世界にダンジョンが発生した・死にたがりの男は・奪われたものを取り返すため深淵世界と対決する!

蒼衣翼

文字の大きさ
5 / 10

ゴースト

しおりを挟む
「皮肉な話だよな。常識的な行動を取ったせいで、逆に救出困難になってしまったなんて、な」

 いつもふざけ調子の真逆も、迷宮の探索中は、さすがに少ししんみりとする。
 真逆の指摘に光夜もうなずく。

 高層建造物で何か問題が発生して、窓の外には何やらよくわからない光景が広がり、スマホも通じないし、電源も切断されてしまった。
 そんな状態で人はどう行動するだろう?
 そう、まずは出口を目指すのだ。
 高層階にいた人々は、せっかく逃げ出せる場所近くにいながらも、何が起こったかわからないまま、とりあえず階下にある出口を目指した。

 これがダンジョン災害が頻発しだした後なら、もしかしたら? と思って屋上を目指したかもしれない。
 しかし。渋谷を始めとする東京の高層建造物がダンジョンに呑まれたのは、かなり早い段階だった。

 東京に限ったことではない。
 世界各国で、高層建造物が真っ先にダンジョンに呑まれたのである。

 その理由は、研究者によると、面辺りの人数ではないか? との推測だった。
 つまり十人しか立てない場所に、高層建造物なら階数分倍数された人数が加わり、十階なら単純計算で百人存在出来るのだ。
 人口密度の高い場所がダンジョン化するという常識にのっとれば、理解出来る理屈ではある。

 とは言え、実際には完全に人数が多い順ではなく、一定よりも多い場所からランダムという感じだ。
 密度が濃すぎた高層建造物は確率が高かっただけ、と言えるだろう。
 実際、摩天楼と言われる高層建造物でも、無事なものも多い。

 運が悪かった……。
 それが何よりもやるせない思いを、残された家族に抱かせるのだ。

「階段発見」

 昔は美しく磨かれていたであろう通路は、コンクリや鉄筋がむき出しになったり、ダンジョン植物と呼ばれるものと融合した部分があったり、と昔の面影はあまりない。
 オフィスへと続くドアも、上層階では元の姿そのままであったが、下るほどにダンジョン要素が濃くなっていた。

 この高層建造物のオフィス部分は、壁による区切りが少なく、ほぼオープンスペースとなっている。
 空間が広く取られていたおかげで、机や椅子、棚の中身などが散乱しつつも行動するのに支障はないが、その分、体格の大きいモンスターも入り込みやすかったようだ。

 ガラス張りの窓部分が割られて、入り込んだらしい飛行型モンスターの巣が出来ていたり、壁をよじ登る能力を持つモンスターがうろついていたりもした。
 屋内で飛行型モンスターはそれほど怖くないが、壁をよじ登れるモンスターは天井に張り付いていたりするので隠密性が高く、何度かヒヤリとした場面もある。

 ところどころに、そういうモンスターの被害に遭ったらしい人骨が散乱していて、光夜はそういった人骨も、ひとかたまりごとにパッケージングして持ち帰るようにしていた。
 自然と荷物が多くなるが、運搬には、屋内探索で大荷物は背負えないので、キャリーボックスを使っている。

「光夜っ! ゴースト濃度急上昇!」

 階段を発見し、さらに下ろうとしたそのとき、花鶏あとりの警告が響いた。

「全員、精神汚染に備えろ!」

 備えたところでどうにかなるのか? という疑念はあるが、気構えがあるのとないのとでは、侵食される確率が全く違うことを、光夜達は経験則として学んでいた。

 視界の隅を何かの影が過ぎったような気がする。
 それが本当の敵なのか、それとも自分の錯覚なのかわからない。
 光夜は唇を噛み締めて、ぐっと下腹に力を入れた。

 地球世界の人間にはまだまだ馴染みが薄いダンジョン、いや、深淵世界に満ちる魔力は、強い意思に反応しやすい。
 周囲の魔力を支配することが出来れば、ゴーストとの対決も楽になる。
 ほぼ手探り状態ではあったが、光夜達はゴーストへの対抗策を少しずつ学んでいた。

 初期は全員が恐慌状態になり、慌てて迷宮から脱出する羽目となったのだが、遭遇が回避出来ない以上は、なんとか対抗するしかない。
 数少ない体験談を収集し、対抗策として打ち出したのが、他人がやっていたら鼻で笑ってしまいそうな精神論だった。

「ゲ……ン……イキ……ル……イキタ……ウラヤマ……シイ」
「来たか……」

 そして、ゴーストは、なんらかの意思を核としている。
 恐怖、悲しみ、恨み、妬み。
 元となっているのは犠牲者の強い想いであり、ほとんどは、死に至る瞬間の強烈な意識だと言われている。

 光夜としては、やりきれない気持ちにもなるが、ゴーストに呑まれて自分達が新たなゴーストの核になる訳にもいかない。

 光夜はベルトポーチから安物のコンパクトプレイヤーを取り出した。
 十年前、人気だった音楽を収録したものだ。
 いろいろと試した結果、最もゴーストに効果的なのは、音楽だった。
 小さいながらスピーカーも備えたコンパクトプレイヤーを、再生状態にして遠くへと転がす。
 十年前、街中でよく聴いた流行りの音楽が、薄暗い迷宮の階段に響いた。

 ゴーストから放射される敵意が薄まる。
 光夜は素早く仲間に合図を送り、階段を駆け下りたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。 平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。 どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

部屋で寝てたら知らない内に転生ここどこだよぉぉぉ

ケンティ
ファンタジー
うぁー よく寝た さー会社行くかー あ? ここどこだよーぉぉ

Sランクパーティーを追放された鑑定士の俺、実は『神の眼』を持ってました〜最神神獣と最強になったので、今さら戻ってこいと言われてももう遅い〜

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティーで地味な【鑑定】スキルを使い、仲間を支えてきたカイン。しかしある日、リーダーの勇者から「お前はもういらない」と理不尽に追放されてしまう。 絶望の淵で流れ着いた辺境の街。そこで偶然発見した古代ダンジョンが、彼の運命を変える。絶体絶命の危機に陥ったその時、彼のスキルは万物を見通す【神の眼】へと覚醒。さらに、ダンジョンの奥で伝説のもふもふ神獣「フェン」と出会い、最強の相棒を得る。 一方、カインを失った元パーティーは鑑定ミスを連発し、崩壊の一途を辿っていた。「今さら戻ってこい」と懇願されても、もう遅い。 無能と蔑まれた鑑定士の、痛快な成り上がり冒険譚が今、始まる!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...