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青空と声援と
しおりを挟む夏休みが終わり、私たちに学校という名の日常が戻ってきた。
片田舎の小さな高校で過ごす最後の夏は、野球部の甲子園初出場という快挙で盛り上がり、強い陽射の中、私たちは地面が震えるほど声を張り上げてエールを贈った。
明日は予備校の『全国模試』。
初夏の熱が夢だったようにさえ感じられる。
黒板を見るふりをして、一つ前の席に座る佐脇くんを見上げた。
真っ黒に日焼けした腕が、以前よりずっと筋肉質になっている。
…一生懸命練習したんだね。
少し髪の伸びた坊主頭を見上げると、胸がチクンッと痛み出す。
試合に負け、野球部を引退した彼と、3年間見ているだけだった私。
私の小さな片思い。
「…なあ。」
「……えっ!?」
急に彼が振り向き、初めて彼と目が合った。
私に…話しかけてくれているの?
慌てて辺りをキョロキョロと見回すと、いつの間にかHRは終わっていて、私たちの周りには他の誰もいなくなっていた。
「話したいことがあって…。良ければ一緒に帰らない?」
「……私?」
半分口を開いたまま惚ける私に、佐脇くんは一度だけ、コクンッと大きく頷いた。
「お待たせ…しました…。」
「おう…。」
「………。」
「………。」
この気まずい沈黙を先に破ったのは、半歩前を歩く佐脇くんの方だった。
「あのさ、森崎って。」
「…なに?」
高鳴り過ぎる胸に手を添えて、斜め上の彼を見上げる。
「明日…、模試受けるんだろ?」
模試?
「…うん。」
「志望校…決まったの?」
佐脇くんが立ち止まり、私をその強い眼差しで射抜く。
「…うん。」
でも、なんで?
なんで、佐脇くんが私の進路を気にしてくれるの?
「そっか。良かった。」
「え?」
「あっ…いや、だいぶ悩んでいるみたいだったから。」
佐脇くんが頭を掻く。
「…なん…で?」
なんで、そんなこと知っているの?
私たち、同じクラスでもちゃんと話したことなんて一度もないのに。
「森崎、いつも野球部の…応援に来てくれてただろ?」
…えっ?気づいてくれていたの?
「だから…、いつもすげーうれしかったから。」
本当に?
「…俺もなんか力になってやりたくて。」
佐脇くんが目線を横に逸らし、鼻を擦る。
これは、照れている時の彼の仕草だということを思い出す。
「佐脇くん、…ありがとう。」
気づいてくれて、気にしてくれて、気遣ってくれてありがとう。
涙が溢れてきて、私の頬や手の甲を濡らした。
「わっ!…泣くなよ、森崎。」
佐脇くんが私の前であたふたと慌て出す。
「俺、高校の野球部は引退しちゃったけど、これからも野球は続けるよ。」
涙を拭い、彼を見上げる。
「好きなことを頑張れば、神様も味方してくれるような気がするんだ。」
「え?」
「俺が野球を頑張る。そうすると空は青く晴れ渡って、いいチームメイトにも出会える。」
「…佐脇くん。」
「だから、…森崎も頑張れよ。俺、ずっと応援しているから。」
佐脇くんはにこやかな表情でそう言うと鼻を擦り、私のおでこを軽く小突いた。
「…うんっ!」
私は佐脇くんの横で、いつか一緒に青空を見上げることができるように、一生懸命頑張ろうって、そう思った。
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