巫女と龍神と鬼と百年の恋

真綾

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「こりゃぁ、油揚げだな」

「俺の取っておいた団子食べた奴は誰だ」

「魚はやっぱり生だな」

「何を焼いた魚のが美味しいに決まってらぁ」

「それ違う、おいらの尻尾。食べ物じゃない」

  各々好きな食べ物に夢中になっている。妖達が大勢いるのに地獄絵図というよりもお祭りのような賑わい。
 
  私の周りにも大小さまざまな妖が入れ替わり近寄ってくる。

  食べきれない程の料理をよそって来てくれるモノ、お互いの足の速さを競った時の話をしようとするモノもいる。

「細波、ちょっと気になることがあるんだが」

  桜花が他の妖達を退けて隣に座る。蒐が憎らしそうにこちらを睨みつけているのを桜花は気にする風もなく去年採れた米で作った日本酒を口にしていた。

「気づいているとは思うが、実りが悪くてな」

  妖達の腹を満たしている食材は家の裏手にある畑で採れたものだった。
  他の村人の畑が荒らさることがあっても私の畑が無事なのは妖達が獣を驚かせているため。他の畑も守って欲しいと頼んだ時は「守るならその分食べていいんだな」と笑顔で返されてしまって、慌てて止めたのを覚えている。

ただで守ることは無い。
裏手の畑を守っているのも自分達の食料の確保が一番の理由。私はその食材を少し分けてもらっているに過ぎないのだ。

「年々減ってきているのは感じていたけど」

  腹が空いたと泣いていれば聞かされる村の実話。人柱になった少女の話がよぎる。

「細波が務めを果たしているのは分かっておるが、村の人がそうとは限らない」

「私の気持ちは届いていないのかな」

 母さんは視る力は無かったが、巫女としての仕事は毎日きちんとこなしていた。私も教わっている限りのことはしっかりやった。

  はじめは能力のない者が祈りを上げてはいけないのかと考えたが、私に代替わりをしても減少は進む一方だった。

「桜花は長く居るのよね」

 私が物心ついた時にはそばに居てくれた妖の一人。他の妖達は桜花と私が仲良くなってから近くに集まってきた。
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