30年待たされた異世界転移

明之 想

文字の大きさ
107 / 1,640
第2章 エンノア編


 翌朝。
 朝食をいただいた後。

「昨日はお世話になり、ありがとうございました」

 エンノアの地下集落に通じる出入口の1つ、もっともオルドウに近い出入口に案内してもらい、皆さんと別れの挨拶をする。

「何を言われますか、我々の方こそお世話になり、さらに今後もお世話になるというのに」

「それはまあ、上手くいけばですよ。では、もう出発しますので、スペリスさんにもよろしくお伝えください」

 多くの皆さんが見送りに来てくれたのだが、朝食に続きスペリスさんがいない。ゼミアさんの補佐的立場らしく、いつもゼミアさんの傍らにいるのに珍しい。と思ったら、どうやら体調不良らしい。件の病ではないとのことなので、それだけは幸いだが。

「伝えておきます」

「それと、明日か明後日にはこちらに戻って来ますが、その際はこの入り口に来ればよいでしょうか?」

「はい、よろしくお願いいたします」

 ゼミアさんがにこやかに送り出してくれる。
 だが、ゲオさん、サキュルスさんの顔に笑顔はない。
 それに、フォルディさん……。

 昨日はあんなに明るく接してくれたのに、今朝は別人のように暗い顔をしている。
 一晩でここまで変わるなんて、何かあったのか?

 ……。

 まあ、エンノアの病人のことを考えたら仕方ないことなのかもしれないな。
 昨日は無理して笑顔を見せてくれていたのだろう。

「エンノアに戻って来る際は、くれぐれも魔落には近づかないようにしてください」

「了解しました」

「それでは、お気をつけて」

「ありがとうございます。では、出発させていただきます」

 簡単に挨拶をすませ出入り口から離れる。傍らにはミレンさん。彼が麓まで道案内してくれることになった。自分ひとりでも下山はできるが、ミレンさんに案内してもらった方が楽に降りることができるということなので、厚意に甘えることになったというわけだ。

「コーキ殿、こちらです」

 俺を送った帰りにブラッドウルフのような魔物に襲われたらどうするのかと心配したのだけど、ブラッドウルフなどそうそう遭遇することもないし、たいていの魔物ならミレンさんはひとりで逃げることができると押し切られてしまった。

 正直言って少し心配だったのだが……。

 下りの道中は魔物に襲われることもなく、もちろん道に迷うこともなく、かなり楽に下りきることができた。ミレンさんのおかげだな。

 あとは、ミレンさんの帰りの道中が安全であることを願うばかりだ。




 オルドウの宿屋から日本に戻って来た俺はさっそく必要な物を購入するため店に出向こうと思ったのだが、あいにく日本はまだ午前5時。コンビニは開いているが、薬局などは閉まっている。

 この時期の俺はパソコンを持っていないし、スマートフォンも携帯電話も持っていない。というかこの時代、スマートフォンはまだ発売すらしていない。
 なので、ネットで購入などは問題外。
 店で直接購入するしかない。

 しばらく待機か……。

 朝の5時ということで、少し休もうかとも思ったが、エンノアで充分睡眠をとったあとなので眠気もない。

 そんなわけで、頭の中はエンノアのことで占められてしまう。

 あちらの世界の人々が、こちらと同じ人体構造、機能だと仮定するなら……。
 ビタミンの欠乏が病の原因だと思うんだよな。
 肉類中心の食事で最近は全く野菜を口にしていないのだから。

 おそらくは……壊血病。
 脚気ではないと思う。

 それなら、ビタミンCを定期的に摂取すれば改善するはず。
 ただし、問題は添加物などの化学物質。

 エストラルの人々が日常的に化学物質を摂取しているとは到底思えない。
 そんな人たちが化学物質を口にするとどうなるか?

 どうにもならないかもしれないが、非常に不安だ。

 なので、なるべく無添加、化学物質の含まれていないビタミンCを提供したい。
 一応、他のビタミン類も。

 そうとなると、大型の薬局に行くのが無難だろうな。

 そうそう、エンノアの集落に行く前にオルドウで野菜類も買っていく予定だ。18人も病人がいるので、すぐに消費されてしまうだろうけど、それでも一応買っておきたい。

 大量だな……。

 こんな時、無限に物を収納できるアイテムボックス的な何かがあれば便利なんだけど。
 あっちの世界では、魔道具として存在しているのかな?
 一度調べないといけないな。

 まっ、存在したとしても高価な物だろうから、今の俺には入手できないか。

 ……。

 無い物ねだりは止めておこう。

 さてと、一応ステータスの確認でもしておくか。



  有馬 功己 (アリマ コウキ)

レベル 2

20歳 男 人間

HP  121
MP  171
STR 201
AGI 138
INT 232

<ギフト>
異世界間移動  基礎魔法  鑑定初級 エストラル語理解

セーブ&リセット(点滅)

<所持金>  
2、160メルク

<クエスト>
1、人助け 済
2、人助け 済
3、魔物討伐 済
4、少数民族救済 未


<露見>

地球    2(点滅)/3
エストラル 0/3



 おっ!
 クエストが追加されているぞ。
 少数民族救済とはエンノアの病人を救うことだよな。

 すごいタイミングだ。
 というか、今回のクエストは具体的すぎる。

 ……。

 これは、神様こちらを見てますよね。

 神様とは限らないか、その使いの方とか。
 とにかく、こちらの事情を知っていなきゃ、このタイミングでこのクエストは無理じゃないだろうか。

 これは……。

 そう、掌の上で転がされている感覚。

 ……。

 ……。




*********************




 午前中から薬局、スーパーなどを数店舗回り、可能な限り化学物質が含まれていないビタミン剤を購入。その後、他の所用を済ませ、今はもう17時。

 12時間が経過しているので、今からオルドウの宿屋に飛ぶことはできる。今すぐ移動すれば、あちらの時間で9刻前(18時前)。

 そこからエンノアに行くのは可能。
 いや、ちょっと厳しいか?

 どうしたものかと、玄関に入ると。

「あれ、お兄ちゃん、お帰り」

「おっ……香澄か?」

 思わず出そうになった「若いな」という言葉を飲み込む。

「何言ってるの、わたしじゃなきゃ誰よ」

「ああ、そうだな」

 こいつは1歳下の妹、香澄。

 そういえば、この当時の香澄は大学1年生だよな。関西の大学に進学しているので、20歳に戻った俺はまだ顔を合わせていなかったんだ。
 大学の休みを利用して実家に里帰りか。

「いつ戻ったんだ?」

「さっき着いたばかり。母さんもいないし、この家誰もいなかったんだから」

「そっか、それは悪かった」

「あれ? なんか雰囲気変わった」

「……そうか」

 するどい。
 さすが実の妹だ。

「うん、うん、何かあったの?」

「何もないな。気のせいだろ」

「え~、そうかなぁ~」

「そうだ」

「絶対違うよ。だって、前まではわたしがこんな態度とったら、無視して部屋に戻ってたじゃん」

「……」

 うっ!
 そうだったかも。

 こいつ、俺が無視してもめげずに話しかけてきたんだよな。
 それも、このあと数年の話だったけど。

「だ~か~ら、何かあったでしょ」

 そんな口調で下から見上げてくる。
 あざといし、鬱陶しい。

「何もない。じゃ、部屋に行くぞ」

「ほら~、前はそんなことも言わずに黙って部屋に入ってたのに」

「……」

 だめだ、距離感がつかめない。




感想 11

あなたにおすすめの小説

ひだまりのFランク冒険者

みなと劉
ファンタジー
ここは異世界。 そこの冒険者ギルドでは毎日仕事がてんこ盛り。 そんな中 冒険者ギルドには万年Fランクの冒険者が一人いる。 その名は、リルド。 彼は、特に何もない感じに毎日 「薬草採取」「石集め」Fランク向け「討伐」場合によっては「ポーション生成」をする。 この話はこの万年Fランク冒険者リルドの物語である。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

[完]異世界銭湯

三園 七詩
ファンタジー
下町で昔ながらの薪で沸かす銭湯を経営する一家が住んでいた。 しかし近くにスーパー銭湯が出来てから客足が激減…このままでは店を畳むしかない、そう思っていた。 暗い気持ちで目覚め、いつもの習慣のように準備をしようと外に出ると…そこは見慣れた下町ではなく見たことも無い場所に銭湯は建っていた…

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達より強いジョブを手に入れて無双する!

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚。 ネット小説やファンタジー小説が好きな少年、洲河 慱(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りに雑談をしていると突然魔法陣が現れて光に包まれて… 幼馴染達と一緒に救世主召喚でテルシア王国に召喚され、幼馴染達は【勇者】【賢者】【剣聖】【聖女】という素晴らしいジョブを手に入れたけど、僕はそれ以上のジョブと多彩なスキルを手に入れた。 王宮からは、過去の勇者パーティと同じジョブを持つ幼馴染達が世界を救うのが掟と言われた。 なら僕は、夢にまで見たこの異世界で好きに生きる事を選び、幼馴染達とは別に行動する事に決めた。 自分のジョブとスキルを駆使して無双する、魔物と魔法が存在する異世界ファンタジー。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つ物なのかな?」で、慱が本来の力を手に入れた場合のもう1つのパラレルストーリー。 11月14日にHOT男性向け1位になりました。 応援、ありがとうございます!