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追放は突然に
「腹黒い女め! 貴様の顔など見たくもないわ! 貴様など生まれつきの悪役、そうだな、悪役令嬢とでも呼ぶのがお似合いだ!」
突然の断罪に、アレリは何がなんだかわからないまま、拘束され、牢に繋がれることとなった。
アレリは、この国の建国前から続くと言われている名家である、フローリシア伯爵家の娘だ。
ぬばたまの夜のごとき黒髪と、裡に星を抱く宝石のような緑の瞳を持つ美しい少女だった。
それだけではない。
アレリは、王家と、フローリシア家との古い盟約によって、将来は王太子の妻になることを約束された身でもあった。
しかし、今、アレリを牢に繋いだのは、誰あろう、その将来の夫であるはずの王太子その人である。
アレリの罪状は、王太子の心を奪った娘に対する嫉妬ゆえに、その娘に毒を盛ろうとして、王太子が誤ってその毒を飲んだというもの。
アレリにとっては全くの寝耳に水の話であり、理解の外の罪状であった。
そもそも、アレリは毒が入れられたというお茶会に招待すらされていなかったのだ。
嫌疑をかけること自体が無茶というものだが、実のところ、これは仕組まれたものらしい。
後に面会に来たアレリの父によると、彼女の罪を贖うために、古から続く盟約を破棄し、神の座と呼ばれる土地を接収するとの沙汰が下ったとのことだ。
「王太子には、幼い頃から将来を誓い会った令嬢がいらしてな。強い強制力を持つ盟約を破棄させるためにお前を嵌めたのだろう」
「フローリシアの家はどうなるのですか?」
「取り潰しは免れたが、爵位を落とし、貧しい領地に転封となった。まぁ贅沢をしなければ、暮らしていくのに不自由はあるまい」
「そんな……」
「どうせ王太子に入れ知恵をした奴が、我が一族の豊かな領地を欲したのだろうて。醜いものだ」
日頃は穏やかな父の、乱暴な物言いに、アレリは少し驚き、そして納得した。
単なる勘違いや、感情に任せた突発的な行動ではないのだ。
アレリの無罪が証明されることはないだろう。
「お前については、さすがに命までを奪うことは気が引けたのだろう。国外追放となった」
「そう……ですか」
自分の処罰を聞かされても、アレリには、何の感情も湧かなかった。
まるで、遠くから、誰か他人の物語を見ているような気持ちだったのだ。
「周囲の目があるゆえ、表立った支援は出来ない。だが、なんとか生きていくための最低限の資金は渡るようにしておく」
「無理は、なさらないでください」
「……無理ぐらいするさ。一人娘のためだからな。我が家には子どもはお前だけ。どうせ消えるだけの家なのだ。ここに来られるのもこれが最後。さらばだ。せめて、何処かで幸せを見つけてくれ」
「はい。長らくお育ていただき、ありがとうございました」
アレリの父は、一気に老けてしまったようだ。
去っていく丸まった背中を見つめながら、アレリは、事件が起こってから、初めての涙を流したのだった。
屈辱的な囚人の簡素な衣装を着せられ、頑丈な手枷を嵌められて、アレリは国境の外、どこの国のものでもない緩衝地の荒れ地に放逐された。
さすがに、放逐の際には手枷は外されたが、手首には手枷が擦れて出来た傷が赤く残っている。
アレリはふらふらと、数歩歩き、顔を覆ってうずくまった。
「どうして? 誰も私の意思を尋ねもしないの? なぜ王太子は、私に結婚したくないと言ってくださらなかったの? それとも私はただの言い訳で、我が家の土地を奪いたかっただけ? じゃあ、私の存在はなに?」
びゅうびゅうと風が吹き抜けて、まとめることもしていないアレリの黒髪をなぶって行く。
アレリは、押し寄せる絶望という感情を受け止めることが出来ないでした。
「ワフ……」
ふと、あたたかい存在が自分に身体を寄せたのを感じて、アレリは顔を上げる。
「まぁ。ルーン」
そこにいたのは、古くからアレリの家に仕えている狼の霊獣、ルーンだった。
背に、旅人が持つようなカバンを背負っている。
「まぁ、お父さまがお寄越しくださったのね。ありがとう」
アレリは、ルーンの背から荷物を下ろそうとしたが、なぜか拒まれた。
「え? 一緒に来てくれるの? でも、あなたの主はお父さまでしょう? まぁ、契約を解除してもらったの? なら、もう自由に生きられるじゃないの。……え? でも一緒に来るって? うん。私は嬉しいよ」
アレリは、昔からこの霊獣ルーンの言葉を理解することが出来た。
誰でも出来ることだと思っていたが、他の家族は誰も出来ないと言う。
ほかにも、ときどき不思議な声を聞くことがあり、災害や危険を、事前に知って、避けることもあった。
今はもう亡いアレリの祖母は、アレリは、先祖返りなのだろうと言っていた。
なんでも、その昔、アレリの一族は精霊種と呼ばれる人種で、自然の要となる土地を守っていたのだと言うのだ。
突然の断罪に、アレリは何がなんだかわからないまま、拘束され、牢に繋がれることとなった。
アレリは、この国の建国前から続くと言われている名家である、フローリシア伯爵家の娘だ。
ぬばたまの夜のごとき黒髪と、裡に星を抱く宝石のような緑の瞳を持つ美しい少女だった。
それだけではない。
アレリは、王家と、フローリシア家との古い盟約によって、将来は王太子の妻になることを約束された身でもあった。
しかし、今、アレリを牢に繋いだのは、誰あろう、その将来の夫であるはずの王太子その人である。
アレリの罪状は、王太子の心を奪った娘に対する嫉妬ゆえに、その娘に毒を盛ろうとして、王太子が誤ってその毒を飲んだというもの。
アレリにとっては全くの寝耳に水の話であり、理解の外の罪状であった。
そもそも、アレリは毒が入れられたというお茶会に招待すらされていなかったのだ。
嫌疑をかけること自体が無茶というものだが、実のところ、これは仕組まれたものらしい。
後に面会に来たアレリの父によると、彼女の罪を贖うために、古から続く盟約を破棄し、神の座と呼ばれる土地を接収するとの沙汰が下ったとのことだ。
「王太子には、幼い頃から将来を誓い会った令嬢がいらしてな。強い強制力を持つ盟約を破棄させるためにお前を嵌めたのだろう」
「フローリシアの家はどうなるのですか?」
「取り潰しは免れたが、爵位を落とし、貧しい領地に転封となった。まぁ贅沢をしなければ、暮らしていくのに不自由はあるまい」
「そんな……」
「どうせ王太子に入れ知恵をした奴が、我が一族の豊かな領地を欲したのだろうて。醜いものだ」
日頃は穏やかな父の、乱暴な物言いに、アレリは少し驚き、そして納得した。
単なる勘違いや、感情に任せた突発的な行動ではないのだ。
アレリの無罪が証明されることはないだろう。
「お前については、さすがに命までを奪うことは気が引けたのだろう。国外追放となった」
「そう……ですか」
自分の処罰を聞かされても、アレリには、何の感情も湧かなかった。
まるで、遠くから、誰か他人の物語を見ているような気持ちだったのだ。
「周囲の目があるゆえ、表立った支援は出来ない。だが、なんとか生きていくための最低限の資金は渡るようにしておく」
「無理は、なさらないでください」
「……無理ぐらいするさ。一人娘のためだからな。我が家には子どもはお前だけ。どうせ消えるだけの家なのだ。ここに来られるのもこれが最後。さらばだ。せめて、何処かで幸せを見つけてくれ」
「はい。長らくお育ていただき、ありがとうございました」
アレリの父は、一気に老けてしまったようだ。
去っていく丸まった背中を見つめながら、アレリは、事件が起こってから、初めての涙を流したのだった。
屈辱的な囚人の簡素な衣装を着せられ、頑丈な手枷を嵌められて、アレリは国境の外、どこの国のものでもない緩衝地の荒れ地に放逐された。
さすがに、放逐の際には手枷は外されたが、手首には手枷が擦れて出来た傷が赤く残っている。
アレリはふらふらと、数歩歩き、顔を覆ってうずくまった。
「どうして? 誰も私の意思を尋ねもしないの? なぜ王太子は、私に結婚したくないと言ってくださらなかったの? それとも私はただの言い訳で、我が家の土地を奪いたかっただけ? じゃあ、私の存在はなに?」
びゅうびゅうと風が吹き抜けて、まとめることもしていないアレリの黒髪をなぶって行く。
アレリは、押し寄せる絶望という感情を受け止めることが出来ないでした。
「ワフ……」
ふと、あたたかい存在が自分に身体を寄せたのを感じて、アレリは顔を上げる。
「まぁ。ルーン」
そこにいたのは、古くからアレリの家に仕えている狼の霊獣、ルーンだった。
背に、旅人が持つようなカバンを背負っている。
「まぁ、お父さまがお寄越しくださったのね。ありがとう」
アレリは、ルーンの背から荷物を下ろそうとしたが、なぜか拒まれた。
「え? 一緒に来てくれるの? でも、あなたの主はお父さまでしょう? まぁ、契約を解除してもらったの? なら、もう自由に生きられるじゃないの。……え? でも一緒に来るって? うん。私は嬉しいよ」
アレリは、昔からこの霊獣ルーンの言葉を理解することが出来た。
誰でも出来ることだと思っていたが、他の家族は誰も出来ないと言う。
ほかにも、ときどき不思議な声を聞くことがあり、災害や危険を、事前に知って、避けることもあった。
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