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主役交代
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黒衣魔法は、世界を舞台と見做した魔法だ。
この魔法の使い手は、舞台の主役として選んだ主の後見となり、ひっそりと舞台を進行する、つまり行動を助ける役割を持つ。
台本が、好ましくない成り行きに至りそうになったら、立廻りで捌いて事象を書き換えることが出来る。
ただし、次々と移り変わる現実を、そのやや先手を取って変えていく訳で、対処が遅れたり、手を誤ったりすると、舞台はめちゃくちゃになって、黒衣魔法は崩壊してしまう。
この魔法の使い手は、ひたすら冷静に物事を判断する能力を要求されるのだ。
僕は、幼い頃、祖父から毎日のように、突然の攻撃や、罠などを仕掛けられ、気の休まることのない訓練の日々を送っていた。
瞬間的に発生する出来事に対処出来なければ、黒衣魔法は宝の持ち腐れとなってしまうからだ。
おまけに、魔法自体は、主のいない状態ではほとんど使えないので、訓練は、自分の素の技量だけで切り抜けなければならない。
あの頃の僕は、ひたすら主である勇者に従って家を出る日を待ち望んだものだ。
まぁその日が来るよりも、祖父が亡くなるほうが早かったんだけど。
もちろん、その後も自主練習は欠かさなかったよ。
「僕は、本物になれているかな?」
勇者のパーティにいたときには、勇者との間に信頼関係がほとんどなかったこともあって、黒衣魔法の真の力を発揮出来ていたとは言い難い。
そういう意味では、勇者に責められて仕方ないかもしれないが、それは僕だけの問題じゃないしね。
少なくとも舞台の演出はきっちりとやったんだし。
それにしても、勇者との確執の末に追放されて、もう主を持つのはこりごりだと思ったのはつい先日の話。
なのにまさか、それから季節も変わらないうちに新たな主に仕えることになるとは、僕は意外と節操がないのかもしれない。
まぁメディは可愛いし、世間はメディに対してあまりにも酷かった。
これも運命という奴なのかもしれないな。
ご先祖様が最初の勇者と巡り合って、魔王を倒すことに成功したように、そういう巡り合わせというものが、確かにあるのだろう。
「主役を交代し、代役を立てる。次なる主役は……」
僕の、舞台を見つめる目が、一人の少女を映し出す。
彼女は、この一座の座長の娘、自分の失敗をメディのせいにして、さんざんいびっていた少女だ。
父親に顔も性格もよく似ている。
僕は彼女にそっと歩み寄り、その額に、親指で赤い印をつけた。
そんなことをされたのに、座長の娘は僕には全く気づかず、突然の乱入者である衛兵に、勇敢にも怒鳴り声を上げている。
「なんなの! わ、私達を襲っても、お宝なんか何もないわよ!」
そう言いながら、各地で公演をする間に客から手渡された宝飾品などが入った小箱を背に隠す。
命よりお宝なのかな?
「黙れ! 貴様達には、魔族を街に引き入れた嫌疑がかけられているのだ! おとなしく白状しろ!」
魔族と聞いて、座長の娘の顔が醜い笑みに歪む。
あれはきっと、メディに全ての罪を押し付けようと考えた顔だ。
危ないところだった。
もう少し遅かったら、メディは、石を投げられただけに留まらず、人族を騙して街に侵入した魔族という容疑で、処刑されてしまうところだっただろう。
だが、座長の娘には、もう、代役の受け渡しが終わっている。
「魔族なら知っているわ!」
座長の娘が高らかに叫ぶ。
色めき立つ衛兵達。
次の瞬間、座長の娘は宣言した。
「私よ!」
そう口走った後、座長の娘は、自分が何を言ったのか、理解出来ないような顔になる。
そりゃあびっくりするよね。
代役の印を付けられた者は、本来主役に降りかかるはずだった運命を引き受けることになるのだ。
もし、座長の娘が、心優しく、メディを庇おうと思っていたら、自分が関係ないことを主張出来ただろう。
しかし、全力でメディに罪を押し付けようとしたため、それが全部自分へと跳ね返ったのだ。
まさに自業自得。
衛兵達は、その一見無力そうな少女を大層警戒しながら、包囲して、槍で小突き回して絡め取る。
その間も、座長の娘は叫び続けた。
「私、私が魔族よ! 間違いないわ!」
少しは学習したほうがいいと思う。
おかげでますます衛兵達が猛って、ボコボコにされちゃったじゃないか。
それから、ことの発端である座長だけど、彼ももちろん舞台の台本変更の影響を受けていた。
衛兵隊長から魔族のことで厳しく問いただされた座長は、迷いもなく宣言したのである。
「我が娘がまさしくその魔族です!」
言った後に、座長自身が驚いて自分の口を塞いだが、もはや遅い。
「なんと!」
敵役の衛兵隊長は、ニヤリと悪そうな笑みを浮かべる。
きっと、自分の出世する姿でも思い描いていたんじゃないかな?
座長はたちまち、娘と同じように衛兵に推し包まれ、堅く拘束されることとなった。
さて、もうこれ以上この舞台を見る必要はないな。
「メディ、幕引きだ。退場するよ」
「え? でも衛兵さん達に取り囲まれているんでしょう?」
「主役が舞台から消える仕掛けもあるさ……奈落」
僕が奈落と口にした途端に、周囲が暗転し、今まで見えていた、馬小屋のなかの光景も何も見えなくなる。
「きゃあ!」
とりあえず、メディの悲鳴は、とても可愛かった。
この魔法の使い手は、舞台の主役として選んだ主の後見となり、ひっそりと舞台を進行する、つまり行動を助ける役割を持つ。
台本が、好ましくない成り行きに至りそうになったら、立廻りで捌いて事象を書き換えることが出来る。
ただし、次々と移り変わる現実を、そのやや先手を取って変えていく訳で、対処が遅れたり、手を誤ったりすると、舞台はめちゃくちゃになって、黒衣魔法は崩壊してしまう。
この魔法の使い手は、ひたすら冷静に物事を判断する能力を要求されるのだ。
僕は、幼い頃、祖父から毎日のように、突然の攻撃や、罠などを仕掛けられ、気の休まることのない訓練の日々を送っていた。
瞬間的に発生する出来事に対処出来なければ、黒衣魔法は宝の持ち腐れとなってしまうからだ。
おまけに、魔法自体は、主のいない状態ではほとんど使えないので、訓練は、自分の素の技量だけで切り抜けなければならない。
あの頃の僕は、ひたすら主である勇者に従って家を出る日を待ち望んだものだ。
まぁその日が来るよりも、祖父が亡くなるほうが早かったんだけど。
もちろん、その後も自主練習は欠かさなかったよ。
「僕は、本物になれているかな?」
勇者のパーティにいたときには、勇者との間に信頼関係がほとんどなかったこともあって、黒衣魔法の真の力を発揮出来ていたとは言い難い。
そういう意味では、勇者に責められて仕方ないかもしれないが、それは僕だけの問題じゃないしね。
少なくとも舞台の演出はきっちりとやったんだし。
それにしても、勇者との確執の末に追放されて、もう主を持つのはこりごりだと思ったのはつい先日の話。
なのにまさか、それから季節も変わらないうちに新たな主に仕えることになるとは、僕は意外と節操がないのかもしれない。
まぁメディは可愛いし、世間はメディに対してあまりにも酷かった。
これも運命という奴なのかもしれないな。
ご先祖様が最初の勇者と巡り合って、魔王を倒すことに成功したように、そういう巡り合わせというものが、確かにあるのだろう。
「主役を交代し、代役を立てる。次なる主役は……」
僕の、舞台を見つめる目が、一人の少女を映し出す。
彼女は、この一座の座長の娘、自分の失敗をメディのせいにして、さんざんいびっていた少女だ。
父親に顔も性格もよく似ている。
僕は彼女にそっと歩み寄り、その額に、親指で赤い印をつけた。
そんなことをされたのに、座長の娘は僕には全く気づかず、突然の乱入者である衛兵に、勇敢にも怒鳴り声を上げている。
「なんなの! わ、私達を襲っても、お宝なんか何もないわよ!」
そう言いながら、各地で公演をする間に客から手渡された宝飾品などが入った小箱を背に隠す。
命よりお宝なのかな?
「黙れ! 貴様達には、魔族を街に引き入れた嫌疑がかけられているのだ! おとなしく白状しろ!」
魔族と聞いて、座長の娘の顔が醜い笑みに歪む。
あれはきっと、メディに全ての罪を押し付けようと考えた顔だ。
危ないところだった。
もう少し遅かったら、メディは、石を投げられただけに留まらず、人族を騙して街に侵入した魔族という容疑で、処刑されてしまうところだっただろう。
だが、座長の娘には、もう、代役の受け渡しが終わっている。
「魔族なら知っているわ!」
座長の娘が高らかに叫ぶ。
色めき立つ衛兵達。
次の瞬間、座長の娘は宣言した。
「私よ!」
そう口走った後、座長の娘は、自分が何を言ったのか、理解出来ないような顔になる。
そりゃあびっくりするよね。
代役の印を付けられた者は、本来主役に降りかかるはずだった運命を引き受けることになるのだ。
もし、座長の娘が、心優しく、メディを庇おうと思っていたら、自分が関係ないことを主張出来ただろう。
しかし、全力でメディに罪を押し付けようとしたため、それが全部自分へと跳ね返ったのだ。
まさに自業自得。
衛兵達は、その一見無力そうな少女を大層警戒しながら、包囲して、槍で小突き回して絡め取る。
その間も、座長の娘は叫び続けた。
「私、私が魔族よ! 間違いないわ!」
少しは学習したほうがいいと思う。
おかげでますます衛兵達が猛って、ボコボコにされちゃったじゃないか。
それから、ことの発端である座長だけど、彼ももちろん舞台の台本変更の影響を受けていた。
衛兵隊長から魔族のことで厳しく問いただされた座長は、迷いもなく宣言したのである。
「我が娘がまさしくその魔族です!」
言った後に、座長自身が驚いて自分の口を塞いだが、もはや遅い。
「なんと!」
敵役の衛兵隊長は、ニヤリと悪そうな笑みを浮かべる。
きっと、自分の出世する姿でも思い描いていたんじゃないかな?
座長はたちまち、娘と同じように衛兵に推し包まれ、堅く拘束されることとなった。
さて、もうこれ以上この舞台を見る必要はないな。
「メディ、幕引きだ。退場するよ」
「え? でも衛兵さん達に取り囲まれているんでしょう?」
「主役が舞台から消える仕掛けもあるさ……奈落」
僕が奈落と口にした途端に、周囲が暗転し、今まで見えていた、馬小屋のなかの光景も何も見えなくなる。
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とりあえず、メディの悲鳴は、とても可愛かった。
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