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第三章 神と魔と
177 山中での遭遇
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山のなかに分け入ると自分の今いる位置がはっきりとしなくなる。
今いる場所は通常の道から外れた場所なのでなおさらだ。
俺は勇者を待機させるとフォルテを空に上がらせて視界を同調させた。
「思っていたよりズレているな」
歩数と角度から見当をつけながら保養所の裏手の崖からまっすぐ東の地点を目指したつもりだったが、やはりかなりズレがある。
山のなかで位置取りするのはなかなか辛いな。
さらにフォルテの目に魔力を通して山の様子を確認する。
源泉から続く、赤い線というよりもモヤモヤとした流れのようなものが見えた。かなり曲がりくねっている。
まっすぐ東ではなく、やや北よりに曲がって、西に行ったり東に行ったりして、その先で別れた流れと合流していた。もう少し高く上がって全体を広く見ると、まるで血管のように山のなかに源泉と同じ魔力が流れているのがわかる。
「まぁ枝葉は無視していいか。元を辿ろう。フォルテ、あの太い流れに沿って飛んでくれ。アルフ、足元に注意して行くぞ。獣道すらない場所だ。何があるかわからん」
「キュイ!」
「わかった」
それぞれの返事を受けて先へと進む。
山肌は基本的に斜面となっている。
しかもこの山は大木が少なく低木が多い。地面にはひょろっとした草が生えていて、そのいくつかは鋭い葉を持ち、うかつに握ると手を切り裂く性質を持っている。
尤も、俺もアルフも手袋をしているのでその辺りはあまり影響はない。
藪となる低木の多くはトゲを持っているが、その代りと言ってはなんだが、きれいな花をつける。
花には美しい羽を持つ虫たちが飛び交い、意外とこの山が生命に溢れていることを感じさせた。
「耳茸がいっぱいあるな。ありがたい」
俺は進行方向にある分だけ手早く耳茸を採取する。
キノコ類は猛毒のあるものもあり、野外で採取するのをためらうものだが、似た外見のものに毒のあるものがないキノコもある。この耳茸などはその代表格だろう。
食べるとコリコリとした食感があり、香りもいい。
スープの具材として優秀なキノコだ。
「師匠、それ美味いのか?」
「美味いぞ。こういった人のいない場所で長期間調査をする場合には、あまり味のあるものを口にしなくなる。そうするとな、不思議なことに感覚が鈍くなるんだ。だからたまには味のあるものを食って感覚を取り戻す必要がある。そういうときのための食材は現地で採取出来るものが一番いいんだ」
「なるほど」
勇者が真剣にうなずく。
「だからと言って毒のあるものは絶対に口にするな。毒がある疑いのあるものもだ。魔物の肉など言語道断だからな」
「師匠しつこい」
「お前にはしつこいぐらいでいいんだよ」
そんなことを言っている間に、フォルテが何かを発見したらしく鋭い警告の声を上げた。
同時に俺も前方から凄い勢いで強い魔力の持ち主が迫って来るのを察知する。
魔物か? 人間ほどの大きさだ。いや、これは人間か?
「アルフ!」
瞬間、勇者の詠唱を中断させた。
いきなり何かでかいの撃とうとしただろ? 魔力が急激に体内に圧縮されるから冷や汗が出たぞ。
俺の指示に従って勇者は動き出そうとしていたのをピタリと止めて、相手がやって来る先を見つめる。
「どなたでしょうか?」
相手は俺たちのかなり手前、低木の影で足を止めた。
向こうもこちらを探っている感じがある。
「こっちは危険だ。近寄るな」
低い、男の声だ。言葉が硬い。大公国なまりか?
「我らは依頼を受けての調査だ。そちらに相当の権限がない限り、仕事を続行する」
「愚かな、権限の話などではないわ! 危険を警告してやっておるのだ!」
「話にならん。それはお前が危険ということか? それなら盗賊のたぐいとして討伐してやろうか?」
相手の居丈高な物言いに、勇者がさらに挑戦的に言い放った。
こいつら……。
「ならばその身で思い知れ!」
マズい、相手も頭の悪い剣で語るタイプだ。
「死して後、後悔しろ!」
「やめろ! 殺すんじゃない!」
勇者よ、面倒だからとりあえず排除する考え方はやめろ。
ぶわっと風と魔力が巻き起こる。
バカ共が始めやがった。
キィン! と鋭い金属の音がやや遠くの前方で聞こえたと思ったら、今度は右の低木が二本ほど宙を舞っている。
勇者は当然だが、相手もかなりの使い手か。
俺は思いっきり息を吸い込むと、肺のなかに魔力を同時に溜める。
そして喉と口を強化した。
「いい加減にしろっ!」
空気が一瞬たわむほどの素の魔力の放出。
大声の後に脳を揺さぶる木霊が響く。
周辺の鳥が一斉に飛び立った。
動き回っていた二つの気配がぴたりと足を止めたのがわかる。
見ると、いつの間にか俺の正面に二人の男が向かい合っていた。
「ぬう、勇者、か?」
「貴様、ディスタスの特権騎士か?」
お互いの背負った紋章を見て、相手が何者か認識したらしい。
お前らせめて名乗り合ってから斬り合え。
俺は煮えくり返るような怒りを腹のなかに抱えながら、剣で語る連中の非常識さに頭を抱えていた。
今いる場所は通常の道から外れた場所なのでなおさらだ。
俺は勇者を待機させるとフォルテを空に上がらせて視界を同調させた。
「思っていたよりズレているな」
歩数と角度から見当をつけながら保養所の裏手の崖からまっすぐ東の地点を目指したつもりだったが、やはりかなりズレがある。
山のなかで位置取りするのはなかなか辛いな。
さらにフォルテの目に魔力を通して山の様子を確認する。
源泉から続く、赤い線というよりもモヤモヤとした流れのようなものが見えた。かなり曲がりくねっている。
まっすぐ東ではなく、やや北よりに曲がって、西に行ったり東に行ったりして、その先で別れた流れと合流していた。もう少し高く上がって全体を広く見ると、まるで血管のように山のなかに源泉と同じ魔力が流れているのがわかる。
「まぁ枝葉は無視していいか。元を辿ろう。フォルテ、あの太い流れに沿って飛んでくれ。アルフ、足元に注意して行くぞ。獣道すらない場所だ。何があるかわからん」
「キュイ!」
「わかった」
それぞれの返事を受けて先へと進む。
山肌は基本的に斜面となっている。
しかもこの山は大木が少なく低木が多い。地面にはひょろっとした草が生えていて、そのいくつかは鋭い葉を持ち、うかつに握ると手を切り裂く性質を持っている。
尤も、俺もアルフも手袋をしているのでその辺りはあまり影響はない。
藪となる低木の多くはトゲを持っているが、その代りと言ってはなんだが、きれいな花をつける。
花には美しい羽を持つ虫たちが飛び交い、意外とこの山が生命に溢れていることを感じさせた。
「耳茸がいっぱいあるな。ありがたい」
俺は進行方向にある分だけ手早く耳茸を採取する。
キノコ類は猛毒のあるものもあり、野外で採取するのをためらうものだが、似た外見のものに毒のあるものがないキノコもある。この耳茸などはその代表格だろう。
食べるとコリコリとした食感があり、香りもいい。
スープの具材として優秀なキノコだ。
「師匠、それ美味いのか?」
「美味いぞ。こういった人のいない場所で長期間調査をする場合には、あまり味のあるものを口にしなくなる。そうするとな、不思議なことに感覚が鈍くなるんだ。だからたまには味のあるものを食って感覚を取り戻す必要がある。そういうときのための食材は現地で採取出来るものが一番いいんだ」
「なるほど」
勇者が真剣にうなずく。
「だからと言って毒のあるものは絶対に口にするな。毒がある疑いのあるものもだ。魔物の肉など言語道断だからな」
「師匠しつこい」
「お前にはしつこいぐらいでいいんだよ」
そんなことを言っている間に、フォルテが何かを発見したらしく鋭い警告の声を上げた。
同時に俺も前方から凄い勢いで強い魔力の持ち主が迫って来るのを察知する。
魔物か? 人間ほどの大きさだ。いや、これは人間か?
「アルフ!」
瞬間、勇者の詠唱を中断させた。
いきなり何かでかいの撃とうとしただろ? 魔力が急激に体内に圧縮されるから冷や汗が出たぞ。
俺の指示に従って勇者は動き出そうとしていたのをピタリと止めて、相手がやって来る先を見つめる。
「どなたでしょうか?」
相手は俺たちのかなり手前、低木の影で足を止めた。
向こうもこちらを探っている感じがある。
「こっちは危険だ。近寄るな」
低い、男の声だ。言葉が硬い。大公国なまりか?
「我らは依頼を受けての調査だ。そちらに相当の権限がない限り、仕事を続行する」
「愚かな、権限の話などではないわ! 危険を警告してやっておるのだ!」
「話にならん。それはお前が危険ということか? それなら盗賊のたぐいとして討伐してやろうか?」
相手の居丈高な物言いに、勇者がさらに挑戦的に言い放った。
こいつら……。
「ならばその身で思い知れ!」
マズい、相手も頭の悪い剣で語るタイプだ。
「死して後、後悔しろ!」
「やめろ! 殺すんじゃない!」
勇者よ、面倒だからとりあえず排除する考え方はやめろ。
ぶわっと風と魔力が巻き起こる。
バカ共が始めやがった。
キィン! と鋭い金属の音がやや遠くの前方で聞こえたと思ったら、今度は右の低木が二本ほど宙を舞っている。
勇者は当然だが、相手もかなりの使い手か。
俺は思いっきり息を吸い込むと、肺のなかに魔力を同時に溜める。
そして喉と口を強化した。
「いい加減にしろっ!」
空気が一瞬たわむほどの素の魔力の放出。
大声の後に脳を揺さぶる木霊が響く。
周辺の鳥が一斉に飛び立った。
動き回っていた二つの気配がぴたりと足を止めたのがわかる。
見ると、いつの間にか俺の正面に二人の男が向かい合っていた。
「ぬう、勇者、か?」
「貴様、ディスタスの特権騎士か?」
お互いの背負った紋章を見て、相手が何者か認識したらしい。
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後悔したところでもう遅い。
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