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第2章 エンノア編
妹
翌朝。
朝食をいただいた後。
「昨日はお世話になり、ありがとうございました」
エンノアの地下集落に通じる出入口の1つ、もっともオルドウに近い出入口に案内してもらい、皆さんと別れの挨拶をする。
「何を言われますか、我々の方こそお世話になり、さらに今後もお世話になるというのに」
「それはまあ、上手くいけばですよ。では、もう出発しますので、スペリスさんにもよろしくお伝えください」
多くの皆さんが見送りに来てくれたのだが、朝食に続きスペリスさんがいない。ゼミアさんの補佐的立場らしく、いつもゼミアさんの傍らにいるのに珍しい。と思ったら、どうやら体調不良らしい。件の病ではないとのことなので、それだけは幸いだが。
「伝えておきます」
「それと、明日か明後日にはこちらに戻って来ますが、その際はこの入り口に来ればよいでしょうか?」
「はい、よろしくお願いいたします」
ゼミアさんがにこやかに送り出してくれる。
だが、ゲオさん、サキュルスさんの顔に笑顔はない。
それに、フォルディさん……。
昨日はあんなに明るく接してくれたのに、今朝は別人のように暗い顔をしている。
一晩でここまで変わるなんて、何かあったのか?
……。
まあ、エンノアの病人のことを考えたら仕方ないことなのかもしれないな。
昨日は無理して笑顔を見せてくれていたのだろう。
「エンノアに戻って来る際は、くれぐれも魔落には近づかないようにしてください」
「了解しました」
「それでは、お気をつけて」
「ありがとうございます。では、出発させていただきます」
簡単に挨拶をすませ出入り口から離れる。傍らにはミレンさん。彼が麓まで道案内してくれることになった。自分ひとりでも下山はできるが、ミレンさんに案内してもらった方が楽に降りることができるということなので、厚意に甘えることになったというわけだ。
「コーキ殿、こちらです」
俺を送った帰りにブラッドウルフのような魔物に襲われたらどうするのかと心配したのだけど、ブラッドウルフなどそうそう遭遇することもないし、たいていの魔物ならミレンさんはひとりで逃げることができると押し切られてしまった。
正直言って少し心配だったのだが……。
下りの道中は魔物に襲われることもなく、もちろん道に迷うこともなく、かなり楽に下りきることができた。ミレンさんのおかげだな。
あとは、ミレンさんの帰りの道中が安全であることを願うばかりだ。
オルドウの宿屋から日本に戻って来た俺はさっそく必要な物を購入するため店に出向こうと思ったのだが、あいにく日本はまだ午前5時。コンビニは開いているが、薬局などは閉まっている。
この時期の俺はパソコンを持っていないし、スマートフォンも携帯電話も持っていない。というかこの時代、スマートフォンはまだ発売すらしていない。
なので、ネットで購入などは問題外。
店で直接購入するしかない。
しばらく待機か……。
朝の5時ということで、少し休もうかとも思ったが、エンノアで充分睡眠をとったあとなので眠気もない。
そんなわけで、頭の中はエンノアのことで占められてしまう。
あちらの世界の人々が、こちらと同じ人体構造、機能だと仮定するなら……。
ビタミンの欠乏が病の原因だと思うんだよな。
肉類中心の食事で最近は全く野菜を口にしていないのだから。
おそらくは……壊血病。
脚気ではないと思う。
それなら、ビタミンCを定期的に摂取すれば改善するはず。
ただし、問題は添加物などの化学物質。
エストラルの人々が日常的に化学物質を摂取しているとは到底思えない。
そんな人たちが化学物質を口にするとどうなるか?
どうにもならないかもしれないが、非常に不安だ。
なので、なるべく無添加、化学物質の含まれていないビタミンCを提供したい。
一応、他のビタミン類も。
そうとなると、大型の薬局に行くのが無難だろうな。
そうそう、エンノアの集落に行く前にオルドウで野菜類も買っていく予定だ。18人も病人がいるので、すぐに消費されてしまうだろうけど、それでも一応買っておきたい。
大量だな……。
こんな時、無限に物を収納できるアイテムボックス的な何かがあれば便利なんだけど。
あっちの世界では、魔道具として存在しているのかな?
一度調べないといけないな。
まっ、存在したとしても高価な物だろうから、今の俺には入手できないか。
……。
無い物ねだりは止めておこう。
さてと、一応ステータスの確認でもしておくか。
有馬 功己 (アリマ コウキ)
レベル 2
20歳 男 人間
HP 121
MP 171
STR 201
AGI 138
INT 232
<ギフト>
異世界間移動 基礎魔法 鑑定初級 エストラル語理解
セーブ&リセット(点滅)
<所持金>
2、160メルク
<クエスト>
1、人助け 済
2、人助け 済
3、魔物討伐 済
4、少数民族救済 未
<露見>
地球 2(点滅)/3
エストラル 0/3
おっ!
クエストが追加されているぞ。
少数民族救済とはエンノアの病人を救うことだよな。
すごいタイミングだ。
というか、今回のクエストは具体的すぎる。
……。
これは、神様こちらを見てますよね。
神様とは限らないか、その使いの方とか。
とにかく、こちらの事情を知っていなきゃ、このタイミングでこのクエストは無理じゃないだろうか。
これは……。
そう、掌の上で転がされている感覚。
……。
……。
*********************
午前中から薬局、スーパーなどを数店舗回り、可能な限り化学物質が含まれていないビタミン剤を購入。その後、他の所用を済ませ、今はもう17時。
12時間が経過しているので、今からオルドウの宿屋に飛ぶことはできる。今すぐ移動すれば、あちらの時間で9刻前(18時前)。
そこからエンノアに行くのは可能。
いや、ちょっと厳しいか?
どうしたものかと、玄関に入ると。
「あれ、お兄ちゃん、お帰り」
「おっ……香澄か?」
思わず出そうになった「若いな」という言葉を飲み込む。
「何言ってるの、わたしじゃなきゃ誰よ」
「ああ、そうだな」
こいつは1歳下の妹、香澄。
そういえば、この当時の香澄は大学1年生だよな。関西の大学に進学しているので、20歳に戻った俺はまだ顔を合わせていなかったんだ。
大学の休みを利用して実家に里帰りか。
「いつ戻ったんだ?」
「さっき着いたばかり。母さんもいないし、この家誰もいなかったんだから」
「そっか、それは悪かった」
「あれ? なんか雰囲気変わった」
「……そうか」
するどい。
さすが実の妹だ。
「うん、うん、何かあったの?」
「何もないな。気のせいだろ」
「え~、そうかなぁ~」
「そうだ」
「絶対違うよ。だって、前まではわたしがこんな態度とったら、無視して部屋に戻ってたじゃん」
「……」
うっ!
そうだったかも。
こいつ、俺が無視してもめげずに話しかけてきたんだよな。
それも、このあと数年の話だったけど。
「だ~か~ら、何かあったでしょ」
そんな口調で下から見上げてくる。
あざといし、鬱陶しい。
「何もない。じゃ、部屋に行くぞ」
「ほら~、前はそんなことも言わずに黙って部屋に入ってたのに」
「……」
だめだ、距離感がつかめない。
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