チート願望者は異世界召還の夢を見るか?

扶桑かつみ

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第一部

108「勝利」

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 その後、ハルカさんがさらにオレにも治癒の魔法を施し、取りあえず一息つくことができた。
 しかし和んだ雰囲気も長くは続かなかった。
 調べようと動き始めたところで、瓦礫の下で粉みじんな筈のゴーレムのいた辺りが、突如振動を始めたからだ。

 全員に再び緊張が走り、まずはいったん後ろに後退しつつ、出来る限り戦闘態勢を整える。
 とはいえ、全力で戦闘できるのはボクっ娘一人だけ。
 そのボクっ娘は、肩に掛けていた大弓を取り矢をつがえる。

 けど、相手が頑丈なゴーレムだと、弓矢で太刀打ちできるのかというとかなり期待薄だ。
 その上、ハルカさんは魔法のを使いすぎで疲労が顔に出ていて、オレとアクセルさんは傷を塞いだけど身体の動きや体力が完全に戻っているわけではない。

 ゲームのように回復魔法一発で元気になれればと、ラチのないことを思ってしまう。

「あーっ、クソっ! 第三形態なんてゲームの中だけで十分なんだよ」

 オレの脳内妄想が、つい口に出てしまう。
 超焦りまくりな証拠だ。ボクっ娘ですら、冷や汗を浮かべてツッコム余裕がない。
 しかしゴーレムが復活という事はないらしく、ゴーレムの胸の辺りの岩がガタガタと揺れている。
 何かが出てこようとしているようだ。

「まだ倒しきれてなかったのかな?」

「分からない。けど、まだ魔導器はたぶんあの辺りだと思う。さっきゴーレム全体に薄く感じていた魔力を強く感じるわ」

「あちゃー、魔女の本体か。よしっ、魔力相殺でいいなら、さっきも言ったとっておきが1本あるから、出てきたらボクが一番魔力の大きいところを狙ってみるよ」

「無傷はレナだけだし頼める?」

「胸を叩いて請け負いたいところけど、ボクのは一点破壊系だから急所が一つじゃなかったら厳しいんだよね」

 ボクっ娘の言葉で、即座に作戦という程でもないものを組み上げる。

「じゃあ二段構えでいこう。まずはオレがツッコんで魔法の防御ごと魔女を叩き斬る。それでダメなら、レナが一番ヤバそうな一点破壊を頼む」

「りょーかい。でも、ボクをあんまりアテしないで、ショウが決めてね」

 そう言いつつも魔法の逸品らしい矢筒から、先ほどもチラッと見せた魔法の矢っぽいものを一本抜き出している。
 オレも負けてはいられない。最低でもヤツの力場を砕くのはオレの仕事だ、と思いつつ数歩前に出る。

「ショウの守りは私が。多分、一回、数秒なら防具と魔法でかなり耐えられるから、ちゃんと決めてね」

「ああ、ヤツの本体が動き出したら勝負だ。ヤツをゴーレムの中から引っ張り出せば何とかなるだろう」

「ええ」

「頼むねー」

「残念だがボクは戦力外だ。レナの防御に専念させてもらうよ」

 ジリジリと前に進むオレに、ハルカさんが並ぶ。
 アクセルさんは、大きな弓を構えるボクっ娘の前でガード姿勢に入っていく。
 ボクっ娘の弓矢も、何だか魔力を充填中らしく、どんどん光が増している。効果音すら聞こえてきそうだ。それに、オレの能力というものとは少し違う感じだ。

 そうして待ち構えていると、瓦礫の山からパラパラと破片が落ちる。
 そして来ると思った瞬間、瓦礫の中心部が弾け、魔力の奔流が瓦礫と同じく瓦礫となったゴーレムの隙間から吹き出す。
 さらにその奔流は、二つの鋭い先端部を形成する細長い竜巻を形成して、触手のように襲ってきた。
 まるで魔物のようだ。
 それ以前に、『魔女フレイア』はまだ滅びていなかった。

「チッ! しつこいヤツだ!」

「ホント! けど、向こうから、岩の中から出て来きてくれるみたいよ。もてるわね!」

「シズさんなら大歓迎だけどなっ!」

「へーっ、そうなんだ。ま、今は許してあげる」

 ハルカさんと減らず口を叩きつつも、オレは一身に魔力の奔流の中心部だけに意識を集中させ、魔女の本体が姿を現すのを待つことにした。
 なぜなら、先端が槍のように尖った魔力の奔流の一撃目は見当違いの場所に直撃していたからだ。

 どうやら、何らかの方法でちゃんとこっちの姿を認識なり確認をしなければならないらしい。
 だから本体が出てくる必要があるのだろう。
 ハルカさんも同じ考えらしく、一瞬交わした視線で互いの意志を確認しあう。

 だから、もとゴーレムの瓦礫が崩れ、黒い影がユラリと姿を見せる瞬間、オレ達は一気に駆けた。
 オレが攻撃、ハルカさんが防御。一人なら無理かもしれないが、二人ならという気持ちが二人の動きをシンクロさせ、寸分の狂いもなく瓦礫の中の魔女本体へと一気に肉薄する。

 穴から顔を出してオレ達を確認したと思われる魔女は、ここまでアクティブな行動を予測していなかったのか、寸前で放たれた魔力の塊の槍はどこか狙いが定まっていなかった。

 数本放たれた黒い槍のような魔力を束ねたトルネードは、一本がさっきまでオレの右足があった足下、一本がハルカさんの左脇すぐを通り抜ける。
 彼女の鎧が放つ魔力と激しくこすれ合う魔力の輝きが見られた筈だ。

 さらに二本は、オレたちが素早く移動していたので見当違いの所に投射された。
 そしてド本命らしい一本がオレの恐らく心臓あたりを捉えていたが、そこには一点集中した彼女の鉄壁の防壁があった。

 魔力と魔力が激しくぶつかり合う派手な煌めきが起きるが、オレはハルカさんを信じてその先を見据え、まずは左足を前にして軸に据え大きく愛剣を構える。

 その間も別の魔力の奔流がオレ達二人を襲い、二人とも身体の各所に小さな傷を作るが、もう遅い。

「うおおぉぉっ!」

 辛うじて人の姿を留める程度にまで原型を崩している魔女に、大上段から西洋剣術で最も強力な斬撃の型で振り下ろす。
 大上段から振り下ろす基本中の基本の技だけど、これで十分だった。
 なぜなら、オレ達は力場を割るのが役割だ。少し残念だけど、トドメは後ろで狙いを定めている筈のボクっ娘の仕事だからだ。

 そして魔力を込めたオレの一撃で、本来魔女を守るはずの強固な魔力の防御壁が、針で突かれたシャボン玉のように割れて瞬時に拡散していく。

 しかし次の瞬間、魔女の右手が少しだけ動いた。

 そこには、見た目が複雑な文様の入った漆黒のキューブを核とした15センチくらいの水晶玉が握られていた。
 中身がなければ占い師が使いそうな大きさだけど、恐らくこいつが『魔女フレイア』の実質的な本体だ。

 そして不意に不視線な動きをした右手は、上方から斜めに振り下ろされていくオレの剣の交差線上にあった。

(きっとシズさんが……)

 魔女本体の不自然な動きに対してふとに思った時には、剣先は水晶玉を一瞬半分にしたあと粉々に砕き、そのまま持っていた右手の半分を切り裂いていく。
 これでオレは一瞬無防備になるが、まだ続いている魔力の嵐に対して、ハルカさんの盾がオレを完全に守っていた。

 次の瞬間、「避けて!」という後ろからの鋭い声のすぐ後に、激しい光芒を放つほど魔力を帯びた矢が衝撃波と共に通り過ぎる。
 そしてオレとハルカさんが左右それぞれに飛んでそれを避けて着地する瞬間、水晶が命じた最後の攻撃命令を果たそうとしていた魔力で作られた魔女の体を、輝く矢が大砲の砲弾のように豪快に貫いた。

 確実に相手を捉えて貫いたと思える一撃だ。

 いまだ警戒を解かない四人の前で、魔女が断末魔の叫びのような魔力の軋みを産み出し、そしてその魔力の塊が一気に周囲にはじけて拡散する。

 それが『魔女フレイア』の最後だった。

 水晶が砕けた時点で勝負はついていたのかもしれないが、実に分かりやすい断末魔だ。

 魔女の体が拡散すると、空間の中の魔力の密度が急速に低下し、重苦しかった空気が一気に軽くなるのを感じる。
 これは魔法で天井に大きすぎる風穴を開けたのだけが原因ではない。
 思い返せば、あのときはまだ独特の重苦しさは無くなってはいなかったからだ。


(最後だけお約束な演出するんなら、他にももっとサービスしてくれればいいのにな)

 下らないことを思える程度に警戒を解いたオレは、ゆっくりとみんなの様子を見回した。
 ハルカさんは、小さな傷がそこかしこに出来ていたが、オレも似たようなものだった。

 アクセルさんは、文字通りレナの盾となったらしく、大きな盾はボコボコ、騎士らしい頑丈そうな鎧もそこかしこが吹き飛んだり、衣服が血でにじんでいたりする。
 後ろなので見えてなかったが、魔女からかなりの攻撃を受けていたみたいだ。

 最後に弓を射ったボクっ娘も、小さな傷がそこかしこに出来ていた。ただボクっ娘の場合は、基本的に軽装過ぎるのも原因だとオレは思う。

 そしてよく見ると、他の三人もそれぞれがそれぞれを見ている。そして全員の視線が、魔女の最後の痕跡があった場所に注がれる。
 もう月並みな言葉、お約束と笑われる言葉しか出てこない。

「滅んだのか?」

「恐らく」

「だよね。でもそれ死亡フラグっぽい」

「気配は完全に消えているわ」

 もうしばらく息を飲んで様子を見守るが、何の動きもない。
 強い魔力も、気配も感じられない。今度こそ終わったと思われた。
 倒したのだと言う実感が、ジワジワとこみ上げてくる。

 最初に歓声を上げたのは、やはりというかボクっ娘だった。

「いーっやったーーっ! コングラッチレーションズ!!」

 口笛を吹いたり、アクロバットしたりと忙しい。それを見て他の三人も笑いあう。
 ボクっ娘の、ゲームのアカペラの効果音につっこむ事も忘れない。

「いや、レベルアップは流石にないだろ」
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