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探し続ける男
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「お前、さきほど飴を食べていたのでは?」
え? 僕疑われてる?
まぁそりゃあ怪しいか。
「連れのおかげで起きました」
嘘ではない。
「そう言えば、もう一人いたな」
「彼は独自に動いています」
これも嘘ではない。
男は特に追求するでもなく、僕の足元に倒れている自称商人の男へと目を向けた。
「その男、俺が引き取る」
「えっと、事情を聞かせてもらっても?」
「……いいだろう。俺が失敗しても、誰か一人ぐらいには知っておいてもらえれば、何かの際に妻子を気にかけてもらえるかもしれんからな」
男は、もしかすると、生きて帰れない覚悟を決めているのかもしれない。
どこか思いつめた目で、ここまでの成り行きを説明してくれた。
なんでも、彼の妻子が実家に子どもの顔を見せに里帰りをした際に、乗合馬車が今回と同じ手口で襲われたのだそうだ。
最初は、ただの盗賊の襲撃としかわからなかったらしいのだけど、彼が必死で探すうちに、その同じ乗合馬車の被害者の一人が発見されて、親族によって助け出されたという話を聞いて、その被害者から今回と同じように、乗客のほとんどを飴で眠らせて攫うという手口が判明したとのこと。
そして、その助け出された被害者は、鉱夫として売られてしまって、なんとか親族に連絡を取って買い戻してもらえたのだそうだ。
そこそこ金のある家の人間だったらしい。
彼は妻子が同じように売られたと考えて、人が売られる先として想定出来る場所をいろいろ当たってみたのだけど、見つからなかった。
こうなったら賊に直接尋ねるしかないということで、事件が多発しているエリアの乗合馬車を利用して、襲撃があるのを待ったのだそうだ。
実に気の長い話だが、妻子が攫われてからもう三年経っているとのこと。
「衛兵隊に情報を提供して任せるつもりにはなれなかったのですか?」
「奴等は、自分達の管轄の街のなかしか守らない。それに……」
男はフードを外して頭を晒した。
その頭部には、犬のような耳がある。
驚いた、まさかこの男も……。
「俺は半魔だ。半魔の話など聞く者はいない。妻は純粋な人族だが、半魔の俺と一緒になったばかりに、親族から追放されたのだ。親に孫を見せれば、少しは気持ちも変わるかもしれないと、里帰りをしたばかりに」
男の声は震えていた。
なるほど、半魔のために人は動かない。
何かを成そうとするなら、自ら動くしかないのが半魔の宿命だった。
この出会いを偶然と片付けていいのか?
いや、よくない。
メディのためには、この男の存在は大きい。
「わかった。私も協力する」
「は?」
男は訝しげに僕を見た。
「何を言って……」
「私も半魔だから。……その、証明出来る場所は、ちょっとすぐに見せられないけど」
頬を赤らめてそう言う。
それに、今はまだ見せられる状態じゃないと思う。
背中全体紫色になっているはず。
「お、おう……」
あ、男が赤くなった。
「そ、それはまた、奇遇だな」
「全くですね。あの、私の名前はメディウム、連れはカゲルと言います」
「お、おう。俺はボーンと言う」
お互いに名乗ったところで、話を進めることにする。
「ところで、これからどうするおつもりで?」
「生かしてある奴等からアジトを聞き出し、乗り込んでこいつらのボスを押さえる。それから俺の妻と子の行方をじっくり吐かせてやるつもりだ」
「嘘をつかれるかもしれませんよ?」
「嘘をつかれることには慣れている。本当のことを言うまで、必要のない体の一部を切り取り続ければ、いつかは本当のことを話すだろう」
このボーンさん、だいぶハードな人生観を持っている。
ちょっとメディとの相性に不安が残るな。
いや、メディとボーンさんが一緒にいることで、ちょうどいい具合の感覚にならないかな?
とりあえず僕は、ボーンさんに建設的な提案をしてみることにした。
「私なら、もっと簡単に真実を探ることが出来ますよ」
ボーンさんは、ギラッとした目で僕を見る。
「どういうことだ?」
「私も半魔だと言ったでしょう? 魔紋があるタイプなんです」
「魔法が使えるのか」
うなずかない。
メディに嘘をつかせる訳にはいかないからね。
まぁ相手が勝手に誤解してしまうのは、仕方ない。
僕は悪くない。
「とりあえず、この商人と言ってた人から見るね」
僕は自称商人を注視して、浮かび上がるト書きを読む。
この男、なんと本当に商人らしい。
しかもそこそこ大きな商会の人間だ。
つまりその商会と賊が結託して、人を攫って売っぱらっていたってことみたいだ。
「三年前の仕事で攫った母子のことを覚えてる?」
気を失っていても耳から聞いた言葉は意識の奥に取り込まれ、関連する記憶を呼び覚ます。
この男の記憶から出て来た母子は、全部で五組くらいいた。
なかには、むごいことになった母子もいて、ボーンさんの妻子でなければいいなと思いつつ、意識を逸らす。
「ボーンさん、あなたの奥さんと子どもの特徴は? 子どもは何歳ぐらいで性別はどっち?」
「お、おう。妻は赤毛に茶色の瞳で、少しぽっちゃり型の優しげな女だ。子どもは、金茶色の髪で、紅茶色の目をした、三歳の娘だ」
うーん、該当者……ああ……うん。
僕は今見た事実を、どう伝えようかと少し悩みながらボーンさんの顔を見た。
え? 僕疑われてる?
まぁそりゃあ怪しいか。
「連れのおかげで起きました」
嘘ではない。
「そう言えば、もう一人いたな」
「彼は独自に動いています」
これも嘘ではない。
男は特に追求するでもなく、僕の足元に倒れている自称商人の男へと目を向けた。
「その男、俺が引き取る」
「えっと、事情を聞かせてもらっても?」
「……いいだろう。俺が失敗しても、誰か一人ぐらいには知っておいてもらえれば、何かの際に妻子を気にかけてもらえるかもしれんからな」
男は、もしかすると、生きて帰れない覚悟を決めているのかもしれない。
どこか思いつめた目で、ここまでの成り行きを説明してくれた。
なんでも、彼の妻子が実家に子どもの顔を見せに里帰りをした際に、乗合馬車が今回と同じ手口で襲われたのだそうだ。
最初は、ただの盗賊の襲撃としかわからなかったらしいのだけど、彼が必死で探すうちに、その同じ乗合馬車の被害者の一人が発見されて、親族によって助け出されたという話を聞いて、その被害者から今回と同じように、乗客のほとんどを飴で眠らせて攫うという手口が判明したとのこと。
そして、その助け出された被害者は、鉱夫として売られてしまって、なんとか親族に連絡を取って買い戻してもらえたのだそうだ。
そこそこ金のある家の人間だったらしい。
彼は妻子が同じように売られたと考えて、人が売られる先として想定出来る場所をいろいろ当たってみたのだけど、見つからなかった。
こうなったら賊に直接尋ねるしかないということで、事件が多発しているエリアの乗合馬車を利用して、襲撃があるのを待ったのだそうだ。
実に気の長い話だが、妻子が攫われてからもう三年経っているとのこと。
「衛兵隊に情報を提供して任せるつもりにはなれなかったのですか?」
「奴等は、自分達の管轄の街のなかしか守らない。それに……」
男はフードを外して頭を晒した。
その頭部には、犬のような耳がある。
驚いた、まさかこの男も……。
「俺は半魔だ。半魔の話など聞く者はいない。妻は純粋な人族だが、半魔の俺と一緒になったばかりに、親族から追放されたのだ。親に孫を見せれば、少しは気持ちも変わるかもしれないと、里帰りをしたばかりに」
男の声は震えていた。
なるほど、半魔のために人は動かない。
何かを成そうとするなら、自ら動くしかないのが半魔の宿命だった。
この出会いを偶然と片付けていいのか?
いや、よくない。
メディのためには、この男の存在は大きい。
「わかった。私も協力する」
「は?」
男は訝しげに僕を見た。
「何を言って……」
「私も半魔だから。……その、証明出来る場所は、ちょっとすぐに見せられないけど」
頬を赤らめてそう言う。
それに、今はまだ見せられる状態じゃないと思う。
背中全体紫色になっているはず。
「お、おう……」
あ、男が赤くなった。
「そ、それはまた、奇遇だな」
「全くですね。あの、私の名前はメディウム、連れはカゲルと言います」
「お、おう。俺はボーンと言う」
お互いに名乗ったところで、話を進めることにする。
「ところで、これからどうするおつもりで?」
「生かしてある奴等からアジトを聞き出し、乗り込んでこいつらのボスを押さえる。それから俺の妻と子の行方をじっくり吐かせてやるつもりだ」
「嘘をつかれるかもしれませんよ?」
「嘘をつかれることには慣れている。本当のことを言うまで、必要のない体の一部を切り取り続ければ、いつかは本当のことを話すだろう」
このボーンさん、だいぶハードな人生観を持っている。
ちょっとメディとの相性に不安が残るな。
いや、メディとボーンさんが一緒にいることで、ちょうどいい具合の感覚にならないかな?
とりあえず僕は、ボーンさんに建設的な提案をしてみることにした。
「私なら、もっと簡単に真実を探ることが出来ますよ」
ボーンさんは、ギラッとした目で僕を見る。
「どういうことだ?」
「私も半魔だと言ったでしょう? 魔紋があるタイプなんです」
「魔法が使えるのか」
うなずかない。
メディに嘘をつかせる訳にはいかないからね。
まぁ相手が勝手に誤解してしまうのは、仕方ない。
僕は悪くない。
「とりあえず、この商人と言ってた人から見るね」
僕は自称商人を注視して、浮かび上がるト書きを読む。
この男、なんと本当に商人らしい。
しかもそこそこ大きな商会の人間だ。
つまりその商会と賊が結託して、人を攫って売っぱらっていたってことみたいだ。
「三年前の仕事で攫った母子のことを覚えてる?」
気を失っていても耳から聞いた言葉は意識の奥に取り込まれ、関連する記憶を呼び覚ます。
この男の記憶から出て来た母子は、全部で五組くらいいた。
なかには、むごいことになった母子もいて、ボーンさんの妻子でなければいいなと思いつつ、意識を逸らす。
「ボーンさん、あなたの奥さんと子どもの特徴は? 子どもは何歳ぐらいで性別はどっち?」
「お、おう。妻は赤毛に茶色の瞳で、少しぽっちゃり型の優しげな女だ。子どもは、金茶色の髪で、紅茶色の目をした、三歳の娘だ」
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