしいとモモは笑っている。

 登場して十分も経っていない悪魔についてこれほど詳しく調べ上げてくるとは。

 場所も走ってくるには距離があるはずなのに、ハーツ最速の鷹に乗って来られる実力が頼もしかった。

「逃げてるばかりじゃ、情けないよね」

 モモが手渡してくれたカップにはコーンスープが入っていた。

 温かく染み渡るそれを飲むには少し場違いな気もするが。

 いつもの黒のゴスロリとは変わりハーツの戦闘服に身を包んでいたモモは前髪かきむしる。

 全体の髪は長く頭の両端で団子縛りをしている。

 前髪は眉毛のラインで切りそろえられているため、掻きむしっても綺麗に元通りだ。
 
「丞太郎はやっぱり怖いの」

「兵器に乗ったときに僕の運命は決まってるんだよ」

 選ばれてしまったからには命を賭して戦って死ぬか、戦わず逃げ回ったとしても選ばれてしまった以上、十六歳で命を落とすことは決まっている。

 ならせめて生存する確率が高い方と思いミカエルに乗ることを選んだが恐怖を飼いならすこどころか、年々膨れ上がっていく。

 悪魔の出現率は上がり、兵器操縦者は減っていき。

 己の残された時間を計算して絶望に暮れていたのに。

「世界を守るために戦っていたんじゃないの」

 モモの瞳には何の感情も現れていない。

 兵器達を束ねる一番の僕が自分の命のために戦っていたと聞いては呆れてしまったのだろうか。

「僕は聖人君子にはなれない」

 ハーツに入った人全てが人類のために戦いたいと思っているとは思えない。

 両親の仇を打つため、親が元々ハーツに勤めていたからその背を追って入ってきた者理由はそれぞれ。

 弥生がハーツに入っていなければ僕はきっと今ミカエルに乗ることは無かったということだけ断言できる。

 偶然ミカエルを見ることになって。

 乗っていないのにミカエルの方が反応したんだ。

 戦場に駆り立てられると知ったときの弥生の驚いた表情を忘れない。

 それから彼女は才能を生かし様々な研究で名を馳せてきた。

 人類存続に力をかけている一族の者として恥じないように彼女は力を注いでいた。

 ただ許嫁が家の事情でハーツに入ることになってそれを追いかける形で僕が入団して。

 世界を背負う覚悟の無いまま殺されたくないから剣をかざしているだけなのに。

 手にしていた書類をモモは巻き散らす。

 この辺りは火山活動がいつ起こるか分からないため人が出入りしていない。

 貴重な研究資料をばらまいたところで誰かの目に留まるとは思えない。

「どうしたの、モモ」

 ミカエルの操縦者として誰もが僕に「殺せ」というのに君だけが労ってくれる。

 笑顔を向けてくれるのは君だけ。

 大切な笑顔を守りたいから僕は今もかろうじて逃げ出さずにいる。

「丞太郎は生きたいのね」

「生きたいから降伏していないんだろう」

 再生時間が無ければとっくに地球は悪魔達に乗っ取られていただろう。

 首の皮一枚のタイミングで人類は命を取り留めている。

 もしミカエルが動かないうちに親玉が復活していたら。

 本当に親玉の息の根を止めれば生き残れるのか分からない。

 悪魔の口調からは地球外生物はまだ存在していて虎視眈々と狙っていると言われているから。

「アタシが存在しているのは守るため。それ以外は許されないの」

 モモの瞳の色が紅く染まる。自身が初めてミカエルに反応したときと同じ色。

「丞太郎、大好きだったよ」

 優しく笑う彼女の表情がもう一人の少女と重なった。
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