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編集お手伝いさん
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2006年12月31日。
佐藤りんだ率いるスタジオアップルの面々(要するにアシスタントたち)は、業平橋駅前の居酒屋おてんば屋で、忘年会を開いていた。
アシスタントたちもりんだも、同人誌を作って盆暮れの最も大きな即売会に出店しているので、こんな最後の日に忘年会ということになったのである。
「いやー、百合ちゃん今回はほんとにありがとう! 手伝ってくれなかったら絶対落ちてた! おまけにいつもより背景キレイだし」
と話題を変えて同僚を称え始めたのはレイちゃんである。
「へえ、2人で作った本なら読みたいなあ」
「まもちゃん鰤わかるの?」
「なんかさあ、このメンバーで1冊作ってみたくね?」
と言い出したのはトランスジェンダーでもあるリョータくんである。
「いいねえ!」
「ジャンルどうすんの? やっぱオリジナル?」
「あたしオリジナル久しく描いてなーい」
などと言う者もいたが、毬子が口を挟めないでいるうちにオリジナル漫画の同人誌制作が決まっていた。りんだもろくに口を挟まなかった。
普段からオリジナルJUNEでスペースを取っているみわちゃんが、チーフでもあることだしリーダーとなって、編集をすることとなった。ただし同性愛異性愛問わず恋愛要素はあって良いがラブシーンはなし、という規則が設けられた。
他にどういう通しテーマを設けるかも話題に上り、片想いにしようとか、ファンタジーにしようとか意見が出て、結局学園もの縛りになった。
ひとりあたりのページ数は4ページから16ページの間。
ゴールデンウイークのコミティアで初売り、と思ったが、それだとスケジュールがタイトになり過ぎるので、ならお盆のコミティアか、当選したらコミケ、と言うことになった。
りんだが調子に乗って、イラストコメント1枚描くよーなどと言い出すなど、盛り上がった。
これでみわちゃんは、2007年は、普段の自分のオリジナルシリーズを全く描けない忙しさとなってしまった。
そして6月25日に締め切りを迎え、みわちゃん自身の原稿を除いて全員分が揃った。
「困った……」
みわちゃんは、自分の原稿も上がっていないのに台割のことまで考えなくてはならないと言う気持ちで、自分の原稿もあとひと息のところなのに出来ないと言うところである。
男子高校生が同級生男子に片想いする話だが、ハッピーエンドにするか諦めさせるかでも迷っていた。
この頃TwitterというSNSサービスが流行り始めて、みわちゃんも始めていたが、締め切りで悩んでいた時に、フリーの編集手伝い人がいるというツイートを読んだ。
手伝ってもらおう、と、まずは連絡手段をツイート主に質問して、トントン拍子に話は進み、手伝ってもらうことになった。
編集人は、玲菜ちゃんという、スレンダー美人の女子大生だった。
玲菜ちゃんは絵は描けないので、女子アシスタント仲間を都合の合う日に来てもらって、ベタなどは彼女たちに塗ってもらい、玲菜ちゃんには、台詞の入力・貼り込みとスクリーントーン貼りを依頼した。ちなみに毬子だけが複数回手伝いに来た。
3人で話していて、普段はハッピーエンドが多いのか聞かれたところ、みわちゃんはハッピーの方が多いと言い、ならアンハッピー話もやってみてはということになった。12枚で収まった。
みわちゃんの原稿が完成したそばから、毬子と3人で台割会議が始まった。
「なんか奇数ページで描いてきた人がけっこういますね」
と、みんなのアナログ生原稿を手に取りながら玲菜ちゃんは言った。
「ごめんなさい……」
毬子は他に言葉がない。
「自己紹介や宣伝のページを1枚描いてもらったから、それと足してまとめてもらおうという魂胆なのかなぁ」
「なるほど」
1番たくさん描いてきたのはリョータくんで、16枚である。女の子でいることに違和感のあるトランスジェンダーが、仲良くしてる女の子に恋をしてるけど、恋心も男子であることも言い出せないまま終わるストーリーである。まもちゃんが男らしくない男の子のことを書いたり、割と各人のパーソナリティが透けたものになっていた。
毬子も百合ものを描いた。主人公の女の子が片想いする女の子が妊娠していた、と言うもので、クラスの噂になる前に妊娠を主人公に打ち明ける展開である。
「リョータくんをトリにして、レイちゃんを巻頭にして……」
「ラス前を百合ちゃん、真ん中がまもちゃん」
執筆者をあだ名で呼ぶみわちゃんを見て、この本に執筆したメンバーに会ってみたくなっている玲菜ちゃんであった。
そして。
「…………88、89、90、91、92!」
揃って、順番に並べたすべての原稿を、玲菜ちゃんが数え終えた。
「終わったー!」
この日は玲菜ちゃんとみわちゃんが2人だった。玲菜ちゃんはこのところ、阿佐ヶ谷から向島まで、まめに移動してきて、一度などみわちゃんの部屋に泊まって作業をしていた。その分の交通費はみわちゃんは支払う予定である。
表紙は亜美ちゃん、裏表紙はリョータくんだった。
「こちら、今回編集を手伝ってくれた熊倉玲菜さん。お世話になりました」
夏コミ後の暑気払い会に、玲菜ちゃんにも参加してもらって。
「「「「「カンパーイ!!!!!」」」」」
む
佐藤りんだ率いるスタジオアップルの面々(要するにアシスタントたち)は、業平橋駅前の居酒屋おてんば屋で、忘年会を開いていた。
アシスタントたちもりんだも、同人誌を作って盆暮れの最も大きな即売会に出店しているので、こんな最後の日に忘年会ということになったのである。
「いやー、百合ちゃん今回はほんとにありがとう! 手伝ってくれなかったら絶対落ちてた! おまけにいつもより背景キレイだし」
と話題を変えて同僚を称え始めたのはレイちゃんである。
「へえ、2人で作った本なら読みたいなあ」
「まもちゃん鰤わかるの?」
「なんかさあ、このメンバーで1冊作ってみたくね?」
と言い出したのはトランスジェンダーでもあるリョータくんである。
「いいねえ!」
「ジャンルどうすんの? やっぱオリジナル?」
「あたしオリジナル久しく描いてなーい」
などと言う者もいたが、毬子が口を挟めないでいるうちにオリジナル漫画の同人誌制作が決まっていた。りんだもろくに口を挟まなかった。
普段からオリジナルJUNEでスペースを取っているみわちゃんが、チーフでもあることだしリーダーとなって、編集をすることとなった。ただし同性愛異性愛問わず恋愛要素はあって良いがラブシーンはなし、という規則が設けられた。
他にどういう通しテーマを設けるかも話題に上り、片想いにしようとか、ファンタジーにしようとか意見が出て、結局学園もの縛りになった。
ひとりあたりのページ数は4ページから16ページの間。
ゴールデンウイークのコミティアで初売り、と思ったが、それだとスケジュールがタイトになり過ぎるので、ならお盆のコミティアか、当選したらコミケ、と言うことになった。
りんだが調子に乗って、イラストコメント1枚描くよーなどと言い出すなど、盛り上がった。
これでみわちゃんは、2007年は、普段の自分のオリジナルシリーズを全く描けない忙しさとなってしまった。
そして6月25日に締め切りを迎え、みわちゃん自身の原稿を除いて全員分が揃った。
「困った……」
みわちゃんは、自分の原稿も上がっていないのに台割のことまで考えなくてはならないと言う気持ちで、自分の原稿もあとひと息のところなのに出来ないと言うところである。
男子高校生が同級生男子に片想いする話だが、ハッピーエンドにするか諦めさせるかでも迷っていた。
この頃TwitterというSNSサービスが流行り始めて、みわちゃんも始めていたが、締め切りで悩んでいた時に、フリーの編集手伝い人がいるというツイートを読んだ。
手伝ってもらおう、と、まずは連絡手段をツイート主に質問して、トントン拍子に話は進み、手伝ってもらうことになった。
編集人は、玲菜ちゃんという、スレンダー美人の女子大生だった。
玲菜ちゃんは絵は描けないので、女子アシスタント仲間を都合の合う日に来てもらって、ベタなどは彼女たちに塗ってもらい、玲菜ちゃんには、台詞の入力・貼り込みとスクリーントーン貼りを依頼した。ちなみに毬子だけが複数回手伝いに来た。
3人で話していて、普段はハッピーエンドが多いのか聞かれたところ、みわちゃんはハッピーの方が多いと言い、ならアンハッピー話もやってみてはということになった。12枚で収まった。
みわちゃんの原稿が完成したそばから、毬子と3人で台割会議が始まった。
「なんか奇数ページで描いてきた人がけっこういますね」
と、みんなのアナログ生原稿を手に取りながら玲菜ちゃんは言った。
「ごめんなさい……」
毬子は他に言葉がない。
「自己紹介や宣伝のページを1枚描いてもらったから、それと足してまとめてもらおうという魂胆なのかなぁ」
「なるほど」
1番たくさん描いてきたのはリョータくんで、16枚である。女の子でいることに違和感のあるトランスジェンダーが、仲良くしてる女の子に恋をしてるけど、恋心も男子であることも言い出せないまま終わるストーリーである。まもちゃんが男らしくない男の子のことを書いたり、割と各人のパーソナリティが透けたものになっていた。
毬子も百合ものを描いた。主人公の女の子が片想いする女の子が妊娠していた、と言うもので、クラスの噂になる前に妊娠を主人公に打ち明ける展開である。
「リョータくんをトリにして、レイちゃんを巻頭にして……」
「ラス前を百合ちゃん、真ん中がまもちゃん」
執筆者をあだ名で呼ぶみわちゃんを見て、この本に執筆したメンバーに会ってみたくなっている玲菜ちゃんであった。
そして。
「…………88、89、90、91、92!」
揃って、順番に並べたすべての原稿を、玲菜ちゃんが数え終えた。
「終わったー!」
この日は玲菜ちゃんとみわちゃんが2人だった。玲菜ちゃんはこのところ、阿佐ヶ谷から向島まで、まめに移動してきて、一度などみわちゃんの部屋に泊まって作業をしていた。その分の交通費はみわちゃんは支払う予定である。
表紙は亜美ちゃん、裏表紙はリョータくんだった。
「こちら、今回編集を手伝ってくれた熊倉玲菜さん。お世話になりました」
夏コミ後の暑気払い会に、玲菜ちゃんにも参加してもらって。
「「「「「カンパーイ!!!!!」」」」」
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