巫女と龍神と鬼と百年の恋

真綾

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「500年前からいたね。力のある者が全て細波のように受け入れてはくれないから、陰から見ていたこともあったわ」

 私の血筋は昔、京の都で妖退治をしていたと手記に書かれていた。数年に一度の頻度で“本家”が旅人に混じり村の様子を伺いに来ているとも。そういった人には必ず鬼やら何かが守護している。

「受け入れてもらえればいつくこともある。細波の隣は居心地がいい」

 くいっと杯に入っているお酒を飲み干す桜花。妖の中でも酒に酔うモノもいるが、桜花が酒に酔いつぶれている姿を見たことが無かった。

「力を持つ者が生れるとは限らないからな。細波の血統は生まれやすいというだけ。血が途絶えぬよう、本家が時々人を派遣している。現地の巫女とは接触をしないのが習わしだな」

「そういえば話しかけようとして逃げられたっけ」

 力の使い方が他にも存在するなら教えてもらいたいと後を付けたことがある。近づこうとすれば一定の距離を保たれ、村に居る妖達に協力してもらっても逃げられてしまった。

「龍神は一癖ある。細波が祈りを上げても雨を降らせるのをサボることがあってもおかしくないわ」

「あったことがあるの?」

「わらわはただの妖に過ぎぬからな。直接会うことは無いが、人々を守るために居るというよりもただ土地を気に入っているところに人が居ついて、加護を受けている。日照りが続くのは細波の力不足が理由ではないから安心せい」

「うん」

 いつ、村の人達に責められるかヒヤヒヤしているのを感じ取っているのかもしれない。巫女の手記を読んでもここ500年は特に問題は起きていない。逆を言えば母さんの代から悪くなってきている。

そう、私の代で挽回する方法を探さなければならない。実りが少なくなってきてから手記を紐解いていても何も有力な方法は見つけられていない。

「何があっても細波の味方じゃ」

 母親のようなぬくもりを桜花は与えてくれる。ギュッと抱き着く。私が村からいなくなったとしても、代わりは直ぐにやってくる。本家と関わりを持てない理由も記されていないので真実は分からないけど。

 巫女として私がやれることは少ない。

「思い詰めるな、細波。心のままに動きなさい」
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