すべての過去はあたしを組み立てた部品だ

藤城亜矢

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全ての過去はあたしを組み立てた部品だ

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「改めて言うけど。もうお前とはやっていけない」
 私と付き合ってた、浮気男が言った。
 男の隣で、ダークな茶髪を真ん中分けにして伸ばしまくった女が、赤い伸ばした爪に黒のノンスリーブのワンピにキツく入ったアイラインのメイクで、勝ち誇った顔をしている。男の首に腕を回さんばかりだ。
 あたしは目の前のカップのカプチーノの残りをぐーっと飲み干すと、立ち上がって言った。
「もういいわ。さようなら。お代は支払ってよね」
 浮気の代償が世界的人気カフェのカプチーノ1杯なんて、安すぎるだろうと思うけど、この男は一応公認会計士で稼ぎはそれなりに良く、あたしに経済的なストレスは与えなかったので人生そんなものかなと振り返ったのはのちの話だ。

 あたしは昔の歌謡曲が好きなので、こんな状況、絶体絶命って山口百恵の歌にあったよねと思うのだが、そういう三者面談という最悪の状況から解放されてよかったとは次に思ったのだ。
 しかし、待ち合わせ時間より前にどんよりしていた空から、雨が降ってきたのである。

 カフェを出たら、本降りだった。
 初夏とはいえ、これはたまったんじゃない。
 しかもここは、初めて降りる駅なのだ。
 トートバッグの中を探ってみると、あると思ってた折り畳み傘が、ない!
 確か右へ一本道だったよな、と思い出しながら駅への道を急いだ。

 今どき階段しかないのかよ、と思いながらホームまで登り切ると、ちょうど自宅方向への下り電車が滑り込んできたところだった。乗る。
 電車に乗って、ひとつだけ席が空いているのを目が確認した瞬間。
 左目からつーっと涙が流れてきた。
 車窓に映る自分。
 黒いショートカット。エメラルドグリーンのTシャツ。キャメル色のパンツスーツ。靴はモカシン。
 化粧は汗と雨で流れ落ちていた。
 加えて涙か。
 サングラスが欲しくなったが、土曜の夕方でもあるし、空いている席に急いで座って下を向いた。

 再三すきすきいう奴だった。
 店選びにハズレがなかった。
 それに最後はチェーン店か、だが。
 あたしもデートコースの提案をして、それにニコニコ乗ってきていた。

 しばらくは落ち込んで、ネットばかりやっていた。あと、BSで昭和歌謡の番組をよく見た。夜のヒットスタジオは本当に多く、同じ回を4.5回見た。
 浮気の疑惑が湧き、徐々に深まっていった段階で愛想も徐々に目減りしていき、別れの日の時点では未練がなくなってもいた。
 なのにこの涙はなんだろう?

 でもそのうち、昨日と明日で違う自分にはなれないけど、全ての過去は私を組み立てた部品なんだな、と思うようになった。

 3ヶ月が過ぎた頃、知らない番号から電話がかかってくるようになった。
 4回目の時点でブロックしたら、翌日、浮気男が早朝のあたしの自宅に現れた(ひとり暮らしである)。

『ハズレだったわあの女。若いだけで私を楽しませてって魂胆が見え見えなんだよ。やっぱお前がよかったよ、自分からも提案してくれるから』
「ヨリ戻そうってか、そう都合よく行くかばーか」
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