ゲームが現実と融合した!――そんなことより明日のご飯どうしよう?

蒼衣翼

文字の大きさ
10 / 35

初めての狩り

しおりを挟む
「とりあえず腕輪は物理組のどっちかに装備してもらおうか」

 部長がそう言った。

「俺はパス。村上さんがつければいいよ。男がその腕輪キッツイっしょ」

 アキラは早々に腕輪の権利を放棄した。
 ゲームのなかでなら腕輪装備も別におかしくはないが、現実となると装飾性のあるアクセサリーを身につけるのは男子には厳しい。

「わかった、私がつけるね」

 村上幸子は部長から腕輪を受け取ると、右腕に通す。

「あ……」
「どした?」
「この腕輪、サイズ調整してくれるっぽい」

 幸子が思わず上げた声に、アキラが問いかけると、そんな答えが返って来る。

「なるほど。小さく見えても誰でも装備出来るということか。その辺はゲーム準拠なんだな」
「ってことは。もしかするとその装備って存在しているように見えるけど、モンスターと同じで実体はないのかも?」

 部長の感心したような声に、副部長がそう応じた。
 副部長の言葉に全員が首を傾げる。

「どういうこと?」

 アキラは詳しい説明を求めた。

「モンスターは死体が残らないし、物理攻撃が通じない。ということはそもそも実体がないということだ。つまりいきなりこの世界に蔓延した魔法によって存在している魔法生物のようなものと仮定することが出来る」
「おお、なるほど」

 副部長の推測に、アキラは感心したようにうなずく。

「だから金属っぽいのにサイズ調整が出来るという腕輪も同じじゃないかと考えたんだ」
「ええっと、モンスターが魔法生物なら、装備品は魔法物質ってとこかな?」

 副部長の説明に、ゆえりがそう補足した。

「いいねー、魔法生物に魔法物質。検証掲示板に書き込んじゃえ」

 アキラはさっそくスコープグラスからネットに接続すると今の世界を検証している掲示板にその情報を書き込む。

「素早い」
「さすが検証オタ。他人より先んじないと嫌なのね」

 部長と幸子がツッコむが、アキラは気にせずニコニコしていた。
 少し停滞気味だった掲示板が盛り上がったのがうれしいのだ。
 さらに今から狩りだと書き込むと、新情報を期待するレスも貰った。

「よっし、じゃあ狩りに行こうか。って言っても俺は戦力外だがな!」

 なんとなく胸を張ってそう言うアキラに全員が笑った。

「さて、それでは狩りについてだが。この駅前広場に集まってもらったのは、見晴らしのよさと上空から見通しが悪いという二つの点を考慮してだ。モンスターからの不意打ちを極力減らせるので、狩りの拠点として使えると思った。それにいざというときに駅構内のトイレなどに逃げ込めば、少なくとも多数といっぺんに戦わずに済むし、大型のモンスターは入って来られない。ついでに言うと、公共施設はセーフティゾーンになっている可能性にも賭けた」
「あ、それは検証したいね。セーフティゾーン」

 部長の話にアキラが相槌を打った。
 セーフティゾーンとは、モンスターが出ない戦闘不可領域のことだ。
 ゲームでは街中などがセーフティゾーンとなっていた。
 部長もアキラの言葉にうなずく。

「とりあえず危険は極力避けるが、危険を避けていては狩りにならないという二律背反アンビバレンツもある。悩ましいな!」

 くぅーっと身悶えする部長を部員たちが冷たい目で見ていた。
 いつものことなのだ。

「釣り役、俺でいいか? 戦いは出来ないけど、釣りは出来ると思う」
「さっき、偶発的にそうなったしね」
「うっせ」

 アキラの言葉にゆえりがツッコむ。
 釣り役とはゲームにおいて、戦うのにちょうどいいモンスターを、自分たちに有利な場所に引っ張って来る囮役のことだ。
 スニーキングスキルと素早さを持つ軽業師のアキラはその点優秀な釣り役と言えた。
 アキラはぐるっと公園の周囲を見渡す。
 気配を感じるというと何か大げさだが、ゲームのときにモンスターが多く出没する場所の特徴のようなものがあり、そういった場所に似た条件を満たしているところをアキラは探した。

「あの花壇の辺り、イモがいるかも。行って来る。……スニーク」
「お、アキラの姿がよく見えなくなった」
「スニークすごい!」

 仲間たちが騒いでいるところをみると、スニーキングスキルは人間にも効果があるようだ。
 そんなことを頭の片隅で考えながら、アキラはスルスルと花壇に近づく。

「ビンゴ」

 思った通りそこにグリーンキャタピラーを見つけて、アキラは密かにガッツポーズを取る。
 
「攻撃が通じないってことはヘイトが上がらないってことだよな。まぁ気づいてくれれば襲っては来るだろうけど」

 アキラは花壇の花をムシャムシャしている緑イモ野郎に、背後から不意打ちを仕掛けた。
 その辺で拾った木の枝での思いっきりの一閃。
 しかしグリーンキャタピラーにぶつかったはずの一撃は、全く手応えがなかった。
 とはいえ、当のグリーンキャタピラーには何か感じるところがあったらしく、背後を振り向く。
 一瞬のお見合い。
 アキラはすぐに踵を返すと、仲間たちの元へと走る。
 背後を振り返ると、グリーンキャタピラーはのろまそうな外見を裏切って、それなりのスピードで追って来ていた。

「よしよし、ちゃんとついて来いよ」

 アキラは誘導経路上に障害物のないルートを選び、適切な距離を保ちながらモンスターを誘導した。
 時折頭上を確認することも忘れない。
 モンスターを釣るときに最も気をつけなければならないのは、狙ったもの以外のモンスターを巻き込むことである。
 パーティでの狩りにおいては、適切なモンスターのレベルと数があり、特に数が多いと事故が起こりやすい。
 単体を多数で倒すのがセオリーだ。

「敵影なし、よっしゃ狩場到着!」
「ニードルドロップ!」

 仲間たちのほうへとアキラが駆け込むと同時に、ゆえりの声が響き、グリーンキャタピラーに細い針のような雨が降り注ぐ。
 攻撃を受けたグリーンキャタピラーは、ギュッと体を縮めるように立ち止まる。

「飛びかかりが来るぞ!」
「エアリアルバッシュ!」

 アキラの叫びを聞いて、タイミングを合わせて部長が技を放つ。
 空気を盾にすると同時に攻撃技でもある魔法防御である。
 見えない盾に弾かれたグリーンキャタピラーは、ガラスの砕ける音を立てて消滅した。

「おー、やったな!」
「初戦勝利オメ!」

 全員で拳をぶつけ合う。
 そしてアキラは次の獲物を探して再びスニークを発動した。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...