ANGEL ATTACK 番外編 

藤城亜矢

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THE BROKEN HEARTED

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「香苗はすっかり標準語だね」
 と七瀬毬子が言った、ある秋の日の藤花亭。
「だって、一応東京出身なのに言葉がおかしいってさんざん疑われたし、訛ってる親が恥ずかしかったんだもの」 
「親を恥ずかしがるたあなんて娘じゃ」 
「順調に成長してる証拠でしょ」
「由美ちゃん……」
「アスカと祐介は時々訛ってるよね」
「啖呵切る時便利じゃけえ」
「ちょっと違うぞと思ってくれるもんね」
「その使い方はちいとどうよ思うけどな」
 明日香の父で藤花亭の店主・藤井隆宏が言う。
「20年以上も東京に住んでたら喋れるようになるものじゃないのかな、標準語」
「おばちゃん全然しゃべれんやん」
「商売上広島弁は必要だしね」
「ワシここで思いっきり広島弁喋れるけぇストレス溜まっとらんのかも」
 と言ったのはこの中で1番直近まで広島に住んでいた八木だ。

 という会話をしていた日から数ヶ月経った2008年6月のある土曜日。
 八木と一緒に藤花亭を出た毬子は、目の前を俯いて歩く人影に気づいた。
「おかえりー、香苗?」
 見ると香苗は、目を真っ赤にしている。化粧がぐちゃぐちゃだ。
「ちょっとどしたの、あんたが泣くなんて」
「毬子さあん……ふられちゃったー……」
 香苗は毬子の胸に額を押し当てんばかりになった。
「3人でおてんば屋行こうか」
 23時を過ぎている。ハタチの娘を連れ出す時間ではないので、おてんば屋に着いて、八木にハンドタオルを渡して水で濡らさせに行ってる間に、
「店出たところで帰ってきた香苗と会って。フラれたって泣いてるからおてんば屋に連れてきました。八木ちゃんと3人なんで、帰りは彼に香苗を送ってもらいます」
 と絢子と隆宏にメールした。

 個室が空いてるか聞いたところ空きがひとつあるというので、ウーロン茶を3つ頼み、八木が濡らしてきたハンドタオルで目を冷やしながら香苗が言ったことを要約すると、最近怪しかったので彼氏の浮気を問い詰めたら、白状したのでやめてと言ったら、束縛されたくないもう別れる、と言われたらしい。
 1時間後、
「ごめん、八木ちゃん、付き合わせて。明日出勤だよね?」
 八木は三津屋百貨店日本橋店スポーツ用品売り場勤務だ。
「あー……でも泣いとる女の子ほっとけんでしょ。しかも香苗ちゃん」
「うん、でも……」
「ごめん八木さん……ぐすっ」
 と香苗が口を挟んだ。
 その時毬子の携帯電話が鳴った。
「よし、来週みんなでカラオケ行こう!」
 隆宏からのメールだった。

 翌週、由美、信宏、藤井一家と七瀬母子8人が集まった。午後8時から、早番だった八木も参加した。
 カラオケボックスの社員で香苗の親友でもある河村麻弥は、今日はちょうど彼女が店を仕切る日だったからか、後輩に任せられるだけ任せて藤井家の部屋にいた。
 隆宏が浜田省吾の「SWEET LITTLE DARLIN'」を歌う。
 由美は竹内まりやの「元気を出して」。
 そんな中、信宏が歌った曲は、音楽ライターをやっている由美しか知らない曲だった。
「🎶 君は Broken hearted~」

「信宏くんよくこの曲知ってたわね」
 由美が感心したように言った。
「ゴダイゴ? 全然知らない」
 毬子が言う。
 誰も歌わず、由美たちの会話に耳を傾ける。
「99年に再結成した時のアルバムの曲だよ。だからか、ほとんど日本語。当時話題になってたぜ」
 信宏が言った。
 番号を入力して信宏が歌ったのは、ゴダイゴの「The broken hearted」だった。
 ゴダイゴに珍しくほとんど日本語で綴られた、フラれた女の子を慰める男友達視点で描かれた曲である。
「由美さん、信宏さんありがとう。んじゃ新しい曲歌うね」
 この、隆宏主催のカラオケ大会始まって以来初めて、それまで全く歌わなかった香苗が番号を入力して歌い始めた。
「🎶 シネマの中のツイッギーの ミニスカート真似して~」
 安室奈美恵の「NEW LOOK」。3月に出た「60s 70s 80s」というシングルに入っている曲だ。2024年、MISAMOというユニットがカバーして話題になった曲だった。
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