勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第八章 真なる聖剣

819 運が悪いのは誰?

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 俺は少し迷ったが、勇者に、緑のドラゴンと若葉の間で交わされた話を、全て説明した。
 それ以来、勇者はすっかり不機嫌だ。

 突然、若葉をむんずと捕まえると、海に叩き込むという行動に出たが、当の若葉にとっては遊んでもらっているようなものらしい。
 魚を咥えて戻って来た。
 同じことを何度か繰り返したので、甲板の上に、新鮮な魚や貝などが転がることとなり、船員達の求めによって、彼等に提供した。

 勇者の様子があまりにも怖いので、周囲にぐるりと円を描くように空間が出来ている。
 全くその怒りを感じていないのは、その怒りの原因であるであろう、若葉だけだ。

 その若葉だが、最初、細工物と思っていた存在が動いたことに、船員達も驚いたが、すぐに勇者の従魔であると勝手に納得した。
 俺とフォルテという先例があったせいだろう。
 そのことも、いたく勇者のプライドを傷つけているようだ。

 正直、何に怒りを感じているのか、ということがはっきりしない勇者だったが、俺の見るところ、若葉の伴侶であることを一方的に決めつけられたということが、一番の理由のようだ。
 自分の知らないところで、自分に関することが勝手に決められてしまうというのは、勇者にとって、耐え難い侮辱なのだろう。
 勇者に選ばれたときがそうであったように……。

 そんな悶々とした時間を過ごした勇者だったが、勇者の気分など気にすることなく事態は動く。

「船長! 囲まれてます!」

 緑のドラゴンが来た次の日の夕方だった。
 そろそろ、大聖堂の港目指して、岸側に舵を切ろうというときに、見張りがそれを発見した。
 この船の見張りは実に優秀である。

「なんだと! 所属の旗は?」

 勇者と聖女の前では、常にオドオドとしていた船長が、一癖も二癖もある船員を率いるボスの風格を纏って矢継ぎ早に指示を出した。

「へい! 黒旗でさ!」
「海賊のくそったれが!」

 どうやら、黒旗というのは、海賊の旗らしい。
 それを耳にした勇者が、勇者にあるまじき歪んだ笑いを浮かべた。

「おい、船長!」
「は、はいっ!」

 あ、船長がオドオドした状態になった。
 勇者よ、大事なときに邪魔しちゃいけないぞ。

「海賊はこれからどうすると思う?」
「へ、へい。数を頼りにうちの船を囲んでいるということは、威嚇して言うことを聞かせようってハラだと思われます」
「具体的に!」
「は、はいっ!」
「ちょ、アルフ。いくら虫の居所が悪いからって、船長に当たるな」

 俺はさすがに気の毒になって、たしなめる。

「当たってないぞ、必要なことを聞いているだけだ!」

 と、勇者。
 口を尖らせて、子どものような言い分である。
 だがまぁ何か考えがありそうなので、任せてみるか。

「あ、あの……」

 船長、オドオドしないでくれ、船員達が不安になるだろ。

「安心してください。勇者が必ずあなた方を守ると言っています」

 俺は、勇者が言ってもいないことを言っていると断言した。
 
「おおー!」

 途端に船長を始めとする船員達が安心した顔になる。
 勇者への信頼が篤い。
 なんだか悪いことをした気分になった。

「さすが師匠、何も言わなくても通じ合うんだな」

 あ、勇者の機嫌がちょっとよくなったぞ。
 別に俺はお前の意を汲んだ訳ではなく、船長を落ち着かせるために適当に言っただけだけどな。
 しかし、そう言うからには、船の人達に迷惑かけるなよ?

「それで、船長。これから奴等はどう出ると思う」
「へ、へい。見てくだせえ、囲んでいる船のなかに、うちの船と船べりの高さが合う船がいねえでしょ?」

 なるほど、周囲を囲んでいる船は今乗っている船の半分以下の大きさで、海面から船べりまでの高さが低い。

「数が多いとは言え、この場合、直接乗り込んで来るのは、かなり難しくて、相手の損害が大きいんでさ」
「なるほど」
「それでも、船を沈めるつもりなら、やりようはあるんですが、海賊にとっちゃ船を沈めても、何の得にもならねえ、沈め損って奴でさ。だが、沈めるぞと脅すことは出来る」
「ふむ。船長、お前なかなか出来る奴だな」
「ありがとうございます」

 こんな場合だが、ちょっとだけほんわかした空気が流れる。

「そ、それで、自分達の本拠地まで引っ張って行って、船も人間も積荷も丸ごといただこうってハラだと予想出来るんでさ」

 船長の説明は大変わかりやすかった。
 つまり、周囲を囲んでいるのは脅しで、今のところ戦うつもりはなく、自分達の本拠地に連れ込んでから一方的に制圧しようってことか。

「よし、船長。連中の招待に応じよう」
「へっ? いや、でも」
「もしこっちに乗り込んで来るようなら、問答無用で魚の餌にしてくれるが、そうでないならいい機会だ」
「えっ? どういう?」
「何をやってもケロッとして堪えることのない相手に怒りをぶつけるのも、いい加減バカバカしい。地上でも海上でも、俺達を苛立たせる存在が向こうから招待してくれるというんだ。喜んで、招かれて、全部ぶっ潰してやろう」
「さすが勇者。お供します」

 勇者の言葉に聖騎士がノリノリで応じる。
 二人共、神の代理人とその仲間がしてはいけない目つきになっているぞ?
 一度鏡を見たほうがいいかもな。
 今のお前らの顔を見たら、子どもが泣くぞ?
 なぁルフ。

 ルフを見ると、どこか諦めたような目で俺を見上げていた。

「ダスターさん。僕、わかりました」
「ん?」
「運命というのは決して平等ではなくて、勇者さまのような方には、波乱万丈の運命が授けられている、ということですね」
「まぁ、その、呪いのようなものかな?」

 俺の言葉に、ルフは泣きそうになる。
 あ、もっと言い方を選べばよかったかな。

「だ、大丈夫。むしろ海賊の心配をしてやらないといけないぐらいさ」
「奇遇ですね。僕もそう思ってました」

 うんまぁ、……ルフはほんと、賢いな。
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