彼女は何一つ言わずに死んだ。

忘憶却

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何の為にと言われればきっと今も答えられないだろう。

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 彼女の問いは結局のところ、「何のために生きているのか。」だった。当時、彼女が話し続け私はずっと聞いていると言うのがいつものことだった。今まで興味のなかった話、草木や花や鳥や魚といった生き物、星や月、星座。ああ、どんな話をしていたのか、曖昧にしか覚えていない。
 案外忘れてしまうのものだと我ながら思う。どんな顔をしていたのか、どんな声をしていたのかも今では記憶の中で一致しているのかも怪しいと思えてくる。
 大切な存在には思っていなかったのかもしれない。
 でも、そう言った話をしながら、最終的には私に問いかけてくる。

 例えば、こういう問いだった。
「個人としての存在は消えてゆき、大衆には概念だけが残ってゆく。」
 私たちの存在は消えてゆく。世界に残るものはほとんどの人の場合、これといって無い。いや、太古から今まで残り続けた物たちも、これから存在し続ける保証はない。だが、多くの人の思いのもと、今日まで形のないものは作り上げられ、残されていった。あるいは、別の形のないもののために消えていった。
「そんな世界に何を望む。」

 人が滅べばそれもまた何事もなかったかのように消えていく。後には、何も残らないかもしれない自由。そこまで問われれば、きっと今の私にも答えられない。
 となると、現状答えはこうなるわけで。「そんな未来のことなど、今を生きる個人が集団が何かをできるわけがない。自分たちにできることは、未来が少しでも良くなるように動くことで、あとはその先の人たちがやることだ。」

 自分ができることをして、その残った物を今を生きる子どもたちに遺す。
 これが、今の進みたい道だ。彼女と望んだ未来、厳密に言えば彼女が望んだ未来を見たいだけなのだが、後をついていくのではなく、自ら実践しろということだろう。
 ああ、実に長い道だ。久しぶり自分進む道を、顔を上げて見た。道と言っても、はるか先の目的地がうっすらと見えるかというところだ。きっと迷い、間違え、進めなくなり、人生が終わる前にたどり着くこともないかもしれない。
 それでも、この道で死ぬのだ。死にたいと、あと、60年、70年の心中も悪くないと歩み始めた。
 また、会えるならばその時に話そうと思った。

 私の道は、誰かに残せるようにするのだろう。未来に、これからを生きる人のために。

 思い出す度に悲しみは、いまだに襲う。彼女の発する言葉に含まれるものはいつも難しいというのもあるのだろう。一つ一つ自分なりの答えを言うのに何年もかかる。
 やはり私にとって、今でも重たいものだ。
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