3 / 4
彼女の思いは傷痕のように深く痛みを呼び起こし、呪いのように永遠に私を苦しませる。
しおりを挟む
男は女にとって最初の男でありたがる、という言葉がある。特に、誰かと付き合う経験がないならそれを強く願うのかもしれない。
処女信仰というものを当時の私は持っていた。未だに私の中でも恋だとか愛だとかそんなものは輪郭が曖昧で空中に浮いたような存在だが、あの時の誰かと付き合う経験のなかった私からすれば、そんな人の外見や特性に固執する、くだらない考えに振り回されていたのだろう。
出会って何度目だろうか、帰り際に口付けをされた。私は、彼女が私に話す言葉の数々に希望を見出されていた。純粋な憧れの感情。それだけを持てればいいと思っていた。
師のような存在に突然、そのような感情を持っていたと思わせるような行為をされた時には何を思うのだろうか。
彼女のその行為に私は混乱した。どういう混乱だったのか、あの感情は何と表現すればいいのか分からない。不安は大きくなりながらも、どこか安堵している。表現力のない私にとってはこう言うしかない。ただ、彼女からは多くのものを与えられてばかりで、私の彼女のために何かをしたいと気持ちはあった。それが、彼女のその大切にする人へ向ける重要な行為によって、より強いものへと変わったのは確かだった。
世間一般の恋愛というものがどんなものかは分からないので、あれが付き合っていると言えるものかは未だに自信を持っていうことはできないが、私たちは彼女がひたすら話して、私は聞いているだけというそういう時間を過ごした。時々、何か重要な問いを突然投げかけてきたりもした。ほとんど答えることもできず、できたとしてもしょうもない答えだったと思う。そういう時間を幸せに感じていた。
彼女の赴くままに振り回されることを心地よくも感じていた。そして、私も彼女の要求に答えようと思った。
数度、彼女と交わることがあった。これも、彼女の求めるままにしたのだった。男としては情けない、不甲斐ないなどという印象をもたれても仕方がないが、そんなものはどうでもいい。こうして、ああしてと私に言いながら、慣れた様子で私を包んでいく。不安で仕方がなかった心が晴れ渡るような美しいものに触れた、そんな心地がした。
そんな中でも、時々ふっと思い出したかのように現れる、孤独な感情。人を求めるが故に現れる誰かを支配したい、誰かを自分のものにしたいという欲望。そんなものが次から次へと湧き出て行為として現れる。そして、その感情に飲み込まれそうになった時、彼女は、「大丈夫。私がいるから。」と言って抱きしめた。この人は、表面的な欲望の奥底にある、一人で寂しいという感情に気づいてくれる。ちゃんと見ていてくれる。そう思えた時、彼女がとても愛おしいものに感じた。今まであった、私の偏った考えはどうでもよくなった。それからは、純粋にお互いに求め合い与え合う、そういう行為となった。
まさか、あんな風に裏切られるとは思わなかったんだが。
相手の心を全て分かるなんてことはない。だから、全ては憶測であり、間違いなんてこともある。けれども、そこまで大切なものを私に与えるのだから、それなりの感情はあったのだろう。どこか儚げで、いつかは消えて無くなりそうな背中を支えたいと思っていた。まさか本当にいなくなるとも夢にも思わなかった。いや、見ないふりをしていたのかもしれない。そして、彼女は気付いて欲しかったのかもしれない。今更後悔してもどうしようもない。
何も伝えなかった。
それだけがやはり今も許せないことだ。自分にとって片割れの如き存在となった彼女を失うことが、どれほどのものか想像もつくだろう。
共に生きよう、共に死のう。
共に歩もう、共に支えよう。
などと思っていた自分は実に馬鹿らしかった。私の抱いた、共になどという願いを持ってはいなかった。
彼女は残りわずかな時間を自分の思いや願いが誰かにしっかりと傷痕のように、呪いのように残るようにしていた。この一点だった。はっきりと誰かが私をいつまでも忘れずにいて欲しい。そしてあわよくば、自身の願いをつなげて欲しい。そういうとても寂しがり屋な人だった。度が過ぎるわがままな人だった。分かっている、私を最利用していたことは。
分かったよ。君の願ったものがあるのかないのかこの人生を全て費やして探そう。そして、どうしても無理だったら誰かに託そう。明日死んでいたらごめんだけど。
あとひとつ、もう一度会えたならこのことについて文句を言わせてくれ。
あの時は全く受け入れられず、痛み故に自ら死んで解放されることもできず、それを恨み、憎むこともあった。だが、今となってはこんな感じで落ち着いている。
結構、衝撃的な出来事だったために、この先二度と誰かと付き合うことはできないのだろう。生涯の伴侶がこんな感じのやつだとか、実感のない大きな対価を支払ったような気分だ。
今日も記憶の中の彼女に文句を言いつつも、彼女の腕に包まれながら私は眠る。
全く、とんでもない代償だ。
処女信仰というものを当時の私は持っていた。未だに私の中でも恋だとか愛だとかそんなものは輪郭が曖昧で空中に浮いたような存在だが、あの時の誰かと付き合う経験のなかった私からすれば、そんな人の外見や特性に固執する、くだらない考えに振り回されていたのだろう。
出会って何度目だろうか、帰り際に口付けをされた。私は、彼女が私に話す言葉の数々に希望を見出されていた。純粋な憧れの感情。それだけを持てればいいと思っていた。
師のような存在に突然、そのような感情を持っていたと思わせるような行為をされた時には何を思うのだろうか。
彼女のその行為に私は混乱した。どういう混乱だったのか、あの感情は何と表現すればいいのか分からない。不安は大きくなりながらも、どこか安堵している。表現力のない私にとってはこう言うしかない。ただ、彼女からは多くのものを与えられてばかりで、私の彼女のために何かをしたいと気持ちはあった。それが、彼女のその大切にする人へ向ける重要な行為によって、より強いものへと変わったのは確かだった。
世間一般の恋愛というものがどんなものかは分からないので、あれが付き合っていると言えるものかは未だに自信を持っていうことはできないが、私たちは彼女がひたすら話して、私は聞いているだけというそういう時間を過ごした。時々、何か重要な問いを突然投げかけてきたりもした。ほとんど答えることもできず、できたとしてもしょうもない答えだったと思う。そういう時間を幸せに感じていた。
彼女の赴くままに振り回されることを心地よくも感じていた。そして、私も彼女の要求に答えようと思った。
数度、彼女と交わることがあった。これも、彼女の求めるままにしたのだった。男としては情けない、不甲斐ないなどという印象をもたれても仕方がないが、そんなものはどうでもいい。こうして、ああしてと私に言いながら、慣れた様子で私を包んでいく。不安で仕方がなかった心が晴れ渡るような美しいものに触れた、そんな心地がした。
そんな中でも、時々ふっと思い出したかのように現れる、孤独な感情。人を求めるが故に現れる誰かを支配したい、誰かを自分のものにしたいという欲望。そんなものが次から次へと湧き出て行為として現れる。そして、その感情に飲み込まれそうになった時、彼女は、「大丈夫。私がいるから。」と言って抱きしめた。この人は、表面的な欲望の奥底にある、一人で寂しいという感情に気づいてくれる。ちゃんと見ていてくれる。そう思えた時、彼女がとても愛おしいものに感じた。今まであった、私の偏った考えはどうでもよくなった。それからは、純粋にお互いに求め合い与え合う、そういう行為となった。
まさか、あんな風に裏切られるとは思わなかったんだが。
相手の心を全て分かるなんてことはない。だから、全ては憶測であり、間違いなんてこともある。けれども、そこまで大切なものを私に与えるのだから、それなりの感情はあったのだろう。どこか儚げで、いつかは消えて無くなりそうな背中を支えたいと思っていた。まさか本当にいなくなるとも夢にも思わなかった。いや、見ないふりをしていたのかもしれない。そして、彼女は気付いて欲しかったのかもしれない。今更後悔してもどうしようもない。
何も伝えなかった。
それだけがやはり今も許せないことだ。自分にとって片割れの如き存在となった彼女を失うことが、どれほどのものか想像もつくだろう。
共に生きよう、共に死のう。
共に歩もう、共に支えよう。
などと思っていた自分は実に馬鹿らしかった。私の抱いた、共になどという願いを持ってはいなかった。
彼女は残りわずかな時間を自分の思いや願いが誰かにしっかりと傷痕のように、呪いのように残るようにしていた。この一点だった。はっきりと誰かが私をいつまでも忘れずにいて欲しい。そしてあわよくば、自身の願いをつなげて欲しい。そういうとても寂しがり屋な人だった。度が過ぎるわがままな人だった。分かっている、私を最利用していたことは。
分かったよ。君の願ったものがあるのかないのかこの人生を全て費やして探そう。そして、どうしても無理だったら誰かに託そう。明日死んでいたらごめんだけど。
あとひとつ、もう一度会えたならこのことについて文句を言わせてくれ。
あの時は全く受け入れられず、痛み故に自ら死んで解放されることもできず、それを恨み、憎むこともあった。だが、今となってはこんな感じで落ち着いている。
結構、衝撃的な出来事だったために、この先二度と誰かと付き合うことはできないのだろう。生涯の伴侶がこんな感じのやつだとか、実感のない大きな対価を支払ったような気分だ。
今日も記憶の中の彼女に文句を言いつつも、彼女の腕に包まれながら私は眠る。
全く、とんでもない代償だ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる