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復讐者の明日
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「カゲルです。よろしく」
僕はいかにも初対面といった風情で挨拶した。
まぁ一緒の馬車には乗っていた訳だから、二重の意味で初対面じゃないんだけどね。
「別行動というのは?」
ボーンさんは、僕にはあまり感心がない様子だったが、僕のやっていたとされることには感心があったようだ。
「応援を呼ばれるのを防いでました」
「なるほど」
僕達は賊を倒した後、ト書きを読んだり、話をしたりと、そこそこ時間を使っていたのだけど、賊の加勢が来ることはなかった。
これは実際に僕が防いでいたことだ。
一度舞台を設置すると、そこから降りる許可が出ていない者は逃げ出せないのである。
そのため、本当は途中で何人かは戦いから離脱しようとしていたんだけど、この黒衣魔法の影響で、また襲撃場所に逆戻りしてしまっていたのだ。
「加勢が来ていたら、賊の数をもっと減らせたかもしれないな」
ボーンさんが僕に難癖をつけた。
女の子のメディ一人をこの場に残した僕に、あまりいい感情を抱けなかったのかもしれない。
そもそも自分自身が妻子だけで里帰りさせてしまったばかりに、妻子を失ったという経験をしている。
大事な相手を一人にするということを嫌うのは仕方のないことなのだろう。
「でも、不意を突かれて、遅れを取った可能性もあります」
メディが僕を庇うようにそう言った。
メディ自身は本当のことを知っている訳だけど、僕からくれぐれもこの魔法のことは他言しないように言われているので、説明する訳にもいかず、そういう庇い方にならざるを得ないのだ。
「可能性だけならなんでもあり得るな。……すまなかった。それでは行くぞ」
ボーンさんはそれだけ言うと、馬を走らせた。
自分の意見に拘泥しないのは、彼にとって、復讐以外はすでにどうでもいいことだからなのかもしれない。
それを見て、慌てて馬に乗ろうとしたメディだったが、すぐに困ったように僕を見た。
「あの、私、馬に乗れません」
「さっきまでの経験は学んだだろうけど、さすがに付け焼き刃すぎで無理か」
さっきまでは、僕がメディの体を動かしていたので、馬に普通に乗れていたけれど、メディ自身には、乗馬の経験はなかった。
僕が抜けたので、馬に乗れなくなってしまったのだ。
傀儡は、経験も記憶も残るので、続ければ、乗馬も普通に出来るようになるはずだけど、さすがにこの短期間では無理があった。
「じゃあ、僕が馬を操るから、メディは後ろに乗って」
「は、はい」
馬に乗った状態で、メディをひっぱり上げるときに、その手の熱に気づく。
まだ背中の傷の影響が残っているのだ。
「キツイなら僕だけで行くけど」
「私が行かなければ、ボーンさんは納得しません」
うん。
それは間違いない。
でも、賊を殲滅したいのはボーンさんの事情で、正直に言えば僕達には関係ない話だ。
ここで分かれてしまっても、実は何の問題もない。
ただ、僕の思惑からすると、ちょっともったいないとは思うけど。
彼の戦力は魅力的だ。
「ボーンさんは、敵討ちをしたら、その後、どうするつもりなんでしょう?」
「……死ぬ」
僕がそう言うと、メディの体がこわばるのを感じた。
「か、死んだように生きるか、まぁどっちかだろうね」
「そんな……」
ボーンさんのなかにあるのは、後悔と怒りと虚無だけ。
怒りの矛先が消え失せたら、残るのは後悔と虚無のみになる。
そんな精神で、人は生き続けることは出来るのだろうか?
いや、生き続けることが出来たとしても、それは決して充実した人生とは言えないだろう。
「私、そういうのは、嫌」
メディはギュッと僕のお腹の部分に手を回して、抱きついて来た。
予想していたはずなのに、僕はめちゃくちゃドキドキしている。
落ち着け、僕の心臓。
メディにバレるだろ!
「メディが思った通りにするといい。僕はそれを助けるよ」
「ありがとう、カゲルさん」
礼なんて言わなくてもいい。
だってそれが僕の存在理由だからね。
でも、メディの真っ直ぐな優しさに僕が惹かれるように、ボーンさんの凍ってしまった心も、動かせるかもしれない。
都合のよすぎる話かもしれないけど、結局のところ、人は生き続ける限り、何かすがるものを、目指すものを欲するのだから。
「……遅い」
追いついてみると、ボーンさんがひんやりとした声でそう告げた。
そりゃあそうだよね。
賊のアジトを知っているのは僕だから、ボーンさんの気がどれほど逸っていようと、一人で先駆けするという訳にはいかないのだ。
「待たせてごめん。……行こう」
メディは僕の体に捕まりながら、そう答える。
ちょっと格好のつかない絵面だけど、意識が賊に向いているボーンさんは気にしてないようだ。
僕はさっそく馬を駆って、早足程度の速度で進む。
賊のアジトまで、そう遠くはないけれど、馬を走らせたりするとたちまち警戒されてしまう。
せっかく奇襲が出来る有利な状態なのだから、気づかれないように行かないと。
舞台は転換する。
次の舞台は盗賊のアジト。
立ち回るは復讐者と、人魔の未来を目指す少女。
ただし、復讐者はあくまでもサブだ。
メインで主役を張るのはメディ。
この一戦を、僕の主の糧とさせてもらおう。
僕はいかにも初対面といった風情で挨拶した。
まぁ一緒の馬車には乗っていた訳だから、二重の意味で初対面じゃないんだけどね。
「別行動というのは?」
ボーンさんは、僕にはあまり感心がない様子だったが、僕のやっていたとされることには感心があったようだ。
「応援を呼ばれるのを防いでました」
「なるほど」
僕達は賊を倒した後、ト書きを読んだり、話をしたりと、そこそこ時間を使っていたのだけど、賊の加勢が来ることはなかった。
これは実際に僕が防いでいたことだ。
一度舞台を設置すると、そこから降りる許可が出ていない者は逃げ出せないのである。
そのため、本当は途中で何人かは戦いから離脱しようとしていたんだけど、この黒衣魔法の影響で、また襲撃場所に逆戻りしてしまっていたのだ。
「加勢が来ていたら、賊の数をもっと減らせたかもしれないな」
ボーンさんが僕に難癖をつけた。
女の子のメディ一人をこの場に残した僕に、あまりいい感情を抱けなかったのかもしれない。
そもそも自分自身が妻子だけで里帰りさせてしまったばかりに、妻子を失ったという経験をしている。
大事な相手を一人にするということを嫌うのは仕方のないことなのだろう。
「でも、不意を突かれて、遅れを取った可能性もあります」
メディが僕を庇うようにそう言った。
メディ自身は本当のことを知っている訳だけど、僕からくれぐれもこの魔法のことは他言しないように言われているので、説明する訳にもいかず、そういう庇い方にならざるを得ないのだ。
「可能性だけならなんでもあり得るな。……すまなかった。それでは行くぞ」
ボーンさんはそれだけ言うと、馬を走らせた。
自分の意見に拘泥しないのは、彼にとって、復讐以外はすでにどうでもいいことだからなのかもしれない。
それを見て、慌てて馬に乗ろうとしたメディだったが、すぐに困ったように僕を見た。
「あの、私、馬に乗れません」
「さっきまでの経験は学んだだろうけど、さすがに付け焼き刃すぎで無理か」
さっきまでは、僕がメディの体を動かしていたので、馬に普通に乗れていたけれど、メディ自身には、乗馬の経験はなかった。
僕が抜けたので、馬に乗れなくなってしまったのだ。
傀儡は、経験も記憶も残るので、続ければ、乗馬も普通に出来るようになるはずだけど、さすがにこの短期間では無理があった。
「じゃあ、僕が馬を操るから、メディは後ろに乗って」
「は、はい」
馬に乗った状態で、メディをひっぱり上げるときに、その手の熱に気づく。
まだ背中の傷の影響が残っているのだ。
「キツイなら僕だけで行くけど」
「私が行かなければ、ボーンさんは納得しません」
うん。
それは間違いない。
でも、賊を殲滅したいのはボーンさんの事情で、正直に言えば僕達には関係ない話だ。
ここで分かれてしまっても、実は何の問題もない。
ただ、僕の思惑からすると、ちょっともったいないとは思うけど。
彼の戦力は魅力的だ。
「ボーンさんは、敵討ちをしたら、その後、どうするつもりなんでしょう?」
「……死ぬ」
僕がそう言うと、メディの体がこわばるのを感じた。
「か、死んだように生きるか、まぁどっちかだろうね」
「そんな……」
ボーンさんのなかにあるのは、後悔と怒りと虚無だけ。
怒りの矛先が消え失せたら、残るのは後悔と虚無のみになる。
そんな精神で、人は生き続けることは出来るのだろうか?
いや、生き続けることが出来たとしても、それは決して充実した人生とは言えないだろう。
「私、そういうのは、嫌」
メディはギュッと僕のお腹の部分に手を回して、抱きついて来た。
予想していたはずなのに、僕はめちゃくちゃドキドキしている。
落ち着け、僕の心臓。
メディにバレるだろ!
「メディが思った通りにするといい。僕はそれを助けるよ」
「ありがとう、カゲルさん」
礼なんて言わなくてもいい。
だってそれが僕の存在理由だからね。
でも、メディの真っ直ぐな優しさに僕が惹かれるように、ボーンさんの凍ってしまった心も、動かせるかもしれない。
都合のよすぎる話かもしれないけど、結局のところ、人は生き続ける限り、何かすがるものを、目指すものを欲するのだから。
「……遅い」
追いついてみると、ボーンさんがひんやりとした声でそう告げた。
そりゃあそうだよね。
賊のアジトを知っているのは僕だから、ボーンさんの気がどれほど逸っていようと、一人で先駆けするという訳にはいかないのだ。
「待たせてごめん。……行こう」
メディは僕の体に捕まりながら、そう答える。
ちょっと格好のつかない絵面だけど、意識が賊に向いているボーンさんは気にしてないようだ。
僕はさっそく馬を駆って、早足程度の速度で進む。
賊のアジトまで、そう遠くはないけれど、馬を走らせたりするとたちまち警戒されてしまう。
せっかく奇襲が出来る有利な状態なのだから、気づかれないように行かないと。
舞台は転換する。
次の舞台は盗賊のアジト。
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ただし、復讐者はあくまでもサブだ。
メインで主役を張るのはメディ。
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