チート願望者は異世界召還の夢を見るか?

扶桑かつみ

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第二部

185「二人の少女の選択(2)」

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「それじゃ。……レナ、好きです。オレとお付き合いしてください」

「はい」

 そう言うと、ポロポロと両目から涙をこぼし始める。
 そうして少しの間立ったまま泣いていたが、ここで抱きしめてあげたりするものだろうと思い、一歩踏み出すと慌てるように腕をゴシゴシとして涙を慌てるように拭いてしまう。

「ご、ごめんなさい。ううん、ありがとう。それと、今はこれ以上はいいの。多分だけど、ハルカさんとも話しただけなんでしょ」

「うん。告白の時は、ハルカさんの膝枕でレナが寝てたからな。それで、レナにも告白したことになるかなって茶化したら、めっちゃ怒られた」

「フフフっ、ハルカさんなら怒りそう」

 笑う彼女だけど愛想笑いではない。
 だから彼女もしくは彼女達は、解り合えているのだと思えた。

「それはもう。……それで、レナはいいんだな。オレが向こうでハルカさんと付き合った上で、レナとこっちでつき合うのは」

「うん。ハルカさんとはショウ君がいない時にちゃんと話して来たし、私も全部受け入れる覚悟はあると思う」

「本当か? ハルカさんには、気持ちを察しろって怒られたぞ」

「そ、そりゃ、何も思わないわけないよ。でもね、ショウ君があっちで私の知らない人と何かあるより、ハルカさんと一緒の方がずっといい」

「ハルカさんと同じ事を言うんだな。それも話し合った上?」

「ううん。私の素直な気持ち。そっか、ハルカさんも同じように思ってたんだ」

 少し嬉しそうに、そして少し悔しげに小さく呟く。
 しかしそれも一瞬で、すぐにも顔を切り替えるように真剣な眼差しがオレに向いてきた。

「これから、よろしくお願いします。でも、ショウ君の方が大変だね」

「オレ、端から見たらダメ男か下衆野郎だもんな」

「私達はそうは思わないよ」

「そっか、なら別にいいか」

「うん」

「何がいいんだ?」

 シズさんの声だ。もう話し終わったらしい。
 その後ろからは、妹が怪しげな視線を強烈に向けてきてる。

「今後の予定について話してただけですよ。なあ」

「うん。そ、それだけだよ、シズさん」

 とは言ったが、神社の片隅の人気の無いところで若い男女二人が話していたら、イチャついていたとしか思えないだろう。
 しかしここで妹は一人で帰るので、オレの人間関係について厳しい追及は回避できた。

 もっとも、夜にでもツッコミの一つでもあるのかと思ったが、夜に悠里の口から出てきたのはシズさんへの絶賛と賞賛と賛美の言葉だった。
 「ちょー」とか「マジ」とか「ヤバい」とかで言葉が飾られてなければ、ヤバいレベルだ。
 何しろ紹介しただけのオレにすら、「紹介してくれてありがとう」と感謝するほどだ。
 おかげで、オレと玲奈の事は眼中に無かったようだ。

 シズさんが同性にもモテるというのは、こっちもあっちも変わらないらしい。高校時代もさぞモテたことだろう。今度聞いておこう。

 その後、シズさんところで思ったより時間が経っていたので、バタバタとバイト先のファミレスへと赴く。
 週半ばとはいえ、3日空けたブランクをとり返さないといけない。と言っても、始めて2週間ほどのオレにできることは、まだ雑用がほとんどだ。

 もっとも、その日はタクミはバイトのシフトに入ってないので、会うこては出来なかった。
 それに合宿でも散々話はしてあるので、用もないのに顔を出しに来るようなこともなかった。
 おかげでそれなりに忙しいが何事もなくバイトも終え、疲れた体で気持ち良く就寝することができた。



 そして次に目覚めると、ハーケンでの4日目だ。
 昨日泊まった宿は、冒険者ギルドが手配してくれた普通の宿で、オレ達とマリアさん達のパーティ共同で部屋を男女1部屋ずつで2つ借りていた。
 どっちも男女混合パーティーで、人数的にほぼいい感じだからだ。
 だから同じ部屋には、ジョージさんとレンさんも寝ている。

 そして今日も、最近習慣になっている早起きをしてしまった。
 こっちでも昨日は大立回りで、かなりの怪我までして疲れていたが、目覚めは意外にスッキリだった。きっと、ハルカさんの魔法のお陰だ。
 けどまだ二人は爆睡してるので、起こさないように最低限の身づくろいだけして1階へと足を向ける。
 用を足すためと井戸水で顔を洗いたいからだ。

「水洗トイレなのは有難いけど、1階にしかないのは不便だな」

「そうだよねー」

 オレのつぶやきに合意したのは、女性用の出入り口から出てくるところだったボクっ娘だ。
 そう、この気配は間違いなくボクっ娘のものだ。口調がそうだからだというだけではない雰囲気を醸し出している。

 改めて気づかされるが、動きとか細かいところも随分違っている。別人格と言うより、確かに別人だ。
 『ダブル』という別々の世界にそれぞれ体があるという特殊な状態なので、二重人格というより二人の人間が入れ替わっているだけのようにしか思えない。

「おう。おはようレナ。いや、お帰りか」

「向こうで、もう一人の天沢さんと話してるんでしょ。だから、おはようでいいよ、ショウ」

「そっか。それもそうだな」

 そこで一つ気がかりがあるので、一応聞くべきだろう。

「なあレナ、向こうのレナとの事だけど」

「何かあったの?」

「あったの? じゃないだろ。全部見てたんだろ」

 そこで胸の前で両腕を組み、少し悩む風な仕草を取る。
 見え見えのパフォーマンスと思いきや、表情は意外に深刻そうだ。

「それがね、昨日は向こうを見れてないんだ。だから、もう一人の天沢さんとショウの間に何があったのか分からないだよ」

「えっ、マジで?」

「うん、大マジ。これが、取りあえずだろうけど、入れ替わりの結果なんだろうね。より大きな分離というか乖離が」

「本当にマジなんだな?」

「だから嘘じゃないって。だから、もう一人の天沢さんと思う存分エッチな事しても、ボクがデバガメする事は無いよ」

 真面目な表情が一転して悪戯っぽくなる。これにはいつもの返しをするしかなさそうだ。

「言うことがそれかよ。それはともかく、じゃあ、もう記憶とか感覚は共有できないのか」

「だろうね。そんな気がする。もう一人の天沢さんが成長しちゃったんだと思う。……なんだか、もう完全に分離というか別の人になった感じがするよ」

「そうなのか?」

「正直、まだよく分かんない。でも、なんとなく繋がってる感覚はまだ残ってるよ。前よりも随分薄い感覚だけどね」

「じゃあまだ別人格であって、別人ってわけじゃないんだな」

「だろうね。でも、なんにせよボクはボク、私は私だよ」

 吹っ切れたような表情と雰囲気なので、レナの中では解決しているんだろう。
 ならオレが言う事は何もない。

「そうだな。それで、ヴァイスのところか?」

「うん。ショウは漏れそうになったから起きたの?」

「いいや。最近、妙に早起きになっててな。もう普通に起きた」

「じーさんみたいだね」

「いやマジで、そんな気がしてきそうだよ。それで、向こうで過ごした感想は?」

 ボクっ娘は少し考えるように、天井辺りを少し見つめる。

「……もうちょっと文明の利器を能動的に実感したかったかなあ」

「そんなもんか」

「うん、ボクの世界はこっちだから。それで、一緒にヴァイスのところに行く?」

「二人のデート邪魔しちゃ悪いだろ」

「そう見える?」

「もう一人の天沢さんとは、ちょっと関係が違う感じ。あと、ヴァイスとお前がちょっと似てるなーって思った」

 その言葉に、へーっと感心したような言葉がボクっ娘から漏れる。

「実はボク、ヴァイスの人格が乗り移ったものなんだ、って言ったら信じる?」

「そんなファンタジー設定は嘘くさすぎ。レナはレナだよ。少なくともオレの中では」

「そっか。じゃ行ってくるね」

「おう。ヴァイスによろしくな」

「うん!」

 いつも通り、ボクっ娘は元気に走って行った。



第二部 了
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