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虚空に呻く者
リュウ、登場
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ピーッ、、、ピーッ、、、
心地よい電子音の乱打。
続いて、カンッ!という衝撃音。
続けざまにドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!!というくぐもった重い打撃音が防壁扉の向こうから響く。
分厚く隔絶されたはずの空間にまで音が届くということは、相当な力で叩きつけている証拠だ。
研究員が青ざめる。
ユイチを伺う。
シンが眉だけをわずかに動かし、ユイチに目を向ける。
ユイチ・サイジョウは微動だにしない。
ただ、冷たい瞳で扉の方向に目線を投げただけだ。
フウッ、、、
シンが溜息をつき、パネルを操作する。
新たな画面が立ち上がり、憤怒の形相を浮かべたリュウが扉を拳で打ち、肩を叩きつける様子が映る。
その背後では、警備兵がウロウロしている。
何事か叫んでいるが、音声はミュートになっているためラボ内には聞こえない。
「どうします?」
「放っておけ」
シンの問いにユイチが短く答える。
しばらく画面を見たのち、再び、シンは口を開く。
「このまま外で騒がせておくと、このラボの注目が増してしまいます、、、」
「フンッ、、、煩わしい、、、いつかは対峙しなければならぬ相手か、、、」
ユイチはシンの横に立つとパネルに手を当てる。
“開けろォ!!ユイチ!!居るんだろっ!”
怒鳴り声がスピーカーから流れる。
ユイチは表情を変えずに、マイクに向かって言う。
「リュウ・アサクラ将校っ!あなたは“タケミカヅチ”所属部隊の責任者のはず。なぜ、関係のない“リュウジン”にいる。服務規定違反となるぞっ!」
“ユイチ、テメェか、、、しのごの言わずに、さっさと扉を開けろっ!”
「このラボは、極秘任務中だ”、滅多な人間は入れられん!」
“武官には見せられない極秘任務の遂行か?まさか、人体実験ではないだろうな?倫理局に、お前達が三界人道協約、トリスフェア・コーデックスに違反している疑義があると申し出るか?”
チッ!
舌打ちをしたユイチの顔に不快の色が浮かぶ。
三界人道協約《トリスフェア・コーデックス》、、、三文明が過去の残虐行為を反省し、捕虜の人体実験・改造・精神干渉を全面的に禁じた国際協約である。
名目上は「人道」を掲げるが、実際は互いの暴走を監視するための政治的妥協にすぎない。
形骸化している部分もあるが、正面から取り上げられれば、国際紛争につながる。
また、アマツ連邦の軍規違反にもなる。
これは、ユイチが所属する宇宙科学軍の極秘ミッションだ。
地球の高級僧将達は、“和”を尊ぶと標榜しつつ、互いの隙を窺っている。
おそらくトナティウカンに、“オモイカネ”の宿主を放ったのは科学軍の僧将達の独断だろう。
ここで、リュウを騒がせておくのは得策ではない、、、
ユイチは考える。
リュウが暴走して、頭の固い倫理局の僧将にこの事実を告げれば、おそらく科学軍の僧将は、ユイチをあっさりと切り捨てるはずだ。
ユイチの指がスライドする。
重い二重扉が開く。
リュウが飛び込んでくる。
「テメェッ、ナギをどうした?!まだ、“ツクモ”上に居るのか?」
そのナギが横たわる生体隔離筺室には視線を向けず、リュウはユイチの胸倉を掴まんばかりに詰め寄る。
ユイチは、無表情を保つ。
「立場を弁えろ。“リュウジン”を無断で離れたお前は、私情で軍務を放棄した。それは重罪となる」
「軍務? なんとでも言えっ!“タケミカヅチ”でオリュンポスと睨み合うのも軍務なら、大事な“アマツ連邦”の兵士の命が無碍に扱われるのを防ぐのも俺の軍務だ。それに、俺達がオリュンポスと交戦しているのは、“実験体”の収集ではないのか?それこそ、軍規違反だろうっ!ナギをどうした、、、ナギは無事か?」
怒声がラボ内に響きわたる。
シンがそっとパネルを操作する。
生体隔離筺室の透明だった強化ガラスが黒く変わる。
が、変わりきる一瞬、その瞬間、リュウの視界が強化ガラス越しの中央装置を捉える。
そこに、、、意識を失ったナギが横たわっている。
「ナギッ!」
悲痛な叫びを上げ、リュウが黒くなった強化ガラスに飛びつく。
「ナギッ!!ナギッ!!そこにいるのか?俺だ、、、リュウだ、、、」
バンバンと強化ガラスを叩く。
研究員達の顔が青褪める。
シンが、リュウの腕を掴んで、静かに、だが、毅然とした口調で言う。
「これは、危険に瀕した生体を隔離し、その命を助けるための筺、、、このガラスの壁は、繊細な計器でもある。乱暴に扱い壊しでもしたら、あなたのナギの生命は保証できません、、、このガラスはナギの命を守る筺なのです」
リュウの動き凍りつく。
悔しさ、怒りと同時に、事態の重さを察知した理性が心の中で争っているのだろう。
表情が歪む。
シンは動きを止めたリュウの腕から静かに手を離し、一歩だけ後ろに下がる。
「落ち着いてください。リュウ。ここで怒鳴っても、ナギさんは救えません。」
リュウは荒く息を吐き、額に手を当てると顔を伏せた。
その横顔には焦燥と崩れ落ちそうな不安が見て取れる。
「生体隔離ラボ、、、ナギの命を守る壁?どう言う意味だ?見せろっ!ナギの姿を、、、隠さずに見せてくれっ!」
その様子を、ユイチは冷たいまなざしで眺めていた。
「お前に命令権限はない、、、」
言葉は淡々としているが、どこか底意地の悪い冷笑を隠しきれていなかった。
ユイチの声に、リュウの拳が再び固く握られ、血管が浮かび上がる。
だが、先に声を発したのはシンだった。
「ユイチ・サイジョウ閣下、、、」
低く、しかしはっきりとした声。
シンがユイチを“閣下”付けで呼ぶときは、二人きりの時間にからかいの意味を込めて言う時と本気で釘を刺す時だ。
「こんな時に、軍規などどうでも良いでしょう。これは『あなたでも制御しきれない状況』です。ナギの肉体に、今、起こっていることは、未知すぎる、、、つまらぬやり取りで時間を浪費する余裕は、私たちには無いはず、、、」
ユイチの眉が、わずかに動いた。
ほんの一瞬。
誰も気付かないほどの、小さな揺らぎ。
リュウがシンを睨みつける。
シンがユイチをチラリと見る。
ユイチは頷き、指で研究員に指示する。
生体隔離筺室の強化ガラスが透明になり、ナギの姿が露になる。
「ナ、、、ナギ、、、」
リュウの悲痛な呻き声がラボに漏れる。
心地よい電子音の乱打。
続いて、カンッ!という衝撃音。
続けざまにドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!!というくぐもった重い打撃音が防壁扉の向こうから響く。
分厚く隔絶されたはずの空間にまで音が届くということは、相当な力で叩きつけている証拠だ。
研究員が青ざめる。
ユイチを伺う。
シンが眉だけをわずかに動かし、ユイチに目を向ける。
ユイチ・サイジョウは微動だにしない。
ただ、冷たい瞳で扉の方向に目線を投げただけだ。
フウッ、、、
シンが溜息をつき、パネルを操作する。
新たな画面が立ち上がり、憤怒の形相を浮かべたリュウが扉を拳で打ち、肩を叩きつける様子が映る。
その背後では、警備兵がウロウロしている。
何事か叫んでいるが、音声はミュートになっているためラボ内には聞こえない。
「どうします?」
「放っておけ」
シンの問いにユイチが短く答える。
しばらく画面を見たのち、再び、シンは口を開く。
「このまま外で騒がせておくと、このラボの注目が増してしまいます、、、」
「フンッ、、、煩わしい、、、いつかは対峙しなければならぬ相手か、、、」
ユイチはシンの横に立つとパネルに手を当てる。
“開けろォ!!ユイチ!!居るんだろっ!”
怒鳴り声がスピーカーから流れる。
ユイチは表情を変えずに、マイクに向かって言う。
「リュウ・アサクラ将校っ!あなたは“タケミカヅチ”所属部隊の責任者のはず。なぜ、関係のない“リュウジン”にいる。服務規定違反となるぞっ!」
“ユイチ、テメェか、、、しのごの言わずに、さっさと扉を開けろっ!”
「このラボは、極秘任務中だ”、滅多な人間は入れられん!」
“武官には見せられない極秘任務の遂行か?まさか、人体実験ではないだろうな?倫理局に、お前達が三界人道協約、トリスフェア・コーデックスに違反している疑義があると申し出るか?”
チッ!
舌打ちをしたユイチの顔に不快の色が浮かぶ。
三界人道協約《トリスフェア・コーデックス》、、、三文明が過去の残虐行為を反省し、捕虜の人体実験・改造・精神干渉を全面的に禁じた国際協約である。
名目上は「人道」を掲げるが、実際は互いの暴走を監視するための政治的妥協にすぎない。
形骸化している部分もあるが、正面から取り上げられれば、国際紛争につながる。
また、アマツ連邦の軍規違反にもなる。
これは、ユイチが所属する宇宙科学軍の極秘ミッションだ。
地球の高級僧将達は、“和”を尊ぶと標榜しつつ、互いの隙を窺っている。
おそらくトナティウカンに、“オモイカネ”の宿主を放ったのは科学軍の僧将達の独断だろう。
ここで、リュウを騒がせておくのは得策ではない、、、
ユイチは考える。
リュウが暴走して、頭の固い倫理局の僧将にこの事実を告げれば、おそらく科学軍の僧将は、ユイチをあっさりと切り捨てるはずだ。
ユイチの指がスライドする。
重い二重扉が開く。
リュウが飛び込んでくる。
「テメェッ、ナギをどうした?!まだ、“ツクモ”上に居るのか?」
そのナギが横たわる生体隔離筺室には視線を向けず、リュウはユイチの胸倉を掴まんばかりに詰め寄る。
ユイチは、無表情を保つ。
「立場を弁えろ。“リュウジン”を無断で離れたお前は、私情で軍務を放棄した。それは重罪となる」
「軍務? なんとでも言えっ!“タケミカヅチ”でオリュンポスと睨み合うのも軍務なら、大事な“アマツ連邦”の兵士の命が無碍に扱われるのを防ぐのも俺の軍務だ。それに、俺達がオリュンポスと交戦しているのは、“実験体”の収集ではないのか?それこそ、軍規違反だろうっ!ナギをどうした、、、ナギは無事か?」
怒声がラボ内に響きわたる。
シンがそっとパネルを操作する。
生体隔離筺室の透明だった強化ガラスが黒く変わる。
が、変わりきる一瞬、その瞬間、リュウの視界が強化ガラス越しの中央装置を捉える。
そこに、、、意識を失ったナギが横たわっている。
「ナギッ!」
悲痛な叫びを上げ、リュウが黒くなった強化ガラスに飛びつく。
「ナギッ!!ナギッ!!そこにいるのか?俺だ、、、リュウだ、、、」
バンバンと強化ガラスを叩く。
研究員達の顔が青褪める。
シンが、リュウの腕を掴んで、静かに、だが、毅然とした口調で言う。
「これは、危険に瀕した生体を隔離し、その命を助けるための筺、、、このガラスの壁は、繊細な計器でもある。乱暴に扱い壊しでもしたら、あなたのナギの生命は保証できません、、、このガラスはナギの命を守る筺なのです」
リュウの動き凍りつく。
悔しさ、怒りと同時に、事態の重さを察知した理性が心の中で争っているのだろう。
表情が歪む。
シンは動きを止めたリュウの腕から静かに手を離し、一歩だけ後ろに下がる。
「落ち着いてください。リュウ。ここで怒鳴っても、ナギさんは救えません。」
リュウは荒く息を吐き、額に手を当てると顔を伏せた。
その横顔には焦燥と崩れ落ちそうな不安が見て取れる。
「生体隔離ラボ、、、ナギの命を守る壁?どう言う意味だ?見せろっ!ナギの姿を、、、隠さずに見せてくれっ!」
その様子を、ユイチは冷たいまなざしで眺めていた。
「お前に命令権限はない、、、」
言葉は淡々としているが、どこか底意地の悪い冷笑を隠しきれていなかった。
ユイチの声に、リュウの拳が再び固く握られ、血管が浮かび上がる。
だが、先に声を発したのはシンだった。
「ユイチ・サイジョウ閣下、、、」
低く、しかしはっきりとした声。
シンがユイチを“閣下”付けで呼ぶときは、二人きりの時間にからかいの意味を込めて言う時と本気で釘を刺す時だ。
「こんな時に、軍規などどうでも良いでしょう。これは『あなたでも制御しきれない状況』です。ナギの肉体に、今、起こっていることは、未知すぎる、、、つまらぬやり取りで時間を浪費する余裕は、私たちには無いはず、、、」
ユイチの眉が、わずかに動いた。
ほんの一瞬。
誰も気付かないほどの、小さな揺らぎ。
リュウがシンを睨みつける。
シンがユイチをチラリと見る。
ユイチは頷き、指で研究員に指示する。
生体隔離筺室の強化ガラスが透明になり、ナギの姿が露になる。
「ナ、、、ナギ、、、」
リュウの悲痛な呻き声がラボに漏れる。
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