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第三章 神と魔と
189 施し
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鍛錬は次の日からということで、その日は全員がゆっくり休養を取ることにした。
しばらくしてカランカランという控えめな鐘の音が響き、部屋の外に近づいて来る。
「施しが始まります。入り口のホールにおいでください」
何度が同じことを言いつつ、また遠ざかって行った。
「食事か、行ってみるか」
扉もカギもない部屋なので、荷物はそのままに出来ない。俺が荷物を背負おうとすると、聖女がにこりと笑って俺の手を止めた。
「大丈夫です」
聖女は全員の荷物を集めたところに上に簡単にマントを被せる。
そしてそのマントに片手で触れて、残った片手を神璽に置いた。
「隠して」
小さな呟きと共に、荷物が消え失せた。
いや、触れるとそこにあることがわかる。
透明化したのだろう。
「便利だな」
「祝福の家の応用」
少し得意げに胸を張った。
聖女さまは大変お可愛らしいな。
俺が感心していると、メルリルがその様子を見て微笑んでいるのに気づく。
「二人でいろいろ試してみたんです」
「ほう」
「魔法とメッセリの力とで何が出来て何が出来ないかを調べようと思って」
「素晴らしいな」
なるほど、魔法で出来ることと精霊で出来ることは似ているようで異なる。
一緒に行動するなかでお互いの役割分担を考えてのことだろう。
「師匠、早く行かないとなくなるぞ」
「ああ、いや、俺たちは一番最後に分けてもらおう。食料に困っている訳じゃないしな」
「しかしお二人は奉仕を終えたのですから、この施設の提供するものを受け取る権利がおありでしょう?」
勇者の言葉に答えた俺に、聖騎士が不思議そうに言った。
確かに権利としては正しいのだが、ここの運営が厳しいことを知った身からするとここに逗留している貧しい者たちを優先したい気持ちになってしまう。
「奉仕仕事は代表で行ったんだから全員の分だからな。あと、ここの施しを頼りに生活している人もいるようだし、そういう人から奪うのも勇者一行らしくないだろ?」
「そうだね。まぁ施しだけで生活している連中はそれはそれでどうかと思うけど、具合が悪いときには他人の助けが必要なものだし、ダスター師匠の言う通りにしていいんじゃないか?」
モンクが少々条件を付けながらも俺の言葉に賛同する。
甘やかしすぎるのはよくないが、助けが必要な人間もいると、厳しさと優しさを両方感じさせる考え方だ。
「俺はそれでいいぞ」
勇者があっさりと言う。
それに全員が同意して俺たちはゆっくりと入り口のホールに向かった。
そうして到着してみると、柱と屋根だけの入り口ホールは、今や人でごった返していた。
ただ、人数の割に混乱は起きてない。
「あ、お食事をされますか?」
俺たちを見つけた施設で働いているらしい少女が近づいて来る。
「十分量があるようならお願いしたい。もし足りないようなら自分たちの分でまかなう」
「ありがとうございます。量は問題ないと思いますよ。食べ物は近くの商人さんなどからの寄進と、教会からの援助、それに私たちが作っている畑の野菜などがあるので、それほど困窮していないのです」
「そうかありがとう」
年齢は勇者よりも少し下ぐらいだろうか? かなりしっかりとした子だ。
「これを持って行ってお食事と交換してください」
一人一人に番号の入った木札が渡される。
ホールの一画に衝立によって区切られた場所があり、その並べられた衝立の両端に馴染みの麻のローブを来た施設の人が立って何やら近寄って来る者たちに指示しているようだ。
片方の端から衝立の向こうに人が進んでいるので、入口を案内しているのかもしれない。
木札を持ってそこに近づくと、俺たちの持つ木札を確認して「こちらからどうぞ」と誘導してくれた。
最初の案内のときから思っていたが、この施設は人の誘導の仕方が洗練されているな。
衝立の向こうにはテーブルが並べられていて、その上に食事らしきものが大皿や鍋に山盛りとなっている。
顔と頭を布で覆った者たちが、それらの料理を取り分けているようだった。
「札を預かります。両手を前に出してください」
最初のテーブルの男性が木札を受け取り、差し出された両手を濡れた布で丁寧に拭う。
その後木の板を渡して来た。
「そのトレーの上に料理を乗せて行きますので、係の者に差し出してください」
「わかった」
俺の前には兄妹らしい子どもたちがいて、嬉しそうに板を掲げ持っている。
差し出した木の板に進むほどに次々と料理らしきものが乗せられて行き、最後に椀に入ったスープと平べったいパンが端っこに置かれた。
なかなかの量だ。
この量を毎日この人数に提供しているのでは、いくら寄進などがあっても大変そうだが、うまいこと回しているんだろうな。
食事を受け取った俺たちはそれなりの人数なのでどこで食べようかと開いている空間を探した。
通常の食堂や屋台と違ってここは椅子やテーブルなどはないので、誰もが適当に座って食べているようだ。
と、さきほど前に並んでいた子どもたちがこちらを見上げて肘で小突いて来る。
「おっちゃんたち初めて?」
「あ、ああ」
「こっちこっち」
なにやら案内してくれるらしい。
座って食事をしている人たちの間を抜けて、ホールの奥へと向かう。
「足元気をつけてね」
小さい女の子がそう言って短い階段を下りた。
どこへ行くのかと思っていたら、小さな庭のような場所に出た。
そこには女子どもが多く集まって食事をしているようだった。
みんな一生懸命食べているので、俺たちを気にする様子はない。
「ここで食べよ?」
「ああ、ありがとう」
なんで一緒に食べることになっているのかはわからないが、俺たちはその兄妹と共に草地に座って食事をすることにした。
しばらくしてカランカランという控えめな鐘の音が響き、部屋の外に近づいて来る。
「施しが始まります。入り口のホールにおいでください」
何度が同じことを言いつつ、また遠ざかって行った。
「食事か、行ってみるか」
扉もカギもない部屋なので、荷物はそのままに出来ない。俺が荷物を背負おうとすると、聖女がにこりと笑って俺の手を止めた。
「大丈夫です」
聖女は全員の荷物を集めたところに上に簡単にマントを被せる。
そしてそのマントに片手で触れて、残った片手を神璽に置いた。
「隠して」
小さな呟きと共に、荷物が消え失せた。
いや、触れるとそこにあることがわかる。
透明化したのだろう。
「便利だな」
「祝福の家の応用」
少し得意げに胸を張った。
聖女さまは大変お可愛らしいな。
俺が感心していると、メルリルがその様子を見て微笑んでいるのに気づく。
「二人でいろいろ試してみたんです」
「ほう」
「魔法とメッセリの力とで何が出来て何が出来ないかを調べようと思って」
「素晴らしいな」
なるほど、魔法で出来ることと精霊で出来ることは似ているようで異なる。
一緒に行動するなかでお互いの役割分担を考えてのことだろう。
「師匠、早く行かないとなくなるぞ」
「ああ、いや、俺たちは一番最後に分けてもらおう。食料に困っている訳じゃないしな」
「しかしお二人は奉仕を終えたのですから、この施設の提供するものを受け取る権利がおありでしょう?」
勇者の言葉に答えた俺に、聖騎士が不思議そうに言った。
確かに権利としては正しいのだが、ここの運営が厳しいことを知った身からするとここに逗留している貧しい者たちを優先したい気持ちになってしまう。
「奉仕仕事は代表で行ったんだから全員の分だからな。あと、ここの施しを頼りに生活している人もいるようだし、そういう人から奪うのも勇者一行らしくないだろ?」
「そうだね。まぁ施しだけで生活している連中はそれはそれでどうかと思うけど、具合が悪いときには他人の助けが必要なものだし、ダスター師匠の言う通りにしていいんじゃないか?」
モンクが少々条件を付けながらも俺の言葉に賛同する。
甘やかしすぎるのはよくないが、助けが必要な人間もいると、厳しさと優しさを両方感じさせる考え方だ。
「俺はそれでいいぞ」
勇者があっさりと言う。
それに全員が同意して俺たちはゆっくりと入り口のホールに向かった。
そうして到着してみると、柱と屋根だけの入り口ホールは、今や人でごった返していた。
ただ、人数の割に混乱は起きてない。
「あ、お食事をされますか?」
俺たちを見つけた施設で働いているらしい少女が近づいて来る。
「十分量があるようならお願いしたい。もし足りないようなら自分たちの分でまかなう」
「ありがとうございます。量は問題ないと思いますよ。食べ物は近くの商人さんなどからの寄進と、教会からの援助、それに私たちが作っている畑の野菜などがあるので、それほど困窮していないのです」
「そうかありがとう」
年齢は勇者よりも少し下ぐらいだろうか? かなりしっかりとした子だ。
「これを持って行ってお食事と交換してください」
一人一人に番号の入った木札が渡される。
ホールの一画に衝立によって区切られた場所があり、その並べられた衝立の両端に馴染みの麻のローブを来た施設の人が立って何やら近寄って来る者たちに指示しているようだ。
片方の端から衝立の向こうに人が進んでいるので、入口を案内しているのかもしれない。
木札を持ってそこに近づくと、俺たちの持つ木札を確認して「こちらからどうぞ」と誘導してくれた。
最初の案内のときから思っていたが、この施設は人の誘導の仕方が洗練されているな。
衝立の向こうにはテーブルが並べられていて、その上に食事らしきものが大皿や鍋に山盛りとなっている。
顔と頭を布で覆った者たちが、それらの料理を取り分けているようだった。
「札を預かります。両手を前に出してください」
最初のテーブルの男性が木札を受け取り、差し出された両手を濡れた布で丁寧に拭う。
その後木の板を渡して来た。
「そのトレーの上に料理を乗せて行きますので、係の者に差し出してください」
「わかった」
俺の前には兄妹らしい子どもたちがいて、嬉しそうに板を掲げ持っている。
差し出した木の板に進むほどに次々と料理らしきものが乗せられて行き、最後に椀に入ったスープと平べったいパンが端っこに置かれた。
なかなかの量だ。
この量を毎日この人数に提供しているのでは、いくら寄進などがあっても大変そうだが、うまいこと回しているんだろうな。
食事を受け取った俺たちはそれなりの人数なのでどこで食べようかと開いている空間を探した。
通常の食堂や屋台と違ってここは椅子やテーブルなどはないので、誰もが適当に座って食べているようだ。
と、さきほど前に並んでいた子どもたちがこちらを見上げて肘で小突いて来る。
「おっちゃんたち初めて?」
「あ、ああ」
「こっちこっち」
なにやら案内してくれるらしい。
座って食事をしている人たちの間を抜けて、ホールの奥へと向かう。
「足元気をつけてね」
小さい女の子がそう言って短い階段を下りた。
どこへ行くのかと思っていたら、小さな庭のような場所に出た。
そこには女子どもが多く集まって食事をしているようだった。
みんな一生懸命食べているので、俺たちを気にする様子はない。
「ここで食べよ?」
「ああ、ありがとう」
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