イニス・ダナエの物語

楓屋ナギ

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ダナン

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 大陸の西の沖に小さな島がある。
 名は『イニス・ダナエ』。『女神ダヌの島』という意味である。
 この島は、くちばしを大陸の方に向け、翼を北の方角へと広げた鳥のような形をしている。
 穏やかな気候。起伏の少ないなだらかな地形。手つかずで残る太古からの森。大地には清らかな水が湧き、幾筋もの川が海に向かって流れている。小さいながらも風土に恵まれ、島には豊かな実りがあった。

 それほど遠くない昔、イニス・ダナエには五つの国があった。
 北からウィングロット、スウィンダン、ミース、コーンノート、アンセルス。
 どの国にも属さない小さな部族は数知れず。古来、部族間の抗争は絶えなかった。
 あるとき海の向こうの大国が、世界の端にある豊かな島に目をつけた。付け込む隙は多く、容易たやすく手に入りそうに見えた。だが勇猛で他に屈することをいさぎよしとしない住民の気質が他からの侵略を困難にした。
 島の内部でも、次第に海の向こうからの脅威が深刻な問題として論じられるようになった。
 それでもまだ、ひとつの国としてまとまるまでには長い時がかかった。
 小さな争いと大きな戦乱を経て、ようやく異なる部族の長が一同に会する機が訪れた。
 武装を全て解いて話し合いの場が設けられ、和解が成った。お互いに手を結び、大陸からの侵攻に備えることで決着がついた。島に生きる者たちをこれ以上疲弊ひへいさせてはならない。大陸に飲み込まれ、女神の民としての誇りを失うようなことがあってはならない。
 島の中央ミースを治める領主が島全体の王を兼ね、代表として大陸に対することになった。ダナンという国の誕生である。
 他の四つの国の王たちは『領主』のままではあったが、大陸風に『公』という称号で呼ばれるようになった。
 港を開き、大陸と交流しながら、ダナンは独自の道を歩み続けている。

 女神に愛された島。イニス・ダナエ。
 ここには今もなお、地母神ダヌを中心とする昔ながらの信仰が息づいている。大いなる自然に宿る神々と妖精たちが、人間の世界の裏側で生き生きと暮らしている。人ならぬものたちは、ときにひょっこり人の世に顔を出し、何食わぬ顔で人に交じわって生きている。
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