好きになったのは魔王の息子~私達幸せになります!~

蒼衣翼

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魔族と人族

11 魔族の襲撃

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 ソレは突然現れた。
 要塞都市には四方を見渡すための物見櫓が五箇所ある。
 何かが現れた場合に緊急連絡をする仕組みも万全だった。
 しかし、ソレの襲撃を誰も察知出来なかったのだ。

 魔王時代に軍団対軍隊という集団戦に慣れていた砦の兵に油断がなかったとは言えないだろう。
 それにしても、誰もサボったりはしていなかったのだ。
 だが、その災厄は突然要塞都市の上空に姿を現したのである。

「弱き人族よ。今こそその本来の在り方を取り戻す時ぞ。さあ! 這いつくばれ!」

 上空に羽を広げて浮かぶ魔族の女が炎を生み出す。
 虚空に彼女を囲む炎のリングが現出した。

「ゴミムシ共め、燃えろ!」

 そのリングが広がりながら地表に落ちる。
 実は彼女は魔王の後継を探しに来ていたのだが、魔王の気配をこの辺りで見失っていた。
 そこで、人族の街を派手に攻撃することで、魔王をあぶり出そうとしていたのだ。
 だが、彼女は別にこの街に魔王がいるとまでは思ってはいない。
 なにしろ人族の街だ。
 魔族の王がいるはずがないのだ。
 ただし、近くにいて、この街を狙っているのだと判断したのである。
 魔族は横取りを嫌う。
 もし獲物を横取りされたと思えば、怒り狂った魔王が姿を現すだろう。彼女はそう考えたのだ。

 地表に落ちた巨大な炎のリングは四方八方に一気に広がった。
 時間は夜明け前、ほとんどの者が寝入っている時間である。
 もしこの街が普通の人族の街だったら、一瞬で燃えて灰になり、住人は何もわからぬまま死んだだろう。
 しかし、この街は要塞都市。
 魔族領から人族領を守る砦であった。

 砦の、壁と一体化したような要塞部分にある塔がキラリと光り、街の上空にぼんやりと光る膜が出来上がる。
 そして、それは落ちて来た炎のリングを吸い取るように打ち消した。

「ほう、人族のくせになかなかやるではないか。さすが魔王が最初の獲物に選ぶだけはある」

 魔族の女は嘲笑う。
 たとえ初撃が防がれようと、魔族と人族の種族としての力の差は歴然。
 彼女は自分が敗れることなどかけらほども考えていなかった。

「魔王亡き後のトップ争いで抜け駆けに来たか? 汚らわしい魔族めが!」

 吠えるような怒号が響く。
 この要塞都市の主、クイネの父であるフォックス・ジ・エイト・デザイアランナーだ。
 人族の英雄の一人である。

 フォックスは人の身には大きすぎる両手剣を掲げると、ぐるぐると振り回す。
 それだけで彼の膂力が尋常ではないことがわかる。
 恐るべき力だ。

「死にさらせぇっ!」

 ゴウッ! と、剣が振るわれ、その巻き起こす剣風が上空に舞い上がる。
 すると、その風が刃の鋭さを帯びて空に佇む魔族に襲いかかった。

「はっ」

 だが、魔族の女は鼻で笑うと指一本でその鋭き斬撃を打ち消す。

「地上の虫が空の竜を落とせるものか」
「愚か者め、敵を侮る者に勝利は掴めぬ!」

 いつの間にか、街のそこここに兵の配置が終わっている。
 そして魔族の女を囲むように配備された魔法兵が一斉に杖を掲げた。
 すると見えないなにかが魔族の女に絡みつく。

「このようなもの」

 女は軽く腕を一閃させて自分を拘束しようとする魔法を破壊した。
 だが、その魔法は四方八方から次々と襲い来る。
 さすがにこれはうっとおしい。
 魔族の女は大技を使うべく溜めの姿勢に入る。

「今だっ!」

 ざぁっ! と、地上から礫のようなものが飛来した。
 小石のようなその礫が自分を害するなどと考えもしない女は、それを振り払うことすらしない。
 だが、その礫が彼女の周囲で弾けた瞬間、ぐらりと女の体がかしいだ。

「な、なにっ!」
「愚か者め、人族を舐めすぎだ!」

 礫のなかには魔力を乱反射させる特殊な薬剤が仕込まれていたのだ。
 魔族は体内魔力で飛行する。
 その魔力が乱されたため、魔族の女は落下することとなった。

「落ちたぞ! 討ち取れ!」

 人族の兵が一斉に落下地点へと向かう。

 さて、その頃、ジークとクイネはそれぞれの寝室から抜け出して、さらに家も抜け出すと、近くの塔のてっぺんへと登っていた。

「落ちたわね」
「落ちましたね」

 父を嫌っているクイネではあったが、その英雄としての名声や力を認めていない訳ではない。
 魔族の襲撃にもある程度安心感を持ってその見物としゃれこんでいたのだった。
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