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舞台設置
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賊達がアジトにしているのは、打ち捨てられたような小さな集落だった。
賊の心の声によると、昔この辺で鉱石が取れたらしい。
ただ、すぐに鉱脈は枯れてしまって、小規模の集落が残るだけといった状態となった。
その跡地を、この賊共が占拠したという訳だ。
集落のなかで一番立派で頑丈な建物は倉庫だったので、主要メンバーはその倉庫を居住場所に据えている。
ほかの下っ端連中は、崩れかけた小屋などを適当に手入れして住み着いているようだ。
「この集落を舞台とする」
黒衣魔法が発動し、定められたエリアの情報が、僕のなかに流れ込む。
一番注意したい、主要メンバーがいる倉庫だが、僕達を襲撃して来た奴等の記憶にあった顔は揃っているようだ。
主要メンバーのなかでも、最も注意すべき人物は二人。
一人は、盗賊団全体の指揮を執っている、お頭と呼ばれる男だ。
普段は冷静で理性的だが、キレると烈火のごとく怒り出し、血を見るまで止まらないという、ヤバい奴である。
ボーンさんの妻子を殺害したのもこの男だ。
というか、誘拐して来た人間を売って利益を得ているこの集団で、むやみに攫って来た人間を殺していては損しかないのだから、本来は、攫って来た人間をうっかり傷つけても粛清される。
それなのに、トップであるこのお頭が一番、特に理由なく殺しているのだ。
他人が殺るのは許さないが、自分は腹が立ったら殺してしまうという、身勝手極まる奴だ。
そんな奴でも手下が従っているのは、この集団を率いるだけの頭があるからだろう。
ほかの連中では、商人と裏で繋がって人間を売りさばくなんて真似は、逆立ちしても出来そうもないからな。
次に注意すべきは、このお頭の用心棒のような立場にいる奴だ。
とんでもない巨体で、普通の大人の男の倍ぐらいの大きさがある。
もしかすると、こいつも半魔なのかもしれない。
お頭だけに従順で、お頭が抑えていないと、凶暴で手がつけられないとのこと。
俺が心の声を聞いた男が、自分で見た訳ではないけど、以前お頭に逆らった十数人を、纏めて投げ飛ばしたとかいう事件があったらしい。
まぁ噂なので本当のところはわからないが、もしかしたら半魔ではなく、人の姿をした魔物なのかもしれない。
魔族の下級種族は魔物と呼ばれていることが多いが、そのなかでも鬼と呼ばれる種族は、あまり賢くはないが、力はやたら強いからな。
特徴も似ている。
下手すると、この盗賊の頭とかいう奴、契約の魔法が使えるのかもしれない。
ただ、魔物を従えることの出来る契約魔法というものが存在するという話は聞いたことがないので、疑問の残るところだ。
さて、この二人はかなり厄介なのだけど、同時に、この二人さえ倒してしまえば、あとは烏合の衆なので、ボーンさんの相手になるとは思えない。
とは言え、人数だけは多いので、強敵二人にぶつかる前に、こいつらで消耗するのはマズいし、侮っていると、数の力で押し切られてしまう可能性も高い。
なので、彼らには少し舞台から退場しておいてもらおうと思う。
「書き割り」
僕は、集落の外から倉庫へと続く道沿いに、何も起きていない日常風景の幻を置いた。
一種の壁と考えてもらっていいだろう。
倉庫へ向かっているつもりでも、いつの間にか元の場所へと戻ってしまう幻だ。
だいたい、半日程度は持つ。
雑魚戦など誰も期待していない。
やはり盛り上がるのはボス戦だ。
ただ、危険な相手と二人同時に戦うのは、いくらボーンさんが強いと言っても厳しいだろう。
出来れば一対一の局面を仕立てたいところだ。
お頭と呼ばれている男は用心深い奴のようだし、どんな場面なら用心棒を傍らから離すだろうか?
いや、逆に、その用心深さを利用させてもらおうか。
僕は、集落の入口で警戒している歩哨らしき男の一人に影から囁く。
黒衣魔法を使っているときの僕は誰からも姿は見えず、声も聞こえない。
唯一、主にだけは意思を伝えることが出来るだけ。
だから、この状態の僕の囁きは、それを聞いた者自身の考えということになる。
つまり台本だ。
歩哨の男の役割は、伝令。
歩哨の男は急にハッとしたように倉庫に向かって走り出す。
「かしら! かしらぁ、大変だっ!」
「どうした? 騒がしいぞ」
倉庫のなかでは、檻のなかに飢えた獣を放ち、互いに喰らいあわせるという遊びが行われていた。
この頭という男、かなりの嗜虐趣味の持ち主だ。
「奴等、商人共が裏切った! 自分達の商人としての格を上げるために、俺達を領主に売りやがったんだ」
「なんだと!」
「やろう、許せねえ!」
歩哨の男の言葉に、お頭と共に、趣味の悪い遊びに興じていた主要メンバー達が怒りの声を上げる。
だが、一人、お頭と呼ばれる男だけは、眉をひそめて言った。
「それは、誰からの情報だ?」
「今朝乗合馬車の襲撃に向かった連中の一人が逃げて来たんでさ」
これはもちろん、歩哨の男がそう思い込んでいるだけだ。
「そういや、帰りが遅え」
「くそが! だから偉そうな商人なんざ、信用ならねえんだ」
「黙れ!」
お頭が一喝すると、周囲の主要メンバー達が口をつぐむ。
それまで怒りに満ちていた顔には、今や恐怖の色が濃い。
このお頭、よほど怖れられているようだ。
「とにかく、話を聞かねば何もわからん。おい、耳!」
「へい!」
「まずは貴様が話を聞いて来い! 何、いくら領主に訴えたところで、貴族ってのはすぐには動いたりはしない。確証を掴んでから場所を引き払うなりなんなりすればいい。慌てる必要はない」
「はっ!」
「さすがお頭だぜ!」
一瞬統制が崩れかけたのをたちまち立て直した。
やはりかなりの統率力があるリーダーだ。
逆に言えば、どれだけ統率力があろうと、しょぼい盗賊団のリーダーにしかなれなかった男とも言える。
見た目はどっしり構えているが、ト書きで読み取れる本心には焦りがあった。
焦る心は、このアジトからの脱出路を思い浮かべ、いざというときに備えている。
うん。
これで準備は整った。
いよいよ、盗賊退治の開幕だ。
賊の心の声によると、昔この辺で鉱石が取れたらしい。
ただ、すぐに鉱脈は枯れてしまって、小規模の集落が残るだけといった状態となった。
その跡地を、この賊共が占拠したという訳だ。
集落のなかで一番立派で頑丈な建物は倉庫だったので、主要メンバーはその倉庫を居住場所に据えている。
ほかの下っ端連中は、崩れかけた小屋などを適当に手入れして住み着いているようだ。
「この集落を舞台とする」
黒衣魔法が発動し、定められたエリアの情報が、僕のなかに流れ込む。
一番注意したい、主要メンバーがいる倉庫だが、僕達を襲撃して来た奴等の記憶にあった顔は揃っているようだ。
主要メンバーのなかでも、最も注意すべき人物は二人。
一人は、盗賊団全体の指揮を執っている、お頭と呼ばれる男だ。
普段は冷静で理性的だが、キレると烈火のごとく怒り出し、血を見るまで止まらないという、ヤバい奴である。
ボーンさんの妻子を殺害したのもこの男だ。
というか、誘拐して来た人間を売って利益を得ているこの集団で、むやみに攫って来た人間を殺していては損しかないのだから、本来は、攫って来た人間をうっかり傷つけても粛清される。
それなのに、トップであるこのお頭が一番、特に理由なく殺しているのだ。
他人が殺るのは許さないが、自分は腹が立ったら殺してしまうという、身勝手極まる奴だ。
そんな奴でも手下が従っているのは、この集団を率いるだけの頭があるからだろう。
ほかの連中では、商人と裏で繋がって人間を売りさばくなんて真似は、逆立ちしても出来そうもないからな。
次に注意すべきは、このお頭の用心棒のような立場にいる奴だ。
とんでもない巨体で、普通の大人の男の倍ぐらいの大きさがある。
もしかすると、こいつも半魔なのかもしれない。
お頭だけに従順で、お頭が抑えていないと、凶暴で手がつけられないとのこと。
俺が心の声を聞いた男が、自分で見た訳ではないけど、以前お頭に逆らった十数人を、纏めて投げ飛ばしたとかいう事件があったらしい。
まぁ噂なので本当のところはわからないが、もしかしたら半魔ではなく、人の姿をした魔物なのかもしれない。
魔族の下級種族は魔物と呼ばれていることが多いが、そのなかでも鬼と呼ばれる種族は、あまり賢くはないが、力はやたら強いからな。
特徴も似ている。
下手すると、この盗賊の頭とかいう奴、契約の魔法が使えるのかもしれない。
ただ、魔物を従えることの出来る契約魔法というものが存在するという話は聞いたことがないので、疑問の残るところだ。
さて、この二人はかなり厄介なのだけど、同時に、この二人さえ倒してしまえば、あとは烏合の衆なので、ボーンさんの相手になるとは思えない。
とは言え、人数だけは多いので、強敵二人にぶつかる前に、こいつらで消耗するのはマズいし、侮っていると、数の力で押し切られてしまう可能性も高い。
なので、彼らには少し舞台から退場しておいてもらおうと思う。
「書き割り」
僕は、集落の外から倉庫へと続く道沿いに、何も起きていない日常風景の幻を置いた。
一種の壁と考えてもらっていいだろう。
倉庫へ向かっているつもりでも、いつの間にか元の場所へと戻ってしまう幻だ。
だいたい、半日程度は持つ。
雑魚戦など誰も期待していない。
やはり盛り上がるのはボス戦だ。
ただ、危険な相手と二人同時に戦うのは、いくらボーンさんが強いと言っても厳しいだろう。
出来れば一対一の局面を仕立てたいところだ。
お頭と呼ばれている男は用心深い奴のようだし、どんな場面なら用心棒を傍らから離すだろうか?
いや、逆に、その用心深さを利用させてもらおうか。
僕は、集落の入口で警戒している歩哨らしき男の一人に影から囁く。
黒衣魔法を使っているときの僕は誰からも姿は見えず、声も聞こえない。
唯一、主にだけは意思を伝えることが出来るだけ。
だから、この状態の僕の囁きは、それを聞いた者自身の考えということになる。
つまり台本だ。
歩哨の男の役割は、伝令。
歩哨の男は急にハッとしたように倉庫に向かって走り出す。
「かしら! かしらぁ、大変だっ!」
「どうした? 騒がしいぞ」
倉庫のなかでは、檻のなかに飢えた獣を放ち、互いに喰らいあわせるという遊びが行われていた。
この頭という男、かなりの嗜虐趣味の持ち主だ。
「奴等、商人共が裏切った! 自分達の商人としての格を上げるために、俺達を領主に売りやがったんだ」
「なんだと!」
「やろう、許せねえ!」
歩哨の男の言葉に、お頭と共に、趣味の悪い遊びに興じていた主要メンバー達が怒りの声を上げる。
だが、一人、お頭と呼ばれる男だけは、眉をひそめて言った。
「それは、誰からの情報だ?」
「今朝乗合馬車の襲撃に向かった連中の一人が逃げて来たんでさ」
これはもちろん、歩哨の男がそう思い込んでいるだけだ。
「そういや、帰りが遅え」
「くそが! だから偉そうな商人なんざ、信用ならねえんだ」
「黙れ!」
お頭が一喝すると、周囲の主要メンバー達が口をつぐむ。
それまで怒りに満ちていた顔には、今や恐怖の色が濃い。
このお頭、よほど怖れられているようだ。
「とにかく、話を聞かねば何もわからん。おい、耳!」
「へい!」
「まずは貴様が話を聞いて来い! 何、いくら領主に訴えたところで、貴族ってのはすぐには動いたりはしない。確証を掴んでから場所を引き払うなりなんなりすればいい。慌てる必要はない」
「はっ!」
「さすがお頭だぜ!」
一瞬統制が崩れかけたのをたちまち立て直した。
やはりかなりの統率力があるリーダーだ。
逆に言えば、どれだけ統率力があろうと、しょぼい盗賊団のリーダーにしかなれなかった男とも言える。
見た目はどっしり構えているが、ト書きで読み取れる本心には焦りがあった。
焦る心は、このアジトからの脱出路を思い浮かべ、いざというときに備えている。
うん。
これで準備は整った。
いよいよ、盗賊退治の開幕だ。
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