88 / 1,640
第2章 エンノア編
珈紅茶館 1
「それより、早くオルドウに戻った方がいいですよ。診察も必要ですからね」
「そうでした……弟の怪我なのにすみません」
「ここからだと、獣道に戻れば常夜の森からもすぐに出ることができますので」
「あの……ここまでしていただいて厚かましいのは重々承知しているのですが……。一緒にオルドウまで戻っていただけないでしょうか?」
「姉さん、おれなら大丈夫だ」
「アル、でもね」
「いいですよ、私も帰るところでしたから」
「本当ですか、ありがとうございます」
「では、私の後についてきてくださいね」
「その前に、魔物はあのままでいいのか?」
ん?
ああ、素材か。
常夜の森で助けた姉弟。
姉のシアと弟のアルを連れてオルドウに戻った俺はギルドに寄らず宿屋に直行。
その日はそのまま日本に帰還することにした。
明けて翌日。
翌日、いや翌々日なのか?
もう、よく分からなくなってきたな。
ここのところ、以前にもまして時間の感覚がおかしくなってきた気がする。日本とオルドウを頻繁に行き来して、さらに時間の進み具合も違うときたら、そりゃ、体内時計もおかしくなってしまうというものだ。
オルドウと日本での時間のやりくりについて、ある程度は規則的な行動パターンを身につけた方が良いのかもしれないな。
それと……やっぱり、1人暮らしも始めた方がいいか。
突然部屋からいなくなって数時間後に部屋に直帰なんていう生活を不規則に行っている現状。
もし家族に気付かれでもしたら、困ったことになる。
1度や2度はごまかせても、頻繁に見つかってしまうとなぁ。
下手をすれば露見につながる危険性もある。
となると、問題はお金だ。
20歳のこの身では貯えている金額も大したことはない。
1人暮らしを維持するために必要な金額を考えると、心許ないものがある。
苦しいところだが、何とかするしかないか。
********************
「それで、少しは落ち着いたか?」
20歳に戻ってから頻繁に訪れている珈紅茶館。
当初の懐かしい気持ちはとっくになくなり、今や常連のような感覚になっている。
そんな珈紅茶館で珈琲を飲んでいる俺の隣には、この暑いのに相変わらず長袖を着た幸奈が座っている。
「うん……全部解決したとは言えないけど、家の方も少しずつ落ち着いてきたよ」
この珈紅茶館にふたりでいる時に幸奈の親から電話があった日から随分時間が経過したように感じられるが、実際はそんなに日数は経っていない。
「それは良かった」
とは言ったものの、幸奈の顔を見ていると、その言葉がふさわしいようには思えない。
いつもの明るい表情が嘘のように翳っているからな。
「ありがと……」
こちらに気を遣ってそう言っているだけで、家の中はまだ大変なんだろう。
「……詳しいことは聞かないんだね」
「幸奈が話したかったら、いつでも聞くけど」
「……」
「無理に聞く気はないよ。この前も……いや、いつもそうだけど、幸奈だって俺が話したくないことを強引に聞かないだろ」
幸奈はそういう性格だ。
普段は強引なところもあるが、大事な局面では無神経なことはしない。
先日俺が悩み落ち込んでいる時も、詳しいことは聞かずに励ましてくれた。
本当に感謝している。
「そうだけど」
「それとも、今話してくれるか?」
「それは……」
「まっ、また気が向いた時にでも話してくれたらいい」
「……うん」
今は話がしづらい状況なんだろう。
それでも、幾分か表情はましになった。
「いつも、ありがと」
「お礼を言われることじゃない」
「そんなことないよ。でも……その時が来たら聞いてね」
「もちろん。嫌と言っても聞いてやるから」
「フフ、ありがと」
「これ以上ありがとは要らないぞ」
話を聞くことなど、なんて事はない。
少しでも力になれたら、それでいい。
「了解。はい、こんな話はもうやめです」
ポン、ポンと両手の掌を軽く叩き笑顔を見せる幸奈。
翳りは嘘のように消えている。
切り替えが早いのは美点だよな。
「そうでした……弟の怪我なのにすみません」
「ここからだと、獣道に戻れば常夜の森からもすぐに出ることができますので」
「あの……ここまでしていただいて厚かましいのは重々承知しているのですが……。一緒にオルドウまで戻っていただけないでしょうか?」
「姉さん、おれなら大丈夫だ」
「アル、でもね」
「いいですよ、私も帰るところでしたから」
「本当ですか、ありがとうございます」
「では、私の後についてきてくださいね」
「その前に、魔物はあのままでいいのか?」
ん?
ああ、素材か。
常夜の森で助けた姉弟。
姉のシアと弟のアルを連れてオルドウに戻った俺はギルドに寄らず宿屋に直行。
その日はそのまま日本に帰還することにした。
明けて翌日。
翌日、いや翌々日なのか?
もう、よく分からなくなってきたな。
ここのところ、以前にもまして時間の感覚がおかしくなってきた気がする。日本とオルドウを頻繁に行き来して、さらに時間の進み具合も違うときたら、そりゃ、体内時計もおかしくなってしまうというものだ。
オルドウと日本での時間のやりくりについて、ある程度は規則的な行動パターンを身につけた方が良いのかもしれないな。
それと……やっぱり、1人暮らしも始めた方がいいか。
突然部屋からいなくなって数時間後に部屋に直帰なんていう生活を不規則に行っている現状。
もし家族に気付かれでもしたら、困ったことになる。
1度や2度はごまかせても、頻繁に見つかってしまうとなぁ。
下手をすれば露見につながる危険性もある。
となると、問題はお金だ。
20歳のこの身では貯えている金額も大したことはない。
1人暮らしを維持するために必要な金額を考えると、心許ないものがある。
苦しいところだが、何とかするしかないか。
********************
「それで、少しは落ち着いたか?」
20歳に戻ってから頻繁に訪れている珈紅茶館。
当初の懐かしい気持ちはとっくになくなり、今や常連のような感覚になっている。
そんな珈紅茶館で珈琲を飲んでいる俺の隣には、この暑いのに相変わらず長袖を着た幸奈が座っている。
「うん……全部解決したとは言えないけど、家の方も少しずつ落ち着いてきたよ」
この珈紅茶館にふたりでいる時に幸奈の親から電話があった日から随分時間が経過したように感じられるが、実際はそんなに日数は経っていない。
「それは良かった」
とは言ったものの、幸奈の顔を見ていると、その言葉がふさわしいようには思えない。
いつもの明るい表情が嘘のように翳っているからな。
「ありがと……」
こちらに気を遣ってそう言っているだけで、家の中はまだ大変なんだろう。
「……詳しいことは聞かないんだね」
「幸奈が話したかったら、いつでも聞くけど」
「……」
「無理に聞く気はないよ。この前も……いや、いつもそうだけど、幸奈だって俺が話したくないことを強引に聞かないだろ」
幸奈はそういう性格だ。
普段は強引なところもあるが、大事な局面では無神経なことはしない。
先日俺が悩み落ち込んでいる時も、詳しいことは聞かずに励ましてくれた。
本当に感謝している。
「そうだけど」
「それとも、今話してくれるか?」
「それは……」
「まっ、また気が向いた時にでも話してくれたらいい」
「……うん」
今は話がしづらい状況なんだろう。
それでも、幾分か表情はましになった。
「いつも、ありがと」
「お礼を言われることじゃない」
「そんなことないよ。でも……その時が来たら聞いてね」
「もちろん。嫌と言っても聞いてやるから」
「フフ、ありがと」
「これ以上ありがとは要らないぞ」
話を聞くことなど、なんて事はない。
少しでも力になれたら、それでいい。
「了解。はい、こんな話はもうやめです」
ポン、ポンと両手の掌を軽く叩き笑顔を見せる幸奈。
翳りは嘘のように消えている。
切り替えが早いのは美点だよな。
あなたにおすすめの小説
ひだまりのFランク冒険者
みなと劉
ファンタジー
ここは異世界。
そこの冒険者ギルドでは毎日仕事がてんこ盛り。
そんな中
冒険者ギルドには万年Fランクの冒険者が一人いる。
その名は、リルド。
彼は、特に何もない感じに毎日
「薬草採取」「石集め」Fランク向け「討伐」場合によっては「ポーション生成」をする。
この話はこの万年Fランク冒険者リルドの物語である。
ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
WIN5で六億円馬券当てちゃった俺がいろいろ巻き込まれた結果現代社会で無双する!
TB
ファンタジー
小栗東〈おぐりあずま〉 二十九歳 趣味競馬 派遣社員。
その日、負け組な感じの人生を歩んできた俺に神が舞い降りた。
競馬のWIN5を的中させその配当は的中者一名だけの六億円だったのだ。
俺は仕事を辞め、豪華客船での世界一周旅行に旅立った。
その航海中に太平洋上で嵐に巻き込まれ豪華客船は沈没してしまう。
意識を失った俺がつぎに気付いたのは穏やかな海上。
相変わらずの豪華客船の中だった。
しかし、そこは地球では無かった。
魔法の存在する世界、そしてギャンブルが支配をする世界だった。
船の乗客二千名、クルー二百名とともにこの異世界の大陸国家カージノで様々な出来事はあったが、無事に地球に戻る事が出来た。
ただし……人口一億人を超えるカージノ大陸と地球には生存しない魔獣たちも一緒に太平洋のど真ん中へ……
果たして、地球と東の運命はどうなるの?
14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
------
この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)