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それも一つの戦いではあった
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「アッ……」
短い悲鳴じみた声が上がる。
それがどちらの声だったのか『彼』には既にわからない。
「んっ……」
ぬるりとした生ぬるい感触が歯列の間を這い回り、かつて感じたことのないぞくりとした感覚を呼び起こす。
「遅い……もっと……んんっ」
女の声だ。
少し前まではその声は冷淡な拒絶に満ちていた。
しかし今や、その女は、最初から彼を待ちわびていたかのように柔らかく受け入れようとしている。
周囲にはむせるような鉄の臭い。
目を転じれば、無念の想いにカッと目を見開いた命を失った顔が見えるだろう。
ほんの少し前までは、それは彼にとって大事なものであったはずだった。
「あっ……魔王よ……そなた、なにゆえ……」
女の赤い唇がニィと持ち上がる。
「わらわはサキュバスであるからに、強き男子の精を欲するのは本能のようなもの。ああ、愛しい勇者。さぁ、ためらわずに、我を貫いておくれ……」
サキュバスの魔王の手が勇者の手を導いて自らの胸に押し付ける。
ずぶりと、何の抵抗もないように沈み込む自らの指先の感触に、勇者はとろけるような心地よさを感じた。
それは思考の何もかもが、融けて消えて行く感覚だ。
「魔王よ、そなたなぜこのように柔らかいのだ? 悪しきものは硬く冷たいのが当然ではないか?」
「ふふっ、勇者さまは女を知らぬ。女はこのように柔らかいもの。どれほど強く、どれほど冷たかろうと、それが女の性なれば、男を柔らかく受け止めるのじゃよ」
「だめだ、勇者は清くなければならぬ。女に触れてはならんのだ」
彼は、いや、勇者は、それでも精一杯の抵抗を試みた。
剣や魔法を持って戦うのではなく、体を熱く火照らせる誘惑との戦いは、女を知らぬ勇者にとって未知の領域だった。
共に戦った者たちの亡骸の間近で敵である魔王と交わろうとしていることは、あまりにも絶望的で、嫌悪感に満ちていて、それゆえに抗えないほどに魅惑的でもあったのだ。
このままでは自分は堕ちることを勇者は感じ取っていた。
「そも、それが間違いなのです」
「間違いとはなんのことだ?」
「あなたさまはとっくに女と触れ合っている。乳房に吸い付き、夢中で味わったはず」
勇者は一瞬、魔王が何を言っているのか理解出来なかったが、それが乳飲み子の頃の話だとすぐに悟った。
「それは清らかな慈愛の行為ぞ、このような淫猥な行為とは違う」
「ふふっ、おかしなことを。確かにそれが母のものならば母と子の自然な営みであると言えましょうぞ。しかし、あなたさまの吸ったのは、子を成したばかりの平民の娘の乳房ではありませぬか」
「乳母をいやらしい者のように言うな!」
「そう、乳母に選ばれたのはその娘の咎ではない。しかしあなたさまやあなたさまの父君や、兄君が彼女の乳房にむしゃぶりついたのはあなたさま方の咎ではありませぬか?」
「なんだと?」
「ほほ、知らぬはあなたさまばかり。この世は堕落に満ちて、穢れ切っているのじゃよ。そなたも知っておろう、神に仕えるものですら、罪なきものを自らの欲望で汚すことを」
魔王の言葉に勇者は顔を歪ませた。
それこそは彼の幼い心にトゲのように刺さった出来事。
出来れば夢であったと自分を騙しておきたかった世界への不信の芽であったのだ。
短い悲鳴じみた声が上がる。
それがどちらの声だったのか『彼』には既にわからない。
「んっ……」
ぬるりとした生ぬるい感触が歯列の間を這い回り、かつて感じたことのないぞくりとした感覚を呼び起こす。
「遅い……もっと……んんっ」
女の声だ。
少し前まではその声は冷淡な拒絶に満ちていた。
しかし今や、その女は、最初から彼を待ちわびていたかのように柔らかく受け入れようとしている。
周囲にはむせるような鉄の臭い。
目を転じれば、無念の想いにカッと目を見開いた命を失った顔が見えるだろう。
ほんの少し前までは、それは彼にとって大事なものであったはずだった。
「あっ……魔王よ……そなた、なにゆえ……」
女の赤い唇がニィと持ち上がる。
「わらわはサキュバスであるからに、強き男子の精を欲するのは本能のようなもの。ああ、愛しい勇者。さぁ、ためらわずに、我を貫いておくれ……」
サキュバスの魔王の手が勇者の手を導いて自らの胸に押し付ける。
ずぶりと、何の抵抗もないように沈み込む自らの指先の感触に、勇者はとろけるような心地よさを感じた。
それは思考の何もかもが、融けて消えて行く感覚だ。
「魔王よ、そなたなぜこのように柔らかいのだ? 悪しきものは硬く冷たいのが当然ではないか?」
「ふふっ、勇者さまは女を知らぬ。女はこのように柔らかいもの。どれほど強く、どれほど冷たかろうと、それが女の性なれば、男を柔らかく受け止めるのじゃよ」
「だめだ、勇者は清くなければならぬ。女に触れてはならんのだ」
彼は、いや、勇者は、それでも精一杯の抵抗を試みた。
剣や魔法を持って戦うのではなく、体を熱く火照らせる誘惑との戦いは、女を知らぬ勇者にとって未知の領域だった。
共に戦った者たちの亡骸の間近で敵である魔王と交わろうとしていることは、あまりにも絶望的で、嫌悪感に満ちていて、それゆえに抗えないほどに魅惑的でもあったのだ。
このままでは自分は堕ちることを勇者は感じ取っていた。
「そも、それが間違いなのです」
「間違いとはなんのことだ?」
「あなたさまはとっくに女と触れ合っている。乳房に吸い付き、夢中で味わったはず」
勇者は一瞬、魔王が何を言っているのか理解出来なかったが、それが乳飲み子の頃の話だとすぐに悟った。
「それは清らかな慈愛の行為ぞ、このような淫猥な行為とは違う」
「ふふっ、おかしなことを。確かにそれが母のものならば母と子の自然な営みであると言えましょうぞ。しかし、あなたさまの吸ったのは、子を成したばかりの平民の娘の乳房ではありませぬか」
「乳母をいやらしい者のように言うな!」
「そう、乳母に選ばれたのはその娘の咎ではない。しかしあなたさまやあなたさまの父君や、兄君が彼女の乳房にむしゃぶりついたのはあなたさま方の咎ではありませぬか?」
「なんだと?」
「ほほ、知らぬはあなたさまばかり。この世は堕落に満ちて、穢れ切っているのじゃよ。そなたも知っておろう、神に仕えるものですら、罪なきものを自らの欲望で汚すことを」
魔王の言葉に勇者は顔を歪ませた。
それこそは彼の幼い心にトゲのように刺さった出来事。
出来れば夢であったと自分を騙しておきたかった世界への不信の芽であったのだ。
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