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エキシビジョンマッチ第二戦 仕掛ける黒獅子 ― 牙を隠した狩人
しおりを挟むリングが再び光に包まれる。
数日を空けて行われたエキシビジョン第二戦。
観客の熱狂はさらに膨れ上がっていた。
前回の対戦で鷹城の勝利が決まったが、あの試合には、不可解な「間」があった――そう囁く声もある。
そして、ついにその再戦の時が来た。
「さあ、本日第ニ戦! 期待の再戦カード――!」
リングアナの声が雷鳴のように響く。
「青コーナーッ! 黒き狩人、再び舞い戻るッ! 三崎、陸翔!!」
前回とは違う空気を纏って、三崎が姿を現す。
鋼鉄のような上半身に、脂肪のない腹筋。
歩くたびに大腿筋がゆっくりとうねり、汗の膜が筋肉の影を際立たせる。
その眼差しは、冷たい獣。
観察者から、いまや“仕掛ける側”へ――変貌を遂げていた。
「赤コーナーッ! 王者の貫禄ここにありッ! 鷹城、大牙!!」
高々と両腕を掲げる鷹城に、観客は歓声を惜しまなかった。
変わらぬ肉体、彫刻のようなバランス。
しかし前回と違うのは、どこか緊張の混じった視線。
彼もまた、あの敗者の瞳に“計画”を見たのだ。
ゴング――開始!
開始数秒、三崎は前回とは違い、鋭く前に出た。
大胸筋が弾けるように張り、前傾姿勢で鋭く鷹城の足元へ。
「おっと!? 今度は三崎が仕掛けたァッ!」
リングアナの声が弾む。
タックル――だが、これはフェイント。
すぐに右へステップをずらし、鷹城の反応を誘った。
鷹城は身を屈めて受けに入る。
広背筋が動き、腰を低く落とす。
しかし、三崎はその動きを読んでいた。
「ここだ!」
三崎の声と共に、ローキックが鷹城の膝を正確に打ち抜く。
脚を取られ、体勢が崩れかけた鷹城の上半身を、三崎は一瞬で背後に回ってクラッチ。
「ジャーマンの体勢だッ! 三崎が、投げに――」
だが、鷹城は逆らうように踏ん張る。
脚全体の筋肉が隆起し、体を支えようとする。
背中から尻、太腿にかけて全身が電線のように張る――
それを、三崎は感じ取る。
(やはり力の入る時、腰が少し浮く……)
無理に投げにはいかず、クラッチを解いて前へと転がる。
攻めるのは、ここからだった。
ジャブ、ストンピング、エルボー――
三崎の連打が鷹城を少しずつ削る。
密度の高い肩から肘にかけての筋肉が、エルボーを放つたびに伸縮を繰り返し、鷹城の腹筋をえぐる。
「こ、この攻撃の連続は……前回とは違うぞ、三崎!」
鷹城も反撃する。ロープを使ったショルダータックル。
ぶつかる肉体と肉体――大胸筋と大胸筋、広背筋と広背筋。
ゴッ! と低く重い音がリングに響き、観客がどよめく。
互いの胸板がぶつかり合った衝撃で、三崎の眉間にうっすらと皺が寄る。
それでも退かない。
(もっと来いよ、大牙。全部見せろ……全部、覚えてやる)
リング中央での組み合い――鷹城が三崎の首を取り、ネックロック。
筋肉で絞めるようなその技。
だが、三崎の背筋がぐいと反り返り、胸郭が押し上げられていく。
「くっ……はあ……!」
痛みの声を漏らしながらも、三崎は肘を突き刺して抜け出す。
汗と皮膚が擦れ、リングマットに肉が打ちつけられる音が鳴る。
そして、試合終盤。
鷹城が跳び技を繰り出し、三崎が見事なブリッジフォールを狙った瞬間――
しかしそれは、わずかに届かず。
鷹城は瞬時に体を反転させ、三崎の背後を取ると――
「スパインバスターっ!!」
リングアナの絶叫と共に、鷹城の分厚い胸板と太腿が一気に動き、腰を浮かせた三崎の胴を掴むと、そのまま地面に――
ドガァッ!!!
リングが大きく唸り、三崎の全身が背中からマットに叩きつけられた。
息が止まり、口が勝手に開く。
「ワン! ツー! スリー!!」
――試合、終了。
再び、三崎は敗れた。
だが、それはただの敗北ではなかった。
観客は、その攻防の熱に湧き立っていた。
特に後半、攻勢を仕掛けた三崎の攻めには称賛の拍手が贈られている。
鷹城はリングの中央に立ち、息を整えると、倒れた三崎の傍にしゃがんだ。
「……よく動いたな、陸翔」
その声は、戦友に送るような優しい響きだった。
右手を差し出し、三崎を引き起こす。
三崎はわずかに笑い、手を取って立ち上がった。
大歓声のなか、二人の手が高々と掲げられる。
――だが。
その握手の裏で、鷹城の心に微かなざわめきが生まれていた。
(これは……ただの勢いじゃない)
(こいつ……)
鷹城の心をかすめたのは、“警戒”という二文字だった。
たしかに今回も勝った。
だが、かすかに手応えが変わっていた。
前回は完全に支配していたのに、今回はどこか“読まれていた”。
「次が、楽しみだな」
そう声をかけた鷹城の笑顔の奥で、獣が静かに牙を研ぎ始めていた。
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